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四拍の円舞曲  作者: 石山
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6話 生活侵食

戦場で生きる者にとって、拠点とはただの場所ではない。

 次の戦いへ向かうための、わずかな静寂。

 FOURBEATはそう考えていた。

 しかし、その考えは数日後に崩れることになる。

 帝都外縁。

 FOURBEATが一時的に使用していた隠れ家。

 そこは必要最低限の物しかなかった。

 椅子。

 机。

 武器の整備道具。

 それだけ。

 彼にとって、暮らす場所とはそれで十分だった。

 だが。

「ここ、引き払うぞ」

 NUTCRACKERが突然言った。

 FOURBEATは銃の整備を止める。

「理由は」

「見つかった」

 短い答え。

 それだけで十分だった。

 追跡されている以上、同じ場所に留まる意味はない。

「移動する」

「いや」

 NUTCRACKERは笑う。

「今回は違う」

 向かった先は、NUTCRACKERが以前から使っていた拠点だった。

 古い倉庫を改造した住居。

 外には二台の車が並んでいる。

 一台はFOURBEATのクラシックカー。

 もう一台は、NUTCRACKERのハマー。

 正反対の車。

 正反対の二人。

 それでも不思議と違和感はなかった。

「今日からここが家だ」

 NUTCRACKERが言う。

「家?」

 FOURBEATはその言葉を理解できないように繰り返した。

「そうだ」

「必要ない」

「必要ある」

 NUTCRACKERは即答する。

「寝る場所くらい持て」

 FOURBEATは黙る。

 反論はしなかった。

 夜。

 珍しく戦闘のない時間。

 NUTCRACKERは棚から一本の酒瓶を取り出した。

「飲むか?」

 FOURBEATを見る。

「俺は酒はやらん」

 即答。

 NUTCRACKERは笑った。

「ビビってんのか?」

 FOURBEATの目がわずかに動く。

「バカ言うな」

「じゃあ飲み比べと行こう」

 差し出されたグラス。

 中身はアードベッグ。

 強い香り。

 荒々しい味。

 NUTCRACKERらしい酒だった。

 FOURBEATは少しだけ見る。

「……」

「逃げるのか?」

「ふ」

 ほんの少し。

 口元が緩む。

「たまには付き合ってやろう」

 数時間後。

 静かな倉庫に二人の声だけが響いていた。

 NUTCRACKERは楽しそうに笑う。

「お前、本当に変な奴だな」

「お互い様だ」

「初めて意見が合ったな」

 FOURBEATは返事をしない。

 だが、以前のように完全な無関心ではなかった。

 翌朝。

 FOURBEATは車の整備をしていた。

 NUTCRACKERはハマーの横で煙草を吸っている。

「なぁ」

「何だ」

「悪くないだろ」

「何が」

「こういうの」

 FOURBEATは手を止める。

 並んだ二台の車を見る。

 戦うための場所。

 休むための場所。

 そして、自分以外の誰かがいる場所。

「……悪くない」

 NUTCRACKERは笑った。

「また言ったな、それ」

「何が」

「お前の褒め言葉」

 戦場では、敵と味方しか存在しなかった。

 だが今。

 二人の間には、そのどちらでもない関係が生まれていた。

 死神と鬼。

 静かな男と、騒がしい男。

 交わるはずのない二つの存在が、

 少しずつ同じ場所に馴染み始めていた。

第6話 終

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