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【本編完結】怖がられない昭和幽霊は、海外悪魔とSNSで意気投合する  作者: 小原みん
昭和幽霊と乗り越えたい過去

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昭和幽霊は、病院が嫌い

昭和幽霊のユー子は、SNSを見ていた。

最近撮った、黒猫レムが舌をしまい忘れたまま眠る写真も、ハートは三つだけ。


レムと、タケルと、ナオだ。


ハートは嬉しい。

けど身内だけ……。


少しだけ落ち込みながら、ホーム画面に戻す。


四人で撮った写真は、みんな笑顔だ。


「忘れられたくない……もっとたくさんの人に見てもらいたい……」


小さくつぶやいた声は、黒猫レムのいびきにかき消されていた。


「ユー子、俺これから除霊に行くけど、ついてくるか?」


キッチンで洗い物を終えたタケルが手を拭きながらユー子に声をかけた。


「行く!どこに行くの?」


ユー子は、目を輝かせて顔を上げた。


楽しいことは好きだ。

外出も。

タケルの除霊はきれいだった。


また見たいと思った。


「病院だよ。看護師がリネン室に行きたがらないって相談があったんだ」


「病院……?」


ユー子は急に胸が苦しくなった。

身体がこわばる。


「……嫌だ」


「ん?何か言ったか?」


「嫌!行きたくない!」


ユー子の突然の大声に、レムがぴくりと体を起こす。


「病院……イヤ」


頭を抱えながら首を振るユー子に、タケルは何かを察したように小さく息を吐いた。


「そうか、じゃあレムとお留守番してな。散歩に行っててもいいし」


タケルは、ユー子の頭を軽く撫でると支度を始めた。


「お前、病院嫌いなのか?注射か?」


レムはきょとんとしながら首を傾げると、対して興味なさげに毛繕いを始めた。


「病院……何もないよ。誰も見てない……ただ忘れられるだけ……」


ユー子は、自身の長くて艶のあるきれいな黒髪を手ですくうと毛先を見つめた。


「看護師も医師もいるだろ」


前脚を舐めながらレムは上目遣いにユー子を眺める。


「違うよ……みんな忙しいもん。私は寝てるだけ……そのうち、忘れられる……」


自慢の髪は短くなり、健康的な肌はどんどん痩せ細っていく。

身体が動かなくなる恐怖。

治療しても辛くなっていく。

なんとも言えないだるさ。

苛立ち。


自分が自分でなくなる。


自分の代わりなんていっぱいいる。

画面の向こうで笑う、別の誰か。

その場所、私がいたはずなのに。


ユー子は、息が苦しい気がしてきた。

生きていないんだから、苦しくなるなんてないはずなのに……。


レムは、ナオとパンケーキを食べた時の女の子の姿になると、そっとユー子を抱きしめた。


「……忘れられたくないか……、長い間存在していると人は皆死んでいく。我が輩を覚えているものなどいない」


その声はどこか切ない。


「お前、悪魔になるか?ずっと我が輩の隣にいればいい。我が輩ならずっと覚えていてやれるぞ」


「………」


ユー子は、レムを見つめた。

猫のような丸い大きな赤い目が、ユー子を真剣に見つめていた。


「……その方が楽しいかな……」


ユー子は、レムの視線から逃れるように目を閉じた。


レムの口の端が僅かに上がる。


「あぁ、きっと楽しい。お前の霊力の高さがあれば、悪魔にもなれる!」


レムは、静かに青年の姿になると、妖艶に笑い、ユー子の手を取る。


「悪魔になれば、我が輩の城にも案内出来るぞ!」


レムの声が弾んだ。


ユー子が再び目を開けると、レムの背後に支度を終えたタケルが立っていた。


ぱちこーん!

どこから出したかわからないハリセンでレムの頭を叩くと、タケルは「行ってくる」と短く言ってから、家を出て行った。


車のエンジン音が遠ざかるのを、頭を摩りながらレムは悪態をついた。


「うにゃー!いきなり叩くとは!タケルめ!覚えてろよ!ソファーで爪研ぎしてやるっ!」




*****



タケルが病院に着き、挨拶を済ませると、すぐに事務長に案内されたのはリネン室だった。


「こちらです」


リネン室の中から、女性の啜り泣きが聞こえてくる。


硬い声で事務長が、リネン室の扉を開けると、若い看護師が肩を震わせて泣いていた。


(……これか?)


タケルは、若い看護師を見つめた。


「君、どうしたんだね?今日はお客様が来るからリネン室は立ち入り禁止と周知されていなかったか?」


事務長は、怪訝そうな顔で若い看護師を見つめた。


(……違った……生きてる人間だった……)


「こんなところで、泣いてどうしたんですか?」


タケルが声をかける。

事務長からの事前説明では、怪奇現象が起きるから看護師が行きたがらないとの事だった。


(こんな場所で一人で、電気もつけずに泣くとは……)


「すいません……その話、私聞いていませんでした。先輩たち、情報くれないんです。私が鈍臭い所為ですけど、みんな忙しくて。誰にも聞けなくて……くすんっ」


「新人はみな通る道です。あなたの先輩たちも泣きながら頑張って今があるんですよ。さぁ、ここから離れなさい」


事務長は、淡々と告げる。


(看護師さんって大変なんだなー。ばーちゃんが入院したときは、みんな優しいって思ってたけど……)


タケルは、涙を拭きながらリネン室から出てくる看護師を見つめた。


「泣くならここで泣かない方がいい。ここは場所が悪すぎる。どんどん心から沈んでいったはずだ」


タケルは、リネン室の奥から良くない空気を感じ取っていた。


まるで手招きをするような、嫌な空気だ。


「……はい、すいません……」


新人看護師は、うつむきながら呟き、視線を床に投げたまま僅かにお辞儀をすると、ぱたぱたとその場から離れていった。


「いや〜すいません!タケルさん。あぁやって泣く場所を探す新人が毎年数名は居るんですよ。その子も先輩看護師も、どちらも悪い訳じゃないんですけどね?命の関わる場所でもあるから、自然と厳しくなるんでしょうね」


事務長は、額の汗をハンカチで拭いながら早口でタケルに説明をする。


「いや〜分かるんですよ。看護師みんな怖いですから……あははは」


事務長も看護師の威圧に負けることがあるらしい。


新人看護師の訴えも聞くことがあるのか、腹の胃のあたりを摩っている。


事務長の話を聞きながら、タケルは無言でリネン室の奥を見つめた。


「ここで、どんな怪奇現象が起きるんですか?」


「へっ?あぁ、すいません。つい愚痴が……」


事務長は、ハンカチをポケットに仕舞うと、リネン室の電気を点けた。


リネン室の中には、シーツやポジショニングクッション、枕などが置かれ、洗濯後特有の清潔感のある匂いがする。


「タケルさんに言うのもなんですが、看護師って霊感が強い人が結構いるんですよ」


「それは、聞いた事があります。人を見てケアをする仕事ですから、自然と霊感の強い人が集まりやすいんです。霊は見てくれる人を常に探していますから」


「ひぇ……そ、そうなんですね……」


淡々と語るタケルに、事務長は再度ハンカチをポケットから取り出した。


「それで、ここで何が起きてるんですか?」


「あぁ……すいません。看護師や洗濯室の職員が言うには、空気が悪いと。誰かに見られている気がする。舐めるような視線で気持ち悪いと……。あとは、黒い影が壁を張っていたとか、子どもの霊が見えたとかですかね」


事務長は、タケルの後ろから、身を縮こませながらリネン室の中を覗き込む。


「………」


タケルは、リネン室の奥、枕が並んだ場所を無言で見つめていた。


「……あの、タケルさん?」


「……男の子と、それを守るように女性の霊がいますね。二人は親子ではなさそうだ」


「……本当にいるんですね……。お呼びして良かったです」


事務長は、半歩下がりリネン室から出ている。


「あの……その女性は何から男の子の霊を守っているんですかね……?すいません、私こう言う話苦手で……」


怯えながらも、気になるのか震えながら事務長はタケルの背中を見つめた。


「……悪霊からですよ」


「ひぇ……」


タケルの静かな声に、事務長は更に二歩下がる。


「看護師さんが見た、壁を這う黒い影……。私には大きな人型に見えてますけど、こいつから男の子を守っていますね。この二人は特に問題はないです」


「そ、そうなんですね」


事務長はジリジリとタケルから離れていく。


「事務長さんは離れていて良いですよ。大丈夫です。除霊は可能です」


「わっわかりました!お願いしまっす!」


ずさささっとすごい勢いで事務長はリネン室から離れていく。


廊下の曲がり角まで移動すると壁越しにリネン室を見つめた。


「さて、どうしようかな」


タケルは一人でつぶやくと壁際にいる大きな人型の黒い塊を見つめた。


ちらりと奥を見ると、女性の霊の後ろで子どもの霊が隠れている。


「さて、師匠たち手伝ってくれないか?」


タケルの静かな呼びかけに、烏帽子を被った青年と、薄紅色の衣をまとった女性が現れる。


『タケル、呼び出してどうした?』


『我らの力を借りなくても、この程度のもの祓えるであろう?』


「……いや、なんか嫌な予感がするんだ。この塊、何か隠している」


タケルは、薄紅色の守護霊に男の子と女性の見守りを、烏帽子の守護霊と共に、黒い塊の除霊に取り掛かった。


祝詞をあげ、護符で黒い塊を追い詰めていく。


不安、健康な人への嫉妬、悪意、全ての負の感情が混じった集合体。


タケルの静かな声に、分散されていく。

それは、思ったよりも簡単に。


それでもタケルの勘。

警笛は鳴り止まない。


後ろだーー!!


タケルが振り返ると、薄紅色の守護霊が吹き飛ぶ。


子どもを守っていたはずの女性の霊は分散されていく


守られていた子ども。

男の子の霊は、唇の端を僅かに上げながら、静かに立ち上がった。


「おじちゃん、強いんだね?」


あどけないボーイソプラノの静かな声が、リネン室に響いた。

タケル、ピンチ?

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