霊界と出会った男の子
無事に霊界に辿り着いたユー子は、暇をしていた。
「スマホがない!SNSも動画配信も見れない!つまんない!」
ユー子の母は、父とデートに行ってしまった。
来世も夫婦になれるよう、デートを重ねて天界にアピールをするらしい。
ユー子は、再び一人になっていた。
ここ(霊界)は、不思議な空間で、白い雲の上のような場所だ。
町もあるし、公園もある。
いろんな人が穏やかに過ごしていた。
「スマホなくても、この穴から見れば地上は分かるよー。テレビよりも面白いんだ!」
小さな男の子は、雲のような地面を指差した。
そこには、猫の目のように裂けた穴があった。
ユー子は、わくわくしながら覗き込む。
(……って何を見たらいいのか、わからない)
何も考えずに覗くと、ショート動画配信を高速スクロールしたように、一気に色んな映像が流れてくる。
「おぇっ……」
映像酔いをしたユー子は、思わずえずいた。
「あははは、お姉ちゃんそれじゃだめだよ。視たい人や視たい場面を思い浮かべるんだ。検索するみたいにね」
「思い浮かべる?」
目をしぱしぱと、眉をひそめながら瞬きをすると、男の子は「うん」と頷いた。
「ここから視えるのはね、過去も現在も未来だって関係ないよ。まあ、未来は確定じゃないからたくさんあるし、ぼやけているけど」
ふふふと笑いながら続ける。
「霊界には時間って概念がないんだ」
男の子は、得意げに胸を張りながら、人差し指で鼻を擦る。
「概念……」
(この子、難しい言葉知ってるな〜。えっ。普通そうなの?私、この子の年齢の時、お菓子のことしか考えてなかったよ?)
「じゃあ、すんごい昔の様子とかもわかるの?」
「そうだよ〜。歴史的な出来事を観覧する人も、未来の技術を観覧する人も、愛する人との出会いをアルバムを見るように何度も観覧する人もいるんだ」
「へ〜面白い!えーっと、何を観ようかな〜」
ユー子は、ぺたりとその場に座り込むと、足をぱたぱたと揺らしながら、観たい出来事を考えた。
ふと、レムの顔が浮かんだ。
レムが昔に日本に来てたって言ってた。
その時は、何しにしてたんだろう。
ずっと昔も観れるなら、観てみたい。
ユー子は、穴を覗き込む。
(えっーと、レム_昔_日本……こんな感じで検索っと……)
猫の目のような穴の周りに白い線が現れて、くるくると回る。
きゅーっと穴が細くなると、平安時代を彷彿される都が映し出された。
「あっ、レム!」
艶やかな黒髪、赤い眼は変わらない。
年齢も変わらないようだが、レムは少年から美女まで幅広い人の姿に変化できる。
高身長のレムだったが、その場所に合わせて身長も変えているらしく、他の人たちよりも少し背の高い程度だ。
それでもかなり目立っていた。
周りの人の視線を浴びながら、都の中を闊歩している。
妖艶な笑みを浮かべ、楽しそうだ。
「妖魔……ではないか?」
「恐ろしい程の美しさよ……」
「陰陽師は何をしている」
口元を袖で隠しながら、ヒソヒソと囁かれていた。
その光景に、ユー子はくすりと笑う。
(レムはいつでもレムだー)
場面が変わって、夜ーー。
レムは、山奥の一角で酒盛りをしていた。
相手は異形の魑魅魍魎たちだ。
「おー!もっと飲め飲めー!今夜も飲み尽くそうー!」
ぎゃはははと笑い声が、山に響き渡る。
「酒がなくなったぞー!!」
「よぉし!では、百鬼夜行と行こうじゃないか!酒を求めて都へ降りよう!」
レムは妖怪のリーダーの呼びかけに、手を叩いて喜んだ。
ぞろぞろと群れで都へ降りる。
その後ろでは恐ろしい程に美しい悪魔が続く。
都に着くと、人の気配がするところから、酒や肴を拝借していく。
がしゃーん!
「きゃー!!」
「うわぁー!!」
「ひゃ、百鬼夜行だー!!」
突然の妖怪の登場に、家々から悲鳴が上がった。妖怪たちは、驚く人々を笑い、酒を貰っていく。
「ぎゃははは」
「貰ってくぞ〜」
レムが家の中を覗くと、恐怖でがたがたと震える人間がいた。
レムの姿を見て、更に怯えている。
「ふふふ、その恐怖……美味そうだ」
レムが人に近づこうとした、
その時ーー
「ぐぇっ……」
突然、首の後ろを掴まれて家の外へ放り出された。
「この百鬼夜行の首謀者はお前か」
烏帽子を被った青年は、冷酷な表情でレムを見下ろした。
「違うぞ!我が輩は、客人だぞ!」
レムは慌てて首を振りながら否定した。
「そんなことは知らぬ。お前が揺動したと見た!観念せい!」
烏帽子を被った青年は、式神と共にレムに向かって印を結びながら祝詞をあげる。
「はっ、そんなもの、悪魔である我が輩には効かないぞ!」
レムは「べろべろばー」と挑発しながら立ち上がる。
「ならば!」
青年は、腰から大きな扇子を取り出すと、思いっきりレムの頭を叩く。
「あ、痛てっ!」
レムは目に涙を浮かべながら、額を摩る。
式神がレムの周りを取り囲む。
「んなー!出られないじゃないか!」
こうなったら……とレムは呟くと、黒猫に姿を変えて式神の間をすり抜けて走り出す。
しかし、烏帽子の青年に首根っこを掴まれてしまった。
「にゃー!我が輩は何もしてないぞ!酒を飲んだだけだぞ!」
「あの術が効かぬのは、大妖怪の証拠!二度と悪戯が出来ぬようにしてやる。大人しくしろ!」
青年は、レムを抱えたまま自宅へ連れて帰ると、弟子たちに酒の池を作らせる。
レムは、じたばたと手足を動かしたがびくともしない。
ならば、人間の姿に変化しようとしたが、青年の霊力の強さに負けて変化できなかった。
酒の池が完成すると、青年はレムを池に放り込む。
青年の霊力から解放され、人間の姿なったが、そのまま酒の池に沈められた。
「そんなに酒が飲みたいなら、そこで沈んで反省しろ!人に迷惑をかけるな!」
「ごぽぽぽ。我が輩は、迷惑かけてないぞー!濡れ衣だー!ごぽぽ……」
(………)
ユー子は、そっと穴から視線を外す。
「レム、濡れ衣でしばかれてた……」
(あの烏帽子の青年って、タケルの守護霊さんだよね。生前ってあんな感じだったんだ。融通効かないのは、前からなんだ)
「うーん、次は何観ようかな〜」
ユー子は、再び穴を覗く。
(優子_産まれた日……っと)
すーっと場面が変わる。
大汗をかきながらいきむ母。
「おぎゃー!!」
登場とともに、大きな泣き声をあげ、手足をばたつかせて、存在をアピールする、女の子。
(うん。この騒がしさは、私だな……)
母は、ユー子を抱きしめて微笑んだ。
「産まれてきてくれてありがとう。これから宜しくね」
その優しい眼差しは、とてもきれいだった。
病室に戻った母と、私を父が待っている。
ずんぐりむっくりの、愛嬌のある顔立ちの父。
父は、母に労いの言葉をかけると、私をぎごちなく抱き上げる。
「なんて、可愛い子なんだ。絶対に幸せになるよう守るからな」
涙を流しながら額にキスをする父をみた。
「心優しい子に、人に愛される子になって欲しい。名前は“優子”でどうだろう」
「ええ、良いわね。“優子”ちゃん、私達のところに来てくれてありがとう」
あぁ……私、愛されてた。
私を見てくれる人、こんなにも身近にいたんだ。
いっぱい守られてた。
幽霊になっても、守られてた。
ユー子は、そっと穴から視線を外すと、隣にいた男の子に声をかける。
「ねぇ、君は何をみたの?」
突然、質問されて、男の子は目をぱちぱちさせた。
「僕はね、産まれてからずっと病院にいたし、友達もいなかったからね、未来を観たよ。前の人生がね、経験が少な過ぎるから、早めに転生出来るんだ」
男の子は、寂しそうに微笑んだ。
「だからね、新しいパパとママ、誰がいいか探してたんだ」
ユー子は、男の子を見つめる。
その表情は、どこか晴れやかだ。
「もう、見つかったの?」
「うん!」
男の子は元気に頷く。
「この人達だよ!」
そう言って、男の子は穴の中を、ユー子と一緒に覗き込む。
そこには、タケルとナオの姿が映し出されていた。
タケルがナオに懸命にアピールしているが、何故かナオは親切なお兄さんとして接している。
「あははは。タケル、アピール下手くそ!ナオちゃんには、もっとストレートに言わなきゃ!」
突然笑い出したユー子を男の子は、目を丸くして驚いた。
「お姉ちゃん、このお兄ちゃんのこと知ってるの?僕、このお兄ちゃんのお陰で、ここに来れたんだ!」
男の子は、目を輝かせてユー子にしがみついた。
「うん!私もタケルのおかげでここに来れたよ!」
「お兄ちゃん、タケルって言うんだ……」
男の子は頬を赤めながら、照れたように笑った。
「僕ね、約束したの。また会おうねって。だからね、この人の子供に産まれたい!って申請をしてるの」
「いいと思う!私、タケルもナオちゃんも大好き!いいパパとママになるよ!」
ユー子は、自信を持って男の子に伝える。
「……私、いろんな人に守られてた。……今度は、守りたい!!」
ユー子は、ずっと胸の中に眠っていた種が、ぱちりと音をたてて弾けて、にょきっと大きな芽が出てきたのを感じた。
男の子は、ユー子の瞳の輝きが増すのを感じた。
「お姉ちゃん、霊力高いよね。守護霊の申請してみたら?向こうに手続きカウンターがあるよ」
「えっ?そうなの?」
「うん!僕、案内してあげる!」
先に走り出す男の子の背中を見つめて、ユー子は、思った。
タケルとナオの子どもの守護霊になる。
いや、絶対になる!
私、あの男の子を守りたい!
寂しい時も、苦しい時も、味方になる!
楽しいことがいっぱいの人生になるように、導く!
めちゃくちゃ元気な子になるよう護るんだから!
そう決意した。
「お姉ちゃん〜こっち!はやく〜」
「任せて〜!!今いく〜!」
声を張り上げて、思いっきり走る。
カウンターでは、無表情の管理人が書類を渡してきた。
霊力、性格、意気込みが自動入力される。
「申請受け付けました。では、研修(修行)会場はあちらです」
無機質な声に導かれ、ユー子は鼻息を荒くしながら、その扉を開けた。
レムが自由過ぎて修行まで行かなかった……。
次回こそ、修行です。




