4話 車
物流区画を抜けた二人は、帝都外縁の旧市街へ向かっていた。
追手を撒くため。
そして、これから先の戦場を生き抜くため。
NUTCRACKERの姿は、すでに軍人ではなかった。
軍服を捨て、コンバットスーツへ身を包み、黒いモッズコートを羽織っている。
それはもう、かつて所属していた組織の服ではない。
戦場で生きるための装備だった。
「そのコート」
FOURBEATが言う。
「何だ」
「収納が足りない」
NUTCRACKERは笑う。
「やっぱりそこを見るか」
FOURBEATは戦闘装備として彼を見る。
弾薬。
予備武器。
工具。
長期行動には不足している。
「なら改造する」
「珍しいな。お前が提案するなんて」
「必要だからだ」
NUTCRACKERは煙草を咥えたまま笑った。
「素直じゃねぇな」
二人は旧市街の装備店へ向かった。
そこは戦争によって需要を失った、古い軍用品店だった。
店内には様々な部品が並んでいる。
弾薬ポーチ。
防水布。
金属製の留め具。
補強用プレート。
FOURBEATは無言で必要な物だけを選んでいく。
「器用だな」
NUTCRACKERが言う。
「戦場では必要な能力だ」
「暗殺だけじゃなかったのか?」
「生存するためだ」
その答えに、NUTCRACKERは少し笑った。
「やっぱりお前、面白いな」
改造はその日の夜に行われた。
モッズコートの内側へ弾薬収納。
袖には小型ナイフ用の固定具。
背面には予備装備用のスペース。
見た目は変わらない。
だが、性能は大きく変わった。
「完成だ」
NUTCRACKERが腕を通す。
動きを確認する。
「悪くない」
「当然だ」
FOURBEATは淡々と言う。
「戦闘用に作った」
「服まで戦わせる気かよ」
「道具は使う者次第だ」
NUTCRACKERは笑った。
「相変わらず怖ぇ考え方だ」
翌日。
二人は移動手段を探していた。
徒歩では限界がある。
戦場では速度も武器になる。
そこでFOURBEATが見つけたのは、一台の古い車だった。
黒いボディ。
美しい曲線。
古い時代の設計。
戦場には似合わないほど優雅な車。
「意外だな」
NUTCRACKERが言う。
「何が」
「お前がこういうの選ぶとは思わなかった」
「性能は十分だ」
「本当に?」
FOURBEATは黙る。
NUTCRACKERは笑った。
「好きなんだろ」
「……」
否定はしなかった。
一方、NUTCRACKERが選んだのは巨大なハマーだった。
装甲。
馬力。
圧倒的な存在感。
「お前らしいな」
FOURBEATが言う。
「褒めてるか?」
「事実だ」
「なら褒め言葉だな」
その夜。
二人は新しい車両で移動を開始した。
だが、街を出る前に敵部隊が現れる。
追手。
数十人。
完全武装。
「休む暇もねぇな」
NUTCRACKERが笑う。
「問題ない」
FOURBEATは銃を抜く。
クラシックカーの影から、一発。
敵が倒れる。
同時にハマーが動く。
NUTCRACKERがアクセルを踏む。
「行くぜ!」
重量のある車体が敵陣へ突っ込む。
銃撃。
爆音。
二人の戦闘が始まる。
戦闘後。
二台の車が並ぶ。
静かなクラシックカー。
荒々しいハマー。
まったく違う存在。
それでも、並ぶ姿には妙な一体感があった。
NUTCRACKERが言う。
「悪くねぇな」
「何がだ」
「この生活だよ」
FOURBEATは少しだけ考える。
「……悪くない」
その言葉を聞き、NUTCRACKERは笑った。
「今の、覚えとくぜ」
二台の車は夜の道路を進む。
死神と鬼。
二人の戦場は、まだ始まったばかりだった。
第4話 終




