44.ささやかな願い
夕方になり、夜営の準備を始める兵士達。次の町に到着するのは2日後の予定らしく、明日も夜営を行う事が確実で、栗山はゲンナリした顔をする。
「でも、王宮の騎士様がいらっしゃるのだから、夜は安心ですよ」
夜は直ぐに寝てしまって、何もしたことがないコレットが言う。栗山は苦笑いをするしか出来ず、夜営の準備を始める。
しかし、テントを組み立てるも、誰一人として手伝う事はせず、4人は周囲を警戒するような素振りを見せながらサボっていた。まぁ、これはいつもの事なので気にしても無駄だと思いながら4人の食事を作り始める。
本来であれば、栗山は客人として呼ばれているため、王宮側で準備をするのだが、奴隷に食べさせる食事は無いと騎士は言う。その事を4人に話す事ができないため、栗山は騎士の食事を断り、自分で作ることになったのである。
食事が終わり、4人はいつものように木剣で接近戦の練習を始める。練習と言っても、ゆっくりと剣を動かして攻撃の流れを身体にしみこませるといったやり方である。これが本当に役に立つのかどうかは分からないが、やらないよりは良いのではないかと思う。酒場で酒を食らっていた冒険者に習ったそうだ。焦って動かすより、ゆっくりとやった方が良いと。
酔っ払いの言うことでも、自分達よりもベテランなのは間違いない。チヒがそう言ったので4人は実戦している。
こっそりと聞いたのだが、最近、身体が重くなってきたと4人は思ったらしく、ダイエットをかねてやっているというのは知らない振りをしておこう。
夜も更けると、4人はテントに入って行き、寝る準備を始める。王宮から迎えに来た兵士達は不寝番を決めているらしく交代で警備を行うらしい。ある程度時間が過ぎたら栗山も寝袋に入って寝ることにしたのだった。
翌朝になり、兵士達は朝食の準備と移動の準備を始める。栗山はいつものようにアラームを止めて目を覚まし、4人の朝食を作り始める。
正直に言うと、兵士達は白い目で栗山達を見ている。多分、奴隷が未だに寝ていて、主人である栗山が朝食を作っていることに対しての事なのだろう。朝食が作り終わる間際に4人が起き始め、袋から水が入ったペットボトルを取り出し顔を洗う。栗山にとっていつもの光景で、別に気にすることもないのだが、離れていた場所から見ていた騎士が納得できずに4人の側に近寄り、大きな声を出して怒鳴った。
「お前達!! いったい何様だ!!」
突然の事で4人は驚くが、相手は王宮の騎士。身分の違いがあり、慌てて背筋を伸ばして横一列に並んでしまう。何故いきなり怒られているのか……4人は全く分からない。隣にいる者に確認しようとしたが、騎士は言葉を続ける。
「お前等の身分はなんだ!! 奴隷のくせに主人だけ働かせているというのはどういう了見だ!」
「ちょっと待って下さい、これは俺が勝手にやっていることなんで、気にしないで下さい」
騒ぎに気が付いた栗山が側により、騎士に説明を始める。だが、納得ができない騎士は栗山に食って掛かる。何故騎士が自分達に怒っているのか理解したのだが、今更何をやっても火に油を注ぐだけなので黙って直立不動で見守るしかないのであった。
騎士と栗山の言い合いは、他の兵士が止めるまで暫く続く。終わってから食事のため、皆は慌てて食事をして出発する。
「……ごめんなさい」
栗山が車に乗り込むと、助手席に座っていたチヒが申し訳なさそうに謝ってくる。室内ミラーで後部座席に座っている3人を確認すると、3人とも俯き落ち込んでいるように見受けられる。
「別にお前達が何かをした訳じゃないだろ。謝るのなら、彼奴等を見返してやれよ。それに、お前達は剣の練習とかもやっているんだ。何もしていない訳じゃない。俺が王宮で話をしている間、お前等はギルドでも行って何か依頼を来なしてくれば良い。もしくは、1日で魔物を倒した最高の数を確認し、お前等がそれを更新したら……一目置かれる奴隷になるんじゃないか?」
『記録の更新』実際、ブルネリアの町では魔物の討伐レコードを更新しており、町に滞在している冒険者の間では、4人を知らない者は少ない。
多くの冒険者は4人の事は奴隷だと知っているのだが、栗山同等4人を奴隷のように扱いはしない。
彼女達は町のレコードホルダーだからである。いくら奴隷だからと言っても、実力は自分達よりも上であり、彼女達に助けられた冒険者も多い。
奴隷だから助けるのが当たり前……ではない。彼女達は栗山の奴隷なのだ。栗山の指示がない限り人を助ける事は許されない。何故なら、奴隷とは主人のために命をかけなければいけないからである。しかし、それを無視してまで他人を助けるという事に皆は敬意を払っているのだった。
だが、他の冒険者は助けられた事を栗山に報告することは無い。それは、彼女達が叱られてしまう可能性があるから……。と言っても、助けた事を栗山が咎めることは無い。
窓を開け空気の入れ替えを行う栗山。
突然窓が開き4人は声を上げて驚く。
見るもの全てが初めてなので仕方はないが、もう少しだけ大人しくして欲しいと思いながら車を走らせるのだった。
特に何かが起こる事はなく、5日程で王都に到着する。王都に到着後、4人は宿屋へ向かうため車から降りようとすると、栗山が無線機を渡す。
王都へ向かう途中に使い方を説明してあるため問題は無いのだが、悪戯をさせないためチヒに持たせることにし、栗山は馬車に乗り換え王宮へ向かう。
「別に悪戯なんてしないのに……」
頬を膨らませながらブツブツ文句を言うコレット。3人は笑いながら「分かってるって」と言い自分達の居る場所を改めて確認する。
王都サレトリスはブルネリアの町よりも広く、賑やかで華やかだ。遠くには大きい城が見え、4人は唾を飲み込む。
まさか自分達が王都に来られるなんて思ってもいなかった4人。町を見学しながら宿屋を探すのだった。
馬車に揺られながら外を眺める栗山。何処の町へ行っても代わり映えしない建物ばかりだと思いながら眺めていると、騎士が話し始める。
「もう少し躾をしたらどうなのだ」
「余計なお世話だと思いますが? 別に、彼女たちが貴方方に何か迷惑を掛けた訳ではないですよ」
「まぁ良かろう。田舎冒険者に何を言っても無駄だろうからな……。城に着いたら王に謁見してもらう。そこで、どうやって竜を倒したのか説明して貰う」
「……分かりました」
素っ気ない態度を取りながら栗山は答え、外を眺める。暫く馬車を走らせていると城門が見え、馬車は城門を潜り奥へ進んでいくと停車する。騎士は降りるように言うと、栗山は面倒くさそうに馬車から降りていく。そして、兵士達が守っている扉を潜っていくと、まるで映画のセットのような光景が目の前に広がる。
「でけぇ……」
明かりはどうやって点けているのか分からない。だが、蝋燭の火ではないというのは分かる。後で誰かに聞けば良いと思いながら侍女に連れられ、客室のような場所へ案内され、そこで待つよう指示される。
室内では豪華なソファーが置いてあり、呼ばれるまでの間は暇なので座って待っていると、執事っぽい人が飲み物を出し、栗山はそれに口を付け喉を潤す。
だが、それ以上やることがなく呼ばれるまで暇を持て余すのであった。
それから1時間ほど時間が過ぎ、ようやく呼ばれ、デカい扉の前まで連れて行かれる。
「この奥に陛下がおられます。申し訳ありませんが、武器を中に持っていくことは禁止されておりますゆえ、ここで預からせて頂きます」
確かに、どのような輩が王の命を狙っているのか分からない。栗山は持っていた武器を袋の中に入れ兵士に渡す。
「くれぐれも粗相がないようにお願い致します」と兵士は言い、扉を開ける。その先にはレッドカーペットが敷かれてあり、2人の兵士が案内役として立っている。その先には、五段ほどの階段があり、見下すかのように王が玉座に鎮座していた。
栗山は2人の兵士に連れられるように奥へと進み、階段手前で立ち止まるよう言われたので立ち止まった。この世界での礼儀作法など知るはずがない栗山。どうして良いのか分からずただ突っ立っていると、兵士が膝をついてしゃがむよう言うので、その指示に従い片膝を付いてしゃがんだ。
王の隣にいる男……大臣か何かだと思われる男が王に耳打ちをする。
「……面を上げ名を申せ」
王が低い声で言い、隣に座っていた兵士が顔を上げて名前を言えと言い、栗山は名を名乗る。
「クリヤマと申すのか……。此度、古代竜を倒したという話であったが、本当なのだろうな?」
「……はい」
「――して、どのように古代竜を倒したというのだ? お主一人で倒せるようには思えぬ」
「はい、私一人で倒したのではなく、私に仕えてくれている4人の女性がいたから倒せたのです。彼女等の力なくして私はドラゴン……古代竜を倒すことはできませんでした」
栗山が言い終えると、王の隣に立っていた男が耳打ちをし、王は眉間に皺を寄せる。
「なるほど、貴様が飼っている奴隷か……」
イラッとする気持ちを抑え、何も喋らず黙っている。
「その者等を囮に使い、古代竜を仕留めた……そういう事か?」
「いえ……。彼女たちは脅える私に勇気を与えてくれました。私一人であれば、町を放り出して逃げていたことでしょう。ですが、彼女たちは町の人々を誘導し、安全な場所へと避難をさせました。多くの命が救われたのは彼女たちの手柄だと、私は思います……」
王は「なるほど」と一言呟き、少し考える素振りを見せる。
「何にせよ、貴公には町を救ったことと、古代竜を倒したと言うことで何か褒美を与えようと思う。なんでも申してみよ……」
「……なんでも……宜しいのでしょうか……」
栗山が聞き直すと、一瞬だけ部屋の空気が張り詰めたのが分かる。領土が欲しい、爵位を寄こせ、金が欲しい……。周りに居る者はこのどれかだと思っている。
「うむ。なんでも申してみよ。儂ができる範囲であれば、なんでもしてやろう……」
「で、では……。私に仕えている4人の奴隷解放……これをお願いできませんか」
全員がキョトンとした顔で栗山を見る。富や名声ではなく、奴隷の解放。
実は、奴隷の解放はできるのである。しかし、その事を栗山は知らない。誰にも教わっていないからだ。ただ分かっていることは、奴隷には身分なんて物がなく、縛りがあると言うだけである。
「そ、それで……本当に良いのか?」
キョトンとした顔で王が言うと、栗山は真剣な目で頷く。
本当にそれで良いの? 奴隷商のところへ連れて行き、お金を払えばできるのに……と、ヒソヒソ周りは話しているが、栗山に聞こえているはずはなく、隣にいる兵士も冗談だろ? と、いった顔で栗山を見ていた。
「よ、良かろう……それでは4人を解放させる手続きを儂の方で受け持ってやろう。あとは他の者から話を聞くが良い。それと、今夜は古代竜を倒した貴公のために、舞踏会を催す予定となっておる。貴公に使えている4人を本日中に解放し、参加させるが良い」
「あ、ありがとうございます」
深々と頭を下げ、栗山は喜びたい気持ちを抑える。
再び客室へ案内され、ソファーに座って待っていると、王の隣に立っていた男と、数名の騎士が客室へやってきたので栗山は立ち上がり頭を下げた。
悪い印象を持たれ、奴隷解放の話が無かったことにされたら困ってしまうから。
「こ、この度は……あ、ありがとうございます!」
「苦しゅうない、それではこれから褒美を貴様にくれてやる。ありがたく受け取るが良い」
偉そうに男が言い、栗山は先程と同じ様に膝を付き言葉を待つ。4人が奴隷解放されるのであれば、プライドなんて安いものである。
男は一通り説明をして、勲章と奴隷解放の書類を栗山に渡す。
「これからも我が国のために尽力せよ」
そう言って部屋から出て行き、栗山は受け取った書類を胸に抱いて喜びを噛み締めた。




