お姉ちゃんからのプレゼント
「お姉ちゃん」
由希子は、母が姉の遺品として大切にしていたドレッサーを受け継いだ。
昭和らしい造りのドレッサーは、鏡が大きく姿見としても利用できる、実用的なものだった。
木製で、あちこちに傷が残り、長い年月を感じる。
引き出しを開けるたびに、ほのかに古い化粧品の香りが漂った。
由希子は一番下の引き出しをそっと開けた。
手のひらサイズの箱に、赤いリボンが巻かれ、一度も開けられた形跡がない。
「……お母さん、開けなかったんだ。お姉ちゃんから、私へのプレゼントって言ってたけど……」
由希子は、リボンの結び目を丁寧に解くと、そっと箱を開けた。
開けてすぐにピンク色のメッセージカードが目に入った。
由希子ちゃんへ
高校生だね!
ずっと羨ましいって言ってた、バレッタだよ!私とお揃いなの!
これをつけて学校に行ってくれたら
お姉ちゃん嬉しいな♪
優子より
震える手で、メッセージカードの下にあるバレッタを取り出す。
銀細工のハートと花のバレッタは、今の由希子には幼いデザインだった。
ふと、由希子の脳裏に優子との記憶が蘇る。
優子のお気に入りだった、バレッタ。
きれいな黒髪によく似合っていて、羨ましかった。
姉は母によく似て、とても可愛いらしい人だった。
「お姉さん、可愛いよね」
「由希子は、似てないよね」
そんな言葉を受ける度に、幼かった由希子の心に小さな傷を残していった。
ほんの、出来心だった。
姉が居ない隙に、ドレッサーからバレッタを取り出し、自分につけてみた。
上手く髪につけられず、少しだけ力を入れた。
ぱきっ。
軽い音とともに、バレッタの部品が壊れてしまった。
由希子は、青ざめた顔で、ドレッサーに隠すようにしまった。
もちろん、すぐに見つかった。
母にすごく怒られた。
『勝手に使って、壊して、隠すなんて、お姉ちゃんに謝りなさい!』
由希子は謝らなかった。
悔しかったから。
姉ちゃんは、可愛い。
優しい。
誰からも可愛いって言われて、愛されている。
私は、可愛くない。
父に似たから。
愛嬌があるって言われたけど、私は姉みたいに可愛くなりたかった。
姉は、なんでも持ってる。
だから、謝らなかった。
今思えば、嫉妬と意地だったのかも知れない。
「なんで、あの時、謝らなかったんだろ。お姉ちゃんも何でも持っていた訳じゃないのに……」
バレッタは、あの時と同じ物ではなかったが、よく似ている。
由希子は謝らなかったが、優子はそっと頭を撫で微笑んでくれた。
『そっかぁ……壊れちゃったか……。由希子ちゃん、今度一緒に買い物に行こうか。そこでお揃いのバレッタ買おう』
そう言って、許してくれた。
由希子は、最後まで謝れず、ただ泣くだけだった。
優子の仕事が忙しくなり、会う時間は、ほとんど無かった。
由希子が中学生の時に、優子の病気が発覚した。
一緒に買い物に行く約束は、永遠に果たされなかった……。
「お姉ちゃん……ごめんなさい。壊して……」
由希子は、バレッタを握りしめて小さくつぶやいた。
“いいよ、怒ってないよ。由希ちゃん、幸せにね”
涙で霞んだ目で鏡を見つめると、同じバレッタをつけた姉がふわりと笑ったような気がした。
次回、レムの姉が溺愛するレム送るプレゼント。
ーーギャグの予感。




