10話 鬼の戦場
雪が降っていた。
白く染まった廃都市。
かつて軍の補給拠点だった場所は、今では構造体に占領された無人区域になっていた。
今回の任務は単純だった。
敵施設への侵入。
内部情報の回収。
そして帰還。
ただ一つ、いつもと違うことがある。
FOURBEATはいない。
「珍しいな」
NUTCRACKERは一人で歩いていた。
腰に銃はない。
背中にも武器はない。
持っているのは、いつものモッズコートだけ。
敵兵が監視カメラ越しに彼を見る。
武装確認。
結果。
なし。
構造体は判断する。
『脅威度……低』
その判断が間違いだった。
施設内部。
警備兵がNUTCRACKERの前に立つ。
「止まれ」
銃を向ける。
NUTCRACKERは止まらない。
「聞こえなかったのか?」
兵士が怒鳴る。
その瞬間。
NUTCRACKERの姿が消えた。
正確には、一歩踏み込んだだけ。
次の瞬間には、兵士の懐にいる。
腕を掴む。
体勢を崩す。
床へ叩きつける。
銃が落ちる。
拾わない。
必要ない。
構造体は困惑する。
『戦闘パターン解析』
『該当なし』
『予測不能』
NUTCRACKERの戦いには、決まった型がなかった。
効率。
理論。
最短距離。
そんなものは存在しない。
ただ、その瞬間に最も生き残れる動きをする。
それだけだった。
施設の奥。
巨大な機械兵が待っていた。
前回の戦闘データを基に作られた対人兵器。
相手は分析済み。
FOURBEATのような精密型ではない。
ならば対応できる。
そう計算されていた。
『対象確認』
『近接戦闘型』
『排除開始』
機械兵が拳を振るう。
NUTCRACKERは避ける。
次の攻撃。
また避ける。
だが、反撃しない。
「……」
笑っている。
「なぁ」
NUTCRACKERは機械兵へ言う。
「お前らは、本当に戦場を知らねぇな」
機械兵が動きを止める。
「戦場ってのはよ」
一歩近づく。
「強い奴が勝つ場所じゃねぇ」
拳を握る。
「最後まで立ってる奴が勝つ場所だ」
その瞬間。
NUTCRACKERが突っ込む。
機械兵の攻撃を受ける。
普通なら骨が砕ける一撃。
だが。
倒れない。
痛みに耐える。
距離を詰める。
装甲の隙間へ拳を叩き込む。
一度。
二度。
三度。
巨大な機械が揺れる。
戦闘終了。
雪の中で、NUTCRACKERは煙草に火をつけた。
そこへ通信が入る。
『帰還したか』
FOURBEATの声。
「なんだ、心配してたのか?」
「違う」
「そうかよ」
NUTCRACKERは笑う。
そして、ふと思い出したように言う。
「なぁ」
「何だ」
「お前さ」
少し間を置く。
「うちの相棒は華奢だが、それでもお前らよりマシな動きするぜ」
近くにいた敵兵の残骸を見る。
FOURBEATが少し沈黙する。
「……褒めているのか」
「さぁな」
通信が切れる。
雪の中。
鬼は一人で歩く。
しかし。
もう一人ではなかった。
離れていても。
互いの存在が戦場に残っている。
その頃。
構造体は新たな記録を開始していた。
『対象FOURBEAT』 『対象NUTCRACKER』
『二名による戦闘結果』
『単独時より高性能』
構造体は理解し始める。
二人の強さは、それぞれの能力ではない。
二つの異なる音が重なること。
それこそが。
最後の鍵になる。
第10話 終




