顔見せ
俺はアルトの願いを聞いて酒場に来ていた。
変身して行ってくれとお願いされたので、『マエダ』姿で酒場にいるのだが目立ってしょうがない。
今回は顔見せのみだと言うので壁にもたれ腕を組みそれと無く観察してみるが、興味本位の眼が多すぎて把握出来ないなこりゃ。
大事な交渉の一環なので大人しく時が過ぎるのを待っていたんだが・・・どうも先程から物陰でごたごたしているのが気になる。
男と女が言い争いをしているのか?・・・あっ・・・殴られた・・・男が?・・女強いな・・・髪引っ張られてるし・・・その人少ないじゃん!・・やめたげて!・・・他の奴らは・・・見て見ぬふりかよ!情けねえ奴等ばっかりだな。
「ああっ!くそっ」
ほっとけねえ!アルトには悪いが少し本筋を外させてもらう。
俺は無造作に女に近づき、男の髪を掴む腕を人差し指で軽く突く、女は弾かれたように髪から手を離す。その顔は驚愕に満ちている(不思議がってるな)その気持ちも当然だろう、腕が自分の意思と関係なく動いたんだからな。
森の家で読んだ人体急所図鑑は本物みたいだな・・・いいのか?あんなもんが出回ってて?
まあそれはさておき
「その辺で止めとけ」
「何あんた?事情を分かって口を出してんの?」
・・・成程、誰も間に入ろうとしない訳だ。見惚れる程の美人だが、発する気配がヤバい。
素人でもコイツの強さを感じ取れるレベルだな。
「事情は知らん、だがここは酒場だ。剣呑な騒ぎより健全な騒ぎの方が楽しいだろ?ここは俺が奢るから怒りを収めて一杯どうだ?」
「ふん、あんたもコイツみたいに酒に薬を入れて、あたしに何かしようってんじゃないの!?」
「俺という存在より強い薬があるとは知らなかったな」
「ぶっ!はははは!あんた面白い男だね、強いし!気に入ったよ」
お・・・面白いだと!?俺の最高の決め台詞だぞ!?・・・。
「お前が俺を気に入っても、俺はお前が気に入らねえ!俺と飲み勝負しろ!俺が勝ったら」
「勝ったら・・・なんだい?」
俺の話を断ち切り、女の気配が再び危険な空気を纏う
「俺が勝ったら面白い男じゃなくて渋い男と訂正しな」
人差し指を立て、チッチッと指を左右に揺らす・・・決まった!
「~~!・・・ああ分かった。なら、あたしが勝ったらあんたは一日あたしの言いなりだ!」
「どんと来いや!」
なんだ今の吹き出しそうなのを取り繕いましたみたいな顔は!?・・気に入らねぇ、気に入らねえなあ!
・・・まあいい、俺には必勝の策があるからな。直ぐに訂正させてやる!
負けられない男と女の勝負の始まりである。
「じゃあ始めるよ?」
「待て」
酒場らしい雰囲気が戻ってきて野次馬連中も近づいて来た。
ここは一つ大きく盛り上げておこう、俺を確認に来た男が何処で見てるか分からないらな、つい熱くなっちまったが逆にこの流れを利用してやる。
「お前は既に飲んでるんだろ?」
「ああ」
「マスター!酒樽一つ持って来てくれ!」
(おおっ)(まさか・・・)
周りがざわめく中、俺は酒樽の蓋を叩き割り片手で持ち上げ一気に飲み干した!
大歓声が俺を包む、女はニヤリと不敵な笑みを讃えると
「マスター!あたしにも樽一つ頂戴!」
再び沸き上がる大歓声の中で、水でも飲みように簡単に飲み干す女・・・だが!
(掛かったな!)この時点で俺は勝ったようなものだ!酒はアルコールという毒だと読んだ事がある ・・・なりゃば俺なりゃきゃんたんにどきゅを消せりゅはじゅだ!
「マシュター!酒樽ちゅいかで!」
きゅきゅきゅっ!こにょケイジしゃまに勝ちょうにゃどあみゃいわ!・・・
―――っ!
急速に頭が冴える、何とか体のアルコールは消え去ったか・・・アルコールとはあんなに回りが早いものなのか・・・迂闊だった。
暫く意識を失っていたようだな・・・ここは酒場ではないな?何処だ?
「眼が覚めた?」
「・・・驚いたな、隠形も使えるのか?」
「こそこそ動かなきゃならない事が多くてね・・・こんな話しは面白くないだろ?あたしとの約束覚えてる?」
「―――ああ、俺の負けだ。好きに使え」
「じゃあ遠慮なく」
「っ~~待てっ!何処を触ってる!?何をする気だ!?」
「あら?S○Xしかないじゃない?あたしの処女をあげるんだから光栄に思って欲しいわね」
「重いよっ!?待て待て落ち着けっ!他の事なら何でも力になってやるぞ?・・・どうだ?」
「約束は別としてあげてもいいけど、話は通ってる筈よね?あんた占い師の仲介で来た男の中の男なんでしょ?」
「お前が貴族の!?・・・男だと聞いていたが」
「貴族様が顔は出せないでしょ?あたしは品定め役ってわけ、あんたが相応しくない相手なら占い師君が上のお口で貴族様のお相手する事になってるわ」
「は?はあああああああ!?」
(アルト~~~!聞いてねえ、聞いてねえぞ!貴族様がホ○なんて聞いてねえぞ!!)
落ち着け俺!用意された選択肢は二つ、目の前の処女を奪って俺の尻を奪われるか、目の前の処女を守ってアルトの口を汚すのか・・・どっちも駄目だろ!?
・・・相手の選択肢が駄目なら俺が選択肢を作ってやる!
「あんた名前は」
「・・・アムネジア」
「俺は『マエダ』だ。いいかアムネジア、貴族様は男が好き、そうだな?」
「ああ、正確には両方好き」
「(ひぇ~~!マジか?)貴族で両刀なら自らの身分と性別が邪魔して身動きが取れない事もあるだろ?」
「・・・そうね」
「なら俺という『存在』を貴族様にやるよ」
「どういう意味」
俺は変身を解く為のキーワードを口にする。
「旦那~~~!」
俺の姿は本来の『ケイジ』に戻る。
「っ!・・・そんな馬鹿な!?魔法を使った形跡は無かったのに!?」
「魔法じゃ無く超越した技術だよ。人体を全く別人に出来る。魔法で誤魔化すわけではなく、完全に別の存在になるんだ。俺の尻と変身道具、貴族様がどちらを欲しがるか、言うまでも無いよな?」
「・・・そうね、だけどあんたが喋れば意味無いんじゃない?」
「はっ!俺は男と見込まれたんだろ?ならお前の眼を信じろよ・・・と言いたいが、それだけでは不安だろ?だからアムネジアが信頼出来るに足る依頼を幾つか俺に出せ。言っとくが性的なものと悪逆非道なものは受け付けないからな」
「―――!いいだろう、依頼は一つ・・・あたしに雇われなさい」
「あんたの言う事を聞くのは『俺が出来る範囲』になるがいいのか?」
「構わない!」
「契約成立だな」
俺達は固い握手を交わす。
・・・レアのお陰で助かったな・・・勝手に道具をあげた事も謝らないと・・・
そしてなにより
説明不足なアルトにお仕置きしなくちゃなあ!!!
俺の尻は守られた・・・本当に良かった。




