末っ子レムの休日
レムこと、レイルメフィムは、死神を引き摺りながら、城内を闊歩してきた。
死神は、魂が抜けたような表情で無言だ。
「……えっ、れ、レイルメフィム殿下?……いつお戻りに?」
城を管理する、執事長は、はっきりと二度見をしてから、戸惑いながら声をかけた。
「今!」
レムは真っ直ぐ前を向いたまま答えると、横目でちらりと執事長に視線を向けた。
「ねぇ、姉貴どこにいる?いつものとこ?」
「ヴェルメフィア様ですか?……はい、いつもの研究室に引きこもって居られますが……」
執事長は引き摺られている死神を見た。
「あの……殿下。これは……」
「あぁ、ちょっと話をしたら、魂が抜けたみたいでさぁ。ウケるよな。魂狩りの魂が抜けるって」
死神は天井を見つめたまま、ぼーっとしている。頬は腫れ、足はあらぬ方向に曲がっている。
「ははは……殿下は本日も絶好調でいらっしゃる。私は厨房へ参りますので、ここで失礼します」
執事長は、厨房へ急ぐ。
レイルメフィム殿下が帰還された事を伝えに。
おそらく、これから厨房は戦場になる。
ヴェルメフィア様のお部屋では、よくわからない研究や開発をされている。
実験体や謎の生き物がいることもあるが、話題に触れないのがこの城での常識だ。
その部屋に殿下が、死神を連れていったところで問題ではない。
そう、レイルメフィム殿下の食欲に比べれば、無問題だ。
執事長は、全速力で滑るように厨房へ向かった
*****
レムは、地下に向かうと重厚な扉をノックもせずに豪快に開けた。
「姉ちゃんいる?」
扉を開けると、薬品や、何に使うのか不明な怪しい器具(血痕付)、大量の積み上げられた本や紙。
天井しか見えて居なかった死神の目は、忙しく室内を見渡した。
その中心に、黒髪の見目麗しく、ナイスボディな美女が目の下に隈を作って、扉を睨みつけた。
「ノックしろっていってんだろーが」
(ひぇ………)
「ヴィア姉ちゃん、死神連れてきたー」
ドスの効いた声にも、物怖じせずにレムは、死神をヴェルメフィアの前に放り投げる。
「ぶぶっ……」
「あら?その声はレムたん?」
甲高く可愛らしい声が響く。
(……レム……たん?)
睨みつけていた目は、ぱあっと輝く。
両頬に手を添えて、きゅるんと微笑む。
死神を踏みつけてレムの傍に寄った。
「ぐぇっ……」
「レムたん、いつ帰ってきたの?寂しかったわ。元気?怪我してない?」
ヴェルメフィアは、レムの全身をペタペタと触ると、脇腹の傷に気づいた。
「レムたん、どうしたの?この傷!可哀想に……誰?この傷をつけたのは!」
ヴェルメフィアは、手のひらに黒曜石のような光を灯すと、傷口に優しくかざす。
途端にきれいに傷は塞がっていった。
「ん?この傷?大した事ないのに〜」
「小さな傷でも痛いでしょ?だれ?これやったの!」
誰がやったのか言うまで、離さないと言わんばかりにレムの腕に抱きつく。
「こいつ」
レムは、ヴェルメフィアが踏みつけている死神を指差した。
一気に室内の気温が下がっていく。
「へぇ……うちの可愛いレムたんを傷付けたのは……お前か?」
冷たい視線が死神を抉る。
(いや……どう見ても、私の方が重症……)
「ヴィア姉ちゃん、個人的な恨みもあって、俺がボコったから、大丈夫だよ」
あまりの気迫に、珍しくレムは引いていた。
「……個人的な恨み?こいつ、傷をつけただけじゃないの?」
「あっ……やべっ」
火に油を注いだと、レムは口を手で覆うとあさっての方向を見て誤魔化した。
「レイルメフィム。何があったの?」
ヴェルメフィアの声は、徐々に低くなっていく。
「いやぁ〜もう過ぎた話だし〜」
「……そう、思い出したくないほど、酷いことをされたのね……」
ヴェルメフィアは、目に涙を浮かべる。
「大丈夫!お姉ちゃんに任せなさい。レムたんを傷付けた分は、きっちりと落とし前をつけてあげる!」
(ひぇっ……)
「ヴィア姉ちゃん、俺もう立派な悪魔だから大丈夫だって!俺もちゃんと処刑してるし。矯正するなら誰に任せたらいいか、姉ちゃんに聞こうと思って連れてきただけだからさ」
レムは慌てて、ヴェルメフィアの怒りを鎮めようとした。
(レイルメフィム殿下……、お願いします。この悪魔怖いです。別の方、別の方でお願いします)
「そうねぇ……レムたんがそう言うなら……」
死神は言葉を発することも出来なかったが、ホッと小さく一息ついた。
(助かった……)
「処刑よりも更生したいのね?じゃあ、私に任せなさい。ねっ。そうしましょう」
ヴェルメフィアは、両手を合わせると、にっこりと笑った。
(えっ!)
「レムたんが、どんなに可愛くて、美しくて、恐ろしい悪魔かを讃えられるように、徹底的に教育しましょう」
(ぶ、ブラコン……)
レムは、急にすんと真顔になると、どうでも良さげな表情をして天井を見上げた。
「あ〜じゃあ、ヴィア姉ちゃんに任せるよ」
(お前、絶対面倒くさいって思っただろー!!)
レムは同情する目を一瞬向けたが、直ぐに興味を無くしたように振り返り、扉に向かった。
「じゃあ、姉ちゃんまたね〜」
「レムたん、いつまで居られるの?」
離れていくレムの背中を見つめながら、ヴェルメフィアは手を伸ばす。
「う〜ん、わかんない。また直ぐに出かけると思うけど、とりあえず飯食ってくる!」
「私も行くわ!先に食べて待っててね。こいつ、ちょっと締め上げてから行くから〜!」
「はいよ〜」
ヴェルメフィアの瞳が、死神の瞳を覗き込む。
「へぇ……お前、あくどい事してきたね。魂の純度の高いものを利用し、愛すら糧にしたか……」
先程と、変わって恐ろしい程、冷静に分析を始める。
(………終わった。私、完全終了。死神界で滅せられた方が幸せだった……)
死神はそっと意識を手放した。
*****
「おぉ、これもうまいな!」
静かに品のある食べ方なのに、料理が消えていくスピードは恐ろしい程早い。
「これも、好きだ」
レムはテーブルに置かれた食事を片っ端から食い尽くしていく。
空になった皿を下げ、新しく盛り付けられた皿を置く。
たくさんの種類、たくさんのワイン、レムが満足するまで、料理は出されて続けていた。
デザートまで食べ尽くし、「風呂に入りたい」と一言呟くと、執事長は急いで風呂の準備を命じる。
レイルメフィムが風呂といえば、風呂の準備。
喉が渇いたと言えば、ワインや果実水を準備する。
他の王子や王女は、あまり要求はしない。
食にさえ興味が無かったりしている。
単独行動を好まれるが、レイルメフィムは違った。
周りが甘やかす。
愛嬌のある言動が拍車をかけていた。
末っ子王子、帰省のたびに場内は混乱していた。
主に末端の者たちが。
「風呂入ったら、ちょっと人間界に寄ってまた、戻ってくる」
帰るってくるまでに、夜食用意しておいてと、一言残して薔薇の香りを纏ったまま、直ぐに出かけてしまう。
自由奔放。
それでいて、きっちりと外交はこなしているので、やはりご褒美にと周りは甘やかしていた。
*****
レムは、ユー子が逃げれたか気になっていた。
黒猫の姿でユー子を探す。
ユー子の魂は、光輝く。
旅立とうとする姿を見て、レムは「にゃ〜」と一言つぶやいた。
結局、一番常識人は、死神なのかも知れない。
レムすら振り回す、ヴェルメフィアが最強説あります。
主に、治癒魔術、結界、呪い等の研究に勤しんでいます。
次回、ユー子の守護霊修行。
応援に来てくれたのは……。




