9話 無銃区画
その場所には、音がなかった。
構造体が作り出した特殊区域。
名を「無銃区画」。
そこではあらゆる火器が機能しない。
火薬は燃えない。
電子制御は停止する。
銃という存在そのものが、拒絶される領域。
「嫌な場所だな」
NUTCRACKERが周囲を見る。
彼の手には、いつものショットガン。
しかし。
引き金を引いても、何も起きない。
「なるほど」
NUTCRACKERは笑った。
「銃を殺す場所ってわけか」
FOURBEATは静かに自分の銃を見る。
改造されたベレッタ1915。
四丁の相棒。
だが。
今はただの金属の塊だった。
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「どうする?」
NUTCRACKERが聞く。
「撤退するか?」
FOURBEATは銃をしまう。
「必要ない」
「使えねぇぞ」
「知っている」
その瞬間。
周囲の壁が開く。
構造体の戦闘兵。
武器ではなく、近接戦闘用に最適化された個体。
数十体。
「銃なしでやれってことか」
NUTCRACKERが笑う。
「面白ぇ」
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敵が迫る。
NUTCRACKERが前へ出ようとする。
しかし。
FOURBEATが先に動いた。
いつもの銃撃ではない。
静かな歩み。
敵の攻撃を最小限の動きで避ける。
一体目。
腕を取る。
関節を崩す。
二体目。
距離を詰める。
倒す。
その動きには、銃を使う時と同じ正確さがあった。
「……なるほどな」
NUTCRACKERが呟く。
「銃が本体じゃなかったのか」
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FOURBEATの靴から、小さな刃が現れる。
そして両手。
左右に一本ずつ。
合計四本のナイフ。
「四本?」
NUTCRACKERが笑う。
「お前、どこまで四にこだわるんだよ」
FOURBEATは答えない。
ただ敵を見る。
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戦場が変わる。
今までのFOURBEATとは違う。
遠距離から全てを支配する死神ではない。
敵の懐へ入り込む暗殺者。
一瞬の隙。
一撃。
また一撃。
四本の刃が、音もなく敵を切り裂く。
「銃がなくても変わらねぇな」
NUTCRACKERは笑う。
「いや」
FOURBEATは敵を倒しながら言う。
「変わっている」
「何が?」
「距離が近い」
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最後の敵が倒れる。
無音の区域に、初めて足音だけが響く。
NUTCRACKERは煙草に火をつけようとする。
しかし、ライターも機能しない。
「徹底してるな」
「構造体は武器を否定している」
「ならよ」
NUTCRACKERはFOURBEATを見る。
「お前自身は否定できねぇってことだ」
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二人は無銃区画の中心へ進む。
そこには、構造体の記録装置があった。
表示される文字。
『対象FOURBEAT』
『戦闘形式変更』
『予測不能』
FOURBEATは画面を見る。
「……」
「どうした?」
NUTCRACKERが聞く。
「初めてだ」
「何が」
「俺の戦いを、理解できない存在がいる」
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構造体は学習している。
二人の戦い方を。
二人の関係を。
そして。
最後に必要となる“音”を探している。
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無銃区画を抜けた後。
FOURBEATは銃を取り出す。
まだ使えない。
だが、手入れを始める。
NUTCRACKERが聞く。
「大事なのか、それ」
FOURBEATは答える。
「……ああ」
初めてだった。
彼が自分の武器について、迷わず答えたのは。
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死神は銃を失い。
鬼はその姿を見た。
戦うための道具ではなく。
その人間そのものが武器なのだと。
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第9話 終




