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四拍の円舞曲  作者: 石山
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9/12

9話 無銃区画

 その場所には、音がなかった。


 構造体が作り出した特殊区域。


 名を「無銃区画」。


 そこではあらゆる火器が機能しない。


 火薬は燃えない。


 電子制御は停止する。


 銃という存在そのものが、拒絶される領域。


「嫌な場所だな」


 NUTCRACKERが周囲を見る。


 彼の手には、いつものショットガン。


 しかし。


 引き金を引いても、何も起きない。


「なるほど」


 NUTCRACKERは笑った。


「銃を殺す場所ってわけか」


 FOURBEATは静かに自分の銃を見る。


 改造されたベレッタ1915。


 四丁の相棒。


 だが。


 今はただの金属の塊だった。


---


「どうする?」


 NUTCRACKERが聞く。


「撤退するか?」


 FOURBEATは銃をしまう。


「必要ない」


「使えねぇぞ」


「知っている」


 その瞬間。


 周囲の壁が開く。


 構造体の戦闘兵。


 武器ではなく、近接戦闘用に最適化された個体。


 数十体。


「銃なしでやれってことか」


 NUTCRACKERが笑う。


「面白ぇ」


---


 敵が迫る。


 NUTCRACKERが前へ出ようとする。


 しかし。


 FOURBEATが先に動いた。


 いつもの銃撃ではない。


 静かな歩み。


 敵の攻撃を最小限の動きで避ける。


 一体目。


 腕を取る。


 関節を崩す。


 二体目。


 距離を詰める。


 倒す。


 その動きには、銃を使う時と同じ正確さがあった。


「……なるほどな」


 NUTCRACKERが呟く。


「銃が本体じゃなかったのか」


---


 FOURBEATの靴から、小さな刃が現れる。


 そして両手。


 左右に一本ずつ。


 合計四本のナイフ。


「四本?」


 NUTCRACKERが笑う。


「お前、どこまで四にこだわるんだよ」


 FOURBEATは答えない。


 ただ敵を見る。


---


 戦場が変わる。


 今までのFOURBEATとは違う。


 遠距離から全てを支配する死神ではない。


 敵の懐へ入り込む暗殺者。


 一瞬の隙。


 一撃。


 また一撃。


 四本の刃が、音もなく敵を切り裂く。


「銃がなくても変わらねぇな」


 NUTCRACKERは笑う。


「いや」


 FOURBEATは敵を倒しながら言う。


「変わっている」


「何が?」


「距離が近い」


---


 最後の敵が倒れる。


 無音の区域に、初めて足音だけが響く。


 NUTCRACKERは煙草に火をつけようとする。


 しかし、ライターも機能しない。


「徹底してるな」


「構造体は武器を否定している」


「ならよ」


 NUTCRACKERはFOURBEATを見る。


「お前自身は否定できねぇってことだ」


---


 二人は無銃区画の中心へ進む。


 そこには、構造体の記録装置があった。


 表示される文字。


『対象FOURBEAT』

『戦闘形式変更』

『予測不能』


 FOURBEATは画面を見る。


「……」


「どうした?」


 NUTCRACKERが聞く。


「初めてだ」


「何が」


「俺の戦いを、理解できない存在がいる」


---


 構造体は学習している。


 二人の戦い方を。


 二人の関係を。


 そして。


 最後に必要となる“音”を探している。


---


 無銃区画を抜けた後。


 FOURBEATは銃を取り出す。


 まだ使えない。


 だが、手入れを始める。


 NUTCRACKERが聞く。


「大事なのか、それ」


 FOURBEATは答える。


「……ああ」


 初めてだった。


 彼が自分の武器について、迷わず答えたのは。


---


 死神は銃を失い。


 鬼はその姿を見た。


 戦うための道具ではなく。


 その人間そのものが武器なのだと。


---


第9話 終

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