昭和幽霊の、本当の笑顔
昭和幽霊のユー子は、スマホの写真をスクロールしていた。
少し前までは、心霊スポットや、青白い自身の自撮り、廃屋に肝試しに来た配信者の動画のスクショだった。
どれだけ恐ろしく写っているか、それだけを考えていた。
最近になれば、空港で初めて三人で撮った写真、寝ているタケルとセクシーなレム(美女)、毛繕いをするレム、ナオとのツーショット、四人で撮った写真、どの写真も必ず笑顔があった。
「……あれ?」
ユー子は、ふと不思議に思った。
スマホで自分の名前を検索する。
つい最近、芸名を思い出していた。
「……やっぱり……」
モデル時代の僅かな写真が数枚出てきた。
「……違う」
仕事は楽しかった。
けれど、疲れていた。
「はは……今より青白い」
思えば体調はこの時から既に悪かった。
忙しいからと思ってた。
確かに、忙しくて常に疲れてた。
けれど、気合いが足りない。
体力がない。
痩せられるし、白くなるし、それでいいと思ってた。
「……私、何を頑張ってたんだろ」
楽しかった。
みんなが、私を見てくれた。
意地悪もされた。
けれど、応援してくれる母がいた。
妹も、父も。
ファンもいた。
だから、頑張れた。
身体の悲鳴を無視した。
もっと早く、自分のことを考えていたら……。
いや、あの病気はそれでも患ってたはず。
でも……。
もっと、家族との時間がとれたはず。
「はは……今ごろ気付くなんてね。私、馬鹿だ」
検索画面には、古い週刊誌の記事もある。
ユー子は、その記事は読まず、そっとホーム画面に戻した。
四人で笑う写真。
「これが、私の本当の笑顔……これが、私の未練」
ユー子の大きな目から、涙が溢れる。
あぁ……もう、私もここにはいられないのかも知れない。
「ユー子、どうした?」
あくびをしながら、タケルが起きてきた。
「ふふ……タケル、髪ボサボサ。髭出てる」
「寝起きだからな。加齢臭がしないだけいいだろ」
相変わらず、切り返しが早い。
「匂い元々あまり分かんないもん」
「あ〜そうかよ」
タケルはキッチンに入ると水をごくごく飲んだ。
髭が伸びるのは、生きているから。
タケルがやけに眩しく感じた。
「レムのもふもふが恋しいよ」
ユー子がつぶやくと、タケルはイルカのぬいぐるみをユー子の前に、ポイっと投げ込んだ。
「それでも、モフモフしておけ」
タケルがゲーセンのクレーンゲームでとったぬいぐるみ。
ユー子は、そのぬいぐるみに顔を埋めて涙を隠した。
「ユー子、ナオちゃんに来てもらうか?」
タケルは、ぬいぐるみに顔を埋めるユー子に、提案した。
しばらく動かないユー子を、タケルはそっと見守る。
「……うん」
ぬいぐるみ越しに、こもった声が響く。
「ナオちゃんに、会いたい」
ユー子は、ゆっくりと顔をあげると、自然と笑顔になった。
*****
ナオは、葬儀社のストレッチャーに乗る真希を見送る。
白く清潔な布に包まれた真希は、小さい。
「皆さん、本当にありがとうございました。短い間でしたけれど、母も喜んでいたと思います」
由希子は、職員に向かって深々と頭を下げる。
職員も一斉にお辞儀を返し、葬儀社の車が見えなくなるまで、黙礼を続けた。
「……ナオさん、伊藤さんの最後の言葉、聞こえた?」
看護師がナオに振り返りながら、尋ねた。
「……はい。やっと迎えにいける……でしたね」
「うん……あれ、どういう意味なんだろ?迎えに来たじゃなくて、迎えに行けるって……」
「伊藤さん、不穏になると、ずっと娘を迎えに行くって言ってましたよね……。それに、早く死にたいって……」
ナオの目から、遅れて涙が溢れる。
「……なんだかとても切ないです」
真希を見送る寂しさ以外の、別の寂しさが胸を締めつけていることに、ナオはまだ気付けていなかった。
ナオは勤務時間を終え、着替えを済ませるとスマホを覗く。
ホーム画面は、黒猫のへそを出し、股をおっぴろげで舌を出したまま寝ている写真だ。
なんとも言えない、力の抜ける写真にナオは微笑むと、メッセージの通知が入った。
ーーーー
【タケルさん】
ナオちゃん、お疲れ様。
今日は仕事?
休みの日にユー子に会いに来てくれないかな。
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【ナオ】
もちろんです。
何かあったんですか?
次の休みは、予定があるので来週でもいいですか?
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【タケルさん】
もちろん。
ユー子が会いたがっているんだ。
ちょっと落ち込んでるから、気分転換にね。
じゃあ、また来週な
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ユー子、どうしたんだろ?
また、一緒に遊んだら元気でるかな?
次はどこに行こう。
タケルさんからのお誘いなら、タケルさんも一緒かな?
あっ。レムさん、ちゅちゅーるん食べるかな。
あと、猫じゃらし!
喜びそう!
帰りにペットショップに寄ってから帰ろう。
ふふと笑ってナオは、施設を出た。




