兄姉からのプレゼント〜悪魔城にて〜
「ヴィア姉ちゃんいる?」
第二王子のラオレフィムは、ノックもせずに地下のヴェルメフィアの研究室の扉を開けた。
「ノックしろって言ってんだろーが!」
ヴェルメフィアは、ドスの利いた声で、扉を睨みつけた。
「おっと……」
ラオレフィムは、おどけた顔で肩をすくませた。
「……んで?なんか用?」
「はは、相変わらず機嫌が悪いな」
「早く要件を言いな」
「レムと態度が違くないか?もう少し、優しくしてくれても良くない?」
ラオレフィムは、短い黒髪をぽりぽりと掻いた。
レイルレフィムよりも、少し小柄ではあるが、鍛え上げられた肉体を見せびらかす様に、肌の露出が多い。
「レムたんは、可愛いもの。お前はそのむさ苦しい格好、どうにかならないの?」
「この肉体美が分からないなんて……姉ちゃん、引きこもりすぎじゃないか?顔も青白いぞ?」
「だまらっしゃい!!」
ヴェルメフィアは、くわっと口を開けて威嚇する。
「……んなことより、レム帰ってきてるだろ?死神討伐千体記念のお祝いしようぜってハラン兄が言ってた」
「まぁ!そういうことなら、協力するわよ。レムたんの為ですもの」
手のひらを返したように、ヴェルメフィアの瞳が輝く。
「俺も、悪魔界内の暴動一人で鎮圧したんだけど」
「お前には必要ない」
ヴェルメフィアの反応が冷たいのは、今に始まったことではない。
何をプレゼントしようかしらと、ヴェルメフィアは、研究室を物色しだす。
(……まあ、レムは可愛いけど……くすん)
ラオレフィムは、肩を落として研究室を後にした。
「次は、カミルメフィアか……あいつも、レム狂だからな……ハラン兄は、面倒なことばかり俺に押し付ける」
ぽつりとつぶやいた声は、誰に聞かれることもなく、地下回廊に響いた。
ラオレフィムは、意を決してカミルメフィアの部屋の扉をノックする。
「はーい♪」
可憐な声が部屋の中から、聞こえてくる。
「俺だ」
「ラオ兄?入って〜。開いてるよ♪」
ラオレフィムが扉を開けると、部屋の中はレムだらけだった。
彫刻のレム
絵画のレム
ポスター写真のレム
フィギアに、ぬいぐるみ、アクリルスタンド、うちわ……。
「………ふ、増えてる……」
「ラオ兄、見てみて!スマホを手に入れたの!レムのフォロワーを、おど……お願いして増やしてるよ♪」
「ははは……よく集めたな。レム、帰ってきてるぞ」
「それ、ほんと?」
カミルメフィアの漆黒の瞳が大きくなる。
ツインテールの黒髪は、ふわりと揺れ、頬が紅潮していく。
瞬間、空気が揺らぐ。
ラオレフィムの背筋に、ぞわりと悪寒が走った。
「いつ?何時?何分に帰ってきたの?」
カミルメフィアは、目を黒くしてラオレフィムにしがみつく。
「怖い怖い怖い!お前、怖い!」
「だって!私たちのレムちゃんが帰ってきたんだよ?ラオ兄は嬉しくないの?あの子、滅多に帰って来ないじゃない」
「いや、そりゃ嬉しいけどさ」
「そうでしょ?そうでしょ?ラオ兄だって、久しぶりにレムちゃんと、プロレスごっこしたいでしょ?」
「……あぁ、もう!とにかくだ!レムが帰ってきて、ちょうど良いから、死神討伐千体記念でお祝いしようってハラン兄が言ってたから!俺は、伝えたぞ!じゃあな!」
ラオレフィムは、カミルメフィアを力任せに引き剥がすと、逃げるように部屋を出ていった。
「はぁ……疲れた……。カミルの相手は疲れる。レムが帰って来ないのも分かるよ」
ラオレフィムは、ハランレフィムの執務室へ向かう。
ノックもせずに扉を開けると、冷ややかな視線を向けられる。
シュッとしたフェイスライン。
切れ長の赤い瞳には、銀のチェーンがついた眼鏡をかけている。
「ラオ、ノックくらいしたらどうだ?」
「んだよ、レムだったら怒らないのに」
「レムは、幼いんだからしょうがないだろ」
「……兄貴。その眼鏡、度数合ってる?」
ハランレフィムは、眼鏡をそっと外し、しっかりと確認した。
「……合っておるが?」
(そ・う・じゃ・な・い)
ラオレフィムは、がっくりと肩を落とした。
「なんなの?俺が変なの?」
「では、ラオ。厨房に祝賀会を行うことを伝えて来てくれ。予算は気にしなくて良い。いくら使っても構わない」
(話を聞けよ!)
ラオレフィムは、内心毒づいたが、そうしたところで扱いは変わらないので、厨房に祝賀会を伝えた。
厨房は、一気に慌ただしくなったので、りんごを一つ失敬してから、自室へ戻った。
*****
「レイルレフィム!!おめでとう!!」
レムが訳も分からないまま、食堂へ案内されると、クラッカーの派手な音と共に祝福される。
「……ありがと。んで、何の祝い?」
レムは、すんっと目を細めて、横断幕を眺めた。
『祝!!レムたん、死神討伐千体!!神に認められた子!!』
横断幕には、レムの似顔絵や写真が、これでもかと貼られている。
何故かSNSでしかアップしていない、黒猫姿や狼姿、美少年姿のレムが、ステッカーになって所狭しと貼られている。
「ヴィア姉ちゃん、カミル姉ちゃん……やり過ぎだよ」
「え〜一生懸命作ったんだよ?喜んで?」
カミルメフィアは、ツインテールを揺らしながら上目遣いでレムを見つめた。
「レムたん、喜んでくれるよね?……喜べ!」
ヴェルメフィアも、豊満なバストを揺らしながら、レムに詰め寄る。
「……うん……うれしいなー」
レムは二人の圧に負けて、曖昧に笑った。
「だから、帰って来ないだよ」
ラオレフィムは、小さくつぶやきながら、りんごを齧った。
「うむ!レムもとても喜んでくれているな!祝賀会を用意して良かった!」
ハランレフィムは、満足気にうなずく。
「だから、眼鏡の度数あってねーだろ……ってか、用意したの俺なっ」
「ラオ兄、ありがとう。用意してくれたの、ラオ兄だよね」
レムは、はにかみながら、ラオレフィムに礼を言う。
「……くぉ〜、レム!やっぱお前は可愛いな〜!」
ラオレフィムは、レムの頭を抱え込むと、くしゃくしゃになるまで、撫で回す。
「ラオ兄やめて〜」
「よし!レム!プロレスごっこしよう!お前が泣くまでやろう!」
「や〜め〜て〜」
「お前、やめろや」
カミルメフィアは、ツインテールを弾ませながら、ラオレフィムに飛び蹴りを放った。
「レムちゃん嫌がってるでしょ!」
足が当たる直前に、ラオレフィムはカミルメフィアの足を片腕で受け止めた。
「はっ!軍神の俺に攻撃とは、舐めんなよカミル!」
「ちっ……脳筋め!」
カミルメフィアは、ラオレフィムをひと睨みすると、か弱い声をあげて、レムにしがみついた。
「レムちゃん、お姉ちゃん、足痛い〜」
「………」
レムは、遠くを見つめた。
「はいはい!じゃれあいはここまで!私はプレゼントを渡したいな」
その様子を穏やかに見つめていた、ハランレフィムは、静かにプレゼントの箱をレムに渡した。
「ハラン兄……ありがとう!なんだろ?開けていい?」
「もちろんだとも!」
レムの笑顔に、ハランレフィムは心の底から嬉しそうな顔をする。
「なんだろ………。ぬいぐるみ……?」
「あぁ!可愛いだろ?レムは、ぬいぐるみがないと寝れなかったからな。新しいぬいぐるみだよ!」
「……ハラン兄。俺、成人してんだけど……」
「そうなのかい?私には、幼く見えるが……」
レムは、ハランレフィムの眼鏡を見る。
「それ、度数合ってる?」
「ああ!合ってるぞ!」
ハランレフィムは、自信を持って答えた。
「……そう、ありがと」
「あー!!被ったー!!」
カミルメフィアもレムにプレゼントを渡す。
箱を開けると、レムによく似たぬいぐるみだった。
「推しぬいだよー!!手作り!カミルのぬいも作ったから、仲良く並べてね♪」
「……うん、カミル姉ちゃん、ありがとう。部屋に飾っておくよ」
「えへへっ♪」
(レム、部屋に滅多に帰って来ないだろ)
ラオレフィムは心の中で、そっと突っ込んだ。
「次は私ね」
ヴェルメフィアは、小さな箱をレムに手渡す。
「ヴィア姉ちゃん、これは何?」
「これはね、呪いの指輪(18金)。この間のどうしようもない死神みたいなのが、現れたら、これをそいつに投げなさい。私のところに転移されるから……。そしたら、また、いい子になるように、指導してあげるわ」
「いい子……?」
「えぇ、あの死神、とってもいい子になったの。レムの可愛さについて、懇々と教育したらね、貴方を崇拝するようになったわ」
「……崇拝はいいが……なんか、怖い」
レムは、死神の最後の姿を思い出し、ほんの少しだけ同情した。
「最後は、俺だな!」
ラオレフィムは、胸を張って大きな箱をワゴンに乗せて運んできた。
「じゃじゃーん!!特大パフェと、コーラフロートだ!」
「ラオ兄!!嬉しい!!食べていい?」
レムは、瞳を輝かせて、ラオレフィムを見つめた。
「おぅ!たらふく食べろ!」
ラオレフィムが言い終わる前に、レムはパフェにかぶりついた。
ラオレフィムは、他の兄弟を見据えてドヤ顔をキメる。
「どうだ!俺が一番、レムのことを分かってるだろ?」
その一言を発した瞬間、三方向から攻撃が飛んできた。
ハランレフィム(第一王子)国政、参謀担当
ヴェルメフィア(第一王女)研究、開発担当
ラオレフィム(第二王子)統治、軍事担当
カミルメフィア(第二王女)諜報、世論調査及び誘導担当
レイルレフィム(第三王子)外交、不良死神管理担当
こんな兄姉達ですが、真面目に仕事はしています。
『レフィム』は王子に、『メフィア』は王女につきます。
なので、普段は、“ラオ”“カミル”と略しています。
レムだけ、レイルにならないのは、レムが子どもの頃に、『レイルレフィム』が言えなくて、レムって言ったら定着しました。それはそれは、可愛い可愛いと言われて……笑。
設定では、他の兄姉たちも、レムみたいに略そうとしましたが、ハムとかラムとかになってしまって、本人たちから抗議されそうなので、諦めました。
タケルとラオの性格が似ているからか、レムにとって、タケルの傍は、ちょうどいい距離感で、居心地が良かったりします。ユー子の奇天烈な言動も、姉達に比べれば可愛いものです。




