8話 砂戦
砂煙が舞っていた。
見渡す限りの荒野。
かつては軍事基地だった場所も、今では崩れた建物と無数の残骸だけが残っている。
構造体が支配する区域。
そこには、通常の戦場とは違う法則が存在していた。
通信は不安定。
視界は砂で遮られる。
機械兵は地形を利用し、完璧な配置で迫ってくる。
「面倒な場所だな」
NUTCRACKERはハマーのボンネットに座り、煙草に火をつけた。
砂嵐の中でも、その姿は変わらない。
黒いモッズコート。
戦場用に改造された装備。
そして、楽しそうな表情。
「楽しそうだな」
FOURBEATが言う。
「戦いやすいからな」
「視界が悪い」
「だからいい」
NUTCRACKERは笑う。
「見えないなら、感じればいい」
二人は構造体の中枢へ向かっていた。
目的は、敵の戦闘データの破壊。
しかし、砂漠の中央で大量の機械兵が現れる。
数。
数。
また数。
まるで砂そのものが敵になったようだった。
「俺が前に出る」
NUTCRACKERが言う。
「非効率だ」
「そうか?」
彼はショットガンを構える。
「俺には効率より、やりやすさが大事なんでね」
爆音。
NUTCRACKERが突撃する。
砂煙の中へ消える。
普通なら自殺行為。
だが。
彼は戻ってくる。
一体。
二体。
三体。
敵の数が減っていく。
銃撃。
格闘。
拾った武器。
その場にある全てを利用する。
戦い方に型はない。
しかし、だからこそ読めない。
一方。
FOURBEATは後方から戦場を見ていた。
NUTCRACKERの動き。
敵の配置。
砂の流れ。
全てを分析する。
そして理解する。
彼の戦いは無秩序ではない。
ただ、自分だけの法則で動いている。
「……」
FOURBEATは少しだけ目を細めた。
突然。
砂の中から巨大な機械兵が出現する。
構造体が作り出した戦闘用個体。
通常の兵器とは違う。
巨大な腕。
高速演算。
攻撃パターンの予測。
NUTCRACKERへ向かって拳が振り下ろされる。
「遅いな」
NUTCRACKERは笑った。
避ける。
ではなく。
踏み込む。
攻撃の内側へ入り込む。
そして、巨大な機械の関節へショットガンを叩き込む。
爆発。
機体が崩れる。
戦闘後。
砂煙が少しずつ晴れていく。
NUTCRACKERは煙草を咥えたまま立っていた。
傷だらけ。
だが、笑っている。
「終わったな」
FOURBEATが近づく。
「無茶をする」
「お前ほどじゃない」
「俺は計算している」
「俺もしてるさ」
「何を」
NUTCRACKERは答える。
「生き残れるかどうか」
ハマーへ戻る二人。
夕日が砂漠を赤く染める。
しばらく沈黙が続く。
やがてFOURBEATが呟いた。
「……意外と悪くない」
NUTCRACKERが振り返る。
「何が?」
「この戦場だ」
一瞬の沈黙。
そして。
NUTCRACKERは大声で笑った。
「お前、少しだけ人間になったな」
「意味が分からない」
「それでいい」
ハマーは砂煙の中を進む。
静かな死神。
笑う鬼。
二人の戦い方は、もう完全に一つの形になっていた。
しかし。
遠くで構造体は記録していた。
二人の戦闘。
二人の関係。
そして。
まだ知らない最後の結末を。
第8話 終




