昭和幽霊は、ラーメンを食べる
猫が好きな昭和幽霊のユー子は、黒猫になったレムを撫でながら、タケルがキッチンに立つのを見つめた。
「……お前らもなんか食うか?お供えならするけど」
「私は大丈夫だよ。食べなくても平気」
「我が輩もいらんさ。あっ!コーラがあったら飲みたい!」
猫の姿から、少年の姿になるとレムは目を輝かせた。
「……悪魔ってコーラ飲むのか?」
「いつも供えられるのは、赤ワインか山羊の血だったからな。コーラを若者が飲むのをみて、飲んでみたかったんだ」
「……山羊の血。まさに悪魔っぽいな」
タケルは冷蔵庫を開けると、コーラを取り出す。
「ほらよ。ユー子も飲むか?実体になれば飲めたりすんのか?」
「幽体の場合は、実体で飲んでもコーラは減らないと思うが……。我が輩の場合は、飲んだりは出来るぞ」
「えっ……悪魔って、クソとかすんの?食ったら、出さなきゃだろ?」
「排泄と言え、排泄と……下品だぞ」
ユー子は、くすくすと笑う。
「タケル、気になるのそこなんだ。トイレに行くことあるけど、出ないよ〜。習慣で行きたい気持ちになるかもだけどね」
「食べたものは、力になる。お前の言う、霊力ってやつだな。だから排泄はしない」
「へぇ〜、山羊の血とか、食いもんで力って変わんの?」
「人間だって、食べたもので多少は変わるだろ?それと一緒さ。人間にオーガニックにこだわる奴がいるように、悪魔や幽霊にも品質や好物にこだわる奴はいる」
「なるほどね〜」
コップにコーラを注ぎ、レムとユー子の前に置く。
ユー子はレムに実体化して貰って、コップをそっと持った。
「コップ持てた!」
コーラが瓶に入ってないのも不思議〜。
ユー子は、泡が弾けるのを、にこにこしながら見つめた。
「肝試しに来た子たちが、よくお菓子とか置いていってくれてね、コーラもお菓子も食べたんだけど、物はなくならないの。なのに、太るんだよ!不思議〜」
「なにそれ。幽霊って太るの?」
タケルは首を傾げる。
「味も、コーラのしゅわしゅわも、頂いた気持ちになるんだけどね……生きている人と同じように食べるのかっていったら、違うんだと思う。記憶で食べる……的な?」
「食べたら太るってユー子が記憶してるってこと?」
「……たぶん」
ユー子は、お菓子やジュースを飲んだら太る。
だから制限されていた……。
そんな記憶がふとよぎり、頭をぶんぶんと振ると、一気にコーラを飲む。
コップは空になっていた。
「美味しい!美味しい!記憶で飲むとの違う!レム、すごいよ!」
隣に座るレム(美少年)に抱きつくと、頭を撫でる。
「……空になる……か」
レムは、どこか感心したように目を細める。
「ユー子は霊力が高いんだろう。きちんと霊力へ変換できているようだ。やはり素質があるな」
ボーイソプラノの澄んだ声で、レムはふむふむと頷く。
その声の質と口調は、どこかちぐはぐだった。
「なんか本当に飲んでるみたい!私も何か、きちんと食べれるのかな?あっ……でも、太ったら怒られちゃう……」
「………」
うじうじとうつむくユー子をタケルが、なんとも言えない表情で見つめた。
「レムも、霊力に変えてるっていってたから、大丈夫だろ。好きなもん食えばいい。……ってか、今はインスタント麺しかないけど」
「!!インスタント麺!食べたい!食べたことない!」
ユー子は、ぴょんぴょんと跳ねた。
「インスタント麺か……我が輩も食べた事ないな……」
レムは、首を傾げながらコーラを飲んだ。
「!!なんだこの、しゅわしゅわは!喉がぴりぴりするぞ」
目を見開いて、コーラを見つめた。
「美味しいか?」
「……甘いな。これこそ、悪魔の飲み物じゃないか」
「ははっ……黒いし、そうかもな。んで、どれを食べる?」
タケルが、塩、味噌、激辛、醤油と、様々な種類のインスタントラーメンを並べるのを見て、ユー子は目を輝かせる。
「タケル、いっぱいある!」
「あぁ……料理がメンドイ時に便利なんだよ」
「ユー子は、何がいい?」
「んとねー……醤油!」
ユー子は、目移りする種類の中から、僅かに残る記憶から醤油を選んだ。
「レムは?」
「我が輩は、この悪魔の絵があるやつにするぞ。この絵があるってことは、悪魔専用か?日本はすごいな」
レムは、激辛のパッケージのイラストを指差した。
「ははっ。悪魔的に辛いってことだよ。辛い物が好きなら気に入ると思うよ」
タケルは、自分用に塩味を選ぶ。
「じゃあ、作ってくるから、テレビでもスマホでも見ながら、待っててよ」
タケルが作っている間、テレビもついていたが、二人はスマホに夢中だ。
ユー子は、黒猫レムの写真をSNSにアップした。
けれど……ハートは直ぐにはつかず、肩を落としながら落ち込む。
レム(美少年)も、黒猫姿の自分や、日本の街並みをアップする。
すると、ハートがたくさんついた。
「レムずるい!なんで、そんなに反応あるの?」
「SNS歴は長いからな。しかし、人間に化けた姿に称賛はあっても、本来の姿はA Iと言われる……。最近では人間の姿でもAIと言われるんだ。解せぬ……」
「でも反応あるじゃん!どうやってるの?」
「ふむ……ユー子、今の姿をアップしてみたらいいんじゃないか?」
レムは、ユー子のスマホを受け取ると、ユー子の姿(実体あり)を撮る。
「表情と姿勢だな……。もう少し伏し目がちに」
レムは、スマホ越しにユー子を眺める。
「次は上目遣い。手は顎に置いて」
何枚か撮ると、その中から上げる写真を選んでいく。
「これを上げてみればいい」
「わかった!」
ユー子は、レムの指導のもとSNSにアップした。
「おーい、できたぞー。手を洗ってこい!」
キッチンから、タケルの声が飛ぶ。
「洗面所は、リビング出て左の扉な」
ユー子はレムと洗面所に向かう。
キッチンから流れてくる匂いは、美味しそうだった。
ふと、レムが階段の前で立ち止まり、見上げた。
「レム、どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
レムが目を細めて見上げる横顔は、妙に無表情だった。
それにつられて、ユー子も上を見上げた。
「……なんか、上だけ空気が違うね」
「……あぁ、そうだな。さぁ、早く手を洗ってタケルのところに行こう。ラーメン楽しみだ」
「うん!」
ユー子とレムがリビングに戻ると、テーブルの上には、ラーメンが並ぶ。
「醤油ラーメン!」
「この真っ赤なやつが、我が輩のか?悪魔っぽくていいな!」
「はーい、二人とも席について。いただきます」
「いただきます!」
ユー子は、手を合わせてから、箸を持った。
湯気がたちのぼり、ラーメンの上にはゆで卵と、長葱、ほうれん草が乗っていた。
「レムは箸より、フォークの方がいいか?」
「大丈夫だ。箸は使える」
レムは、箸を持つとラーメンをレンゲに乗せて、食べた。
その様子を見届けてから、タケルは食べ始めた。
「タケル!おいひぃ!おいひぃ!」
ユー子は、口いっぱいに頬張りながら、涙を流して食べる。
「うん、美味!」
レムは満足そうに目を細めた。
「この喉にくる辛さがいいな! タケル、酒はないのか? 酒が飲みたい!」
「酒は、ビールと日本酒ならあるけど、レム少年の姿で飲むのは辞めてくれ」
「何故?」
「未成年に飲ませてる気がするからだ」
「……ちっ。細かいな〜」
レムは、軽く舌打ちをすると青年の姿になる。
「これでいいか?」
「あぁ、それでいい。ったく、便利な能力だな」
タケルは、缶ビールをレムに出すと、自分の分のビールも用意した。
「冷たいビールも美味いな!昔飲んだときは、ぬるかった」
レムも飲みながら、遠い昔を思い出すように微笑だ。
「ユー子も飲んでみたい!」
「……ユー子はいくつなんだ?」
タケルに聞かれて、ユー子は首を傾げる。
(いくつだっけ……?成人式は行った気がする)
「たぶん、二十一歳くらいだったと思うよ。成人式の振袖着た〜」
「言動が幼いから、高校生くらいかと思ったよ……」
タケルは、自分のビールをコップに半分ほど注いだ。
「ほれ、口に合わなかったら残していいからな」
ユー子は、黄金色のビールを一口、ごくりと飲むと、苦さに驚いた。
「タケル!これ、苦い!美味しくない!」
ユー子は、舌をべっーっと出す。
「ははっ。そうなると思った。お子ちゃま口は、ジュースでも飲んでな」
新しいコップに、コーラを注ぐ。
「ありがとう!」
ユー子は、笑顔いっぱいにタケルに礼を言うと、コーラを飲んでうつむいた。
「……美味しい、美味しくない……こんな感情、忘れてた」
レムは、ユー子の残したビールを横から取ると、飲み干す。
「……そういえば、レムは何で日本に来たんだ?本当に観光か?」
タケルは、ラーメンをすすりながら、ビールを飲むレムをちらりと見た。
「あぁ、日本は大昔に来たことはあるが、ユー子のSNSを見てな」
「来たことあんだ」
「あぁ。だから、観光だ。そう警戒するな」
タケルは、探りを入れたことに気づかれて、頬をぽりぽりと掻くと、視線を外した。
「最近の人間は、一体何が怖いんだ?昔は人を恐怖に陥れることも、平伏させることも簡単だった」
レムは、真剣な顔でタケルに訊ねた。
「私も知りたい!」
「何が怖いかって?んなもん、決まってるだろ」
タケルも真剣な目でレムを見据えた。
「核兵器、地震、SNS炎上……そして税金だよ」
「なっ……なるほど……」
レムは納得したような、してないような微妙な表情で頷いた。
タケルはインスタントラーメンが好きです。
簡単に作って食べられるので。
今回は、レムとユー子に振る舞うために、ネギやほうれん草(冷凍)ゆで卵を入れましたが、一人の時は、溶き卵を入れるだけだったりします。
料理もちゃんと作れますよ。
一人暮らし長くて、自営業なので自炊は必須です。




