2話 追走
祝勝会の夜から三時間。
帝都の裏路地は、昼間の華やかさとは別の顔を見せていた。
雨に濡れた石畳。消えかけた街灯。遠くで響く警報。
黒い礼装の男――FOURBEATは、一定の歩幅で歩いていた。
焦りはない。
追われていることも理解している。
だが、それは彼にとって問題ではなかった。
「……十二」
小さく呟く。
背後から迫る人数。
足音。 呼吸。 銃器の重さ。
全て把握している。
角を曲がった瞬間、FOURBEATは足を止めた。
「止まれ!」
兵士達が銃を構える。
しかし、次の瞬間。
暗闇の中で一度だけ光が走った。
銃声。
先頭の兵士が崩れる。
続けて二発。
三発。
敵が引き金を引くより早く、FOURBEATの弾丸が戦場を支配する。
無駄な動きはない。
視線。 指先。 引き金。
それだけ。
まるで決められた演奏をしているようだった。
「……つまらない」
FOURBEATは倒れた兵士達を見下ろす。
彼にとってこれは戦闘ではない。
処理だった。
だが。
十数分後。
状況は変わった。
倒しても、倒しても追手が来る。
軍の精鋭部隊。
通常なら、一人で相手にする数ではない。
しかしFOURBEATは表情を変えない。
銃を確認する。
残弾。
距離。
敵配置。
全て計算する。
その時だった。
「おいおい」
聞き覚えのある声。
振り返ると、そこには昨日の軍人がいた。
「随分と派手に追われてんな、少尉」
FOURBEATは冷たく見る。
「なぜいる」
「面白そうだから」
軍人は笑う。
「それだけだ」
「帰れ」
「嫌だね」
その瞬間、建物の屋上から狙撃音。
FOURBEATが動くより早く、軍人が彼を押し退ける。
「危ねぇな」
銃弾が壁を砕く。
軍人は周囲を見る。
「……銃だけじゃ足りねぇか」
そして近くに捨てられていた武器を拾う。
ショットガン。
「それ、使えるのか」
FOURBEATが聞く。
軍人は笑った。
「撃てりゃ十分だろ」
次の瞬間。
戦場の空気が変わった。
FOURBEATの戦いは静かだった。
だが、この男の戦いは違う。
踏み込む。
殴る。
撃つ。
倒れた敵の武器を奪う。
また前へ進む。
ショットガンを振り回し、近距離で叩き込む。
兵士達の陣形が崩れる。
「ははっ!」
軍人は笑っていた。
まるで戦場そのものを楽しんでいるように。
FOURBEATはその姿を見ていた。
荒い。
無駄だらけ。
理論から外れている。
だが。
強い。
敵の数が多いほど、この男の価値は上がる。
FOURBEATは静かに目を細めた。
「……なるほど」
銃声の中で呟く。
「利用するのも悪くない」
戦闘が終わった頃。
路地には静寂が戻っていた。
FOURBEATは歩き出す。
その横に、軍人が並ぶ。
「なぁ」
「何だ」
「名前、まだ聞いてなかったな」
FOURBEATは答えない。
軍人は笑う。
「まあいい」
煙草に火をつける。
「そのうち聞くさ」
死神の隣に、鬼が歩き始める。
まだ互いを理解してはいない。
だが、この夜。
二人の戦い方は初めて重なった。
第2話 終




