3話 物流区画にて
帝都西部。
巨大な物流区画。
戦争によって拡張されたその場所は、武器、食料、燃料、あらゆる物資が集められる巨大な血管だった。
そして同時に、追われる者にとっては格好の隠れ場所でもあった。
FOURBEATと、名も知らぬまま同行する軍人。
二人は無数のコンテナが並ぶ区画の奥へ進んでいた。
「追手は?」
軍人が尋ねる。
「減った」
FOURBEATは短く答える。
「じゃあ休めるな」
「違う」
FOURBEATは足を止める。
「次の部隊を準備している」
軍人は口笛を吹いた。
「人気者だな」
「お前も原因だ」
「俺?」
「目立ちすぎる」
軍人は笑った。
「褒め言葉として受け取っておくぜ」
物流区画の中央。
古い軍用倉庫。
FOURBEATは内部を確認する。
そこには、軍が撤去し忘れた装備が残されていた。
防具。
武器。
戦闘服。
軍人はそれを眺める。
「なるほどな」
そして、自分の軍服を見る。
「こいつはもう使えねぇな」
祝勝会から続く戦闘。
泥と硝煙にまみれた軍服は、もう兵士の証ではなく追跡対象の印だった。
軍人は迷わず脱ぎ捨てる。
代わりに手に取ったのは、軽量コンバットスーツ。
動きを制限しない。
耐久性がある。
戦場で生き残るためだけに作られた服。
「似合うと思うか?」
FOURBEATは一瞥する。
「知らない」
「相変わらず冷てぇな」
軍人は笑いながら装備を整える。
さらに彼は倉庫内を漁った。
弾薬。
工具。
ナイフ。
使えるものは全て手に取る。
だが、一番目を引いたのは外に置かれていた一着のコートだった。
黒いモッズコート。
軍用ではない。
だが、丈夫で収納性が高い。
軍人はそれを羽織る。
「悪くねぇ」
ポケットの位置を確認する。
「改造すれば使えるな」
「何に?」
FOURBEATが聞く。
軍人は笑った。
「弾を入れる」
その答えに、FOURBEATは何も言わなかった。
その時。
警報が鳴る。
物流区画全体に敵部隊侵入の知らせが響く。
「来たか」
軍人はショットガンを構える。
FOURBEATも銃を抜く。
二人は背中合わせになる。
「なぁ」
軍人が言う。
「俺達、結局なんなんだ?」
「知らない」
「だよな」
軍人は笑う。
「じゃあ決めるか」
敵兵が現れる。
銃声。
爆音。
二人の戦闘が始まる。
戦闘終了後。
崩れた物流区画の中で、軍人は新しい姿になっていた。
軍服ではない。
国の所属を示すものもない。
ただ一人の戦闘者。
彼は煙草に火をつける。
そして、FOURBEATを見る。
「俺はもう、どこの軍人でもない」
少し間を置く。
「名前が必要だな」
風が吹く。
黒いモッズコートが揺れる。
「俺は今から――」
彼は笑った。
「NUTCRACKERだ」
その日。
死神の隣に立つ鬼が生まれた。
第3話 終




