海外悪魔は、……悪魔なの?
キモカワなマスコットに憑依した、海外悪魔のレムは、長過ぎる手足を振り回して踊った。
ちょんまげ頭。
ちょび髭の顔はどこかユーモアがある。
ブラックスーツを着た身体は細長い。
ばたばたばたっ。
とんととん。
くるりんぱ。
「タケル、どうだ我が輩のダンスは!」
「ぎゃははは!レム、なんだそれっ」
「レム、そのマスコット気に入ったの?」
「ああ!動きやすいし、ナオもステキって言ってたぞ!」
マスコットはちょび髭を向けてドヤ顔をする。
「王子様なのに、威厳ない〜」
きゃははと笑うユー子に、タケルは眉をひそめた。
「王子……様?」
「ああ!我が輩は、第三王子なんだぞ!偉いんだぞ!」
「は?……お前、王子なの?王子がふらふらしてていいのか?」
タケルは、まじまじとマスコット(ちょんまげ)を見つめた。
「我が輩は、ふらふらするのが仕事だからなっ。有能な魂をスカウトしたり、人間観察したり、死神退治という、大役を務めておる!」
「へぇー……死神?」
タケルは、目を鋭くするとレムマスコットを持ち上げる。
「タケル、死神見たことある?」
わくわくを隠さず、ユー子はタケルを見つめた。
「……あぁ、一度だけ」
タケルは視線を落とすと、レムマスコットを持つ手が微かに震えた。
「俺が唯一、心の底から恐怖で震え上がった存在だよ。あんな気持ち悪いもの、二度と視たくない……」
目をぎゅっと閉じると深く息を吐いた。
タケルの手の中で、ちょんまげマスコットは力をなくすと、タケルの前に青年のレムが現れた。
「お前、視たのか?」
レムは真剣な眼差しをタケルに向け、声を一層低くした。
レムの低い声に、ユー子は背筋が凍る気がした。
「視た……というより、見かけた……に近い。中年の男の背後に張り付いていたよ。死神だけじゃない色んな霊魂もついていた。あんなに恨まれる人間っているのかと思ったさ」
タケルの暗い声を、ユー子は初めて聞いた。
「死神……なんだろうな。あれが……。とても嫌な視線で中年の男を舐め回すように見ていたよ」
「そいつと目が合ったか?」
レムはタケルの目を覗き込む。
「いや……こっちには気付いていなかった。烏帽子の守護霊が“視るな!”と言って、強制的に気を失わされたから、その後どうなったかは知らないけど、多分気づいていない」
「そうか……その、安倍のなんちゃらに感謝すんだな。守護の者もろとも命狩られてたぞ」
「……あぁ」
レムの言葉を飲む混むようにタケルは力なく頷いた。
「ねぇ……そのおじさん、どうなったのかな?そんなの憑いてて無事……じゃないよね?」
ユー子は二人の様子をみて、小さく震えながらつぶやく様に問いかけた。
「死神に、まとわりつく霊魂……想像を絶する最期と、死んでからも解放されることはないんじゃないかな……恐ろしいけど、自業自得なのかも知れない……」
タケルは力なく微笑みながら、ユー子の頭を撫でる。
「まぁ、ちゃんと仕事をしている奴だったんだろう……無差別に嗤いながら狩る奴もいるからな。また、見かけたら直ぐに逃げるんだぞっ」
「レムはそんなのを退治するの?」
ユー子は、不安げにレムを見上げた。
「我が輩は強い悪魔だからなっ。これも王族の務めよ!まあ、退治するのは、はぐれ死神か不良死神だなっ」
「……悪魔とは……」
どんな世界観だよと小さくつぶやくと、タケルは、クリームパンを半分に分けるとユー子に渡す。
「タケル、ありがとう!全部は多いなって思ってたんだ!」
「そりゃ、あんだけクリームの乗ったパンケーキ食べたら、しばらく甘いものは食えないだろ」
「我が輩は食べられるぞ!」
タケルは牛乳をコップに注ぎ、ユー子とレムに渡すと、クリームパンを一口かじった。
*****
ナオは、真希の前に置かれた、手をつけていない食事を見つめた。
「伊藤さん、お食事食べませんか?ひと口でもいいので……」
「………」
ナオの呼びかけに、真希は表情を変えない。
最近は特に表情も虚ろだ。
さらに痩せてきており、言葉も少ない。
どこかユー子に似ている顔に、なぜか心が締め付けられた。
「伊藤さん、好きなものは何ですか?クリームパンとか、メロンパンとか……」
クリームパンとナオが言うと、真希の表情が僅かに変わる。
「……娘を迎えに行かなきゃ」
「………娘さん、何歳なんですか?」
ナオは、真希の彷徨うような手を握ると、そっと問いかけた。
「………」
真希は、じっと食事を見つめると、静かに首を振る。
「私はいい……。あなた、どうぞ」
か細い声でナオを見つめると、そっと目を閉じた。
「半分こしませんか?先に伊藤さんが食べてください。あとで私も半分頂きますから」
ナオはスプーンに、豆腐を乗せると真希の口元へ運ぶ。
真希は、ゆっくりと目を開けた。
「……半分こ。そうね、半分こしましょう」
真希は、ゆっくりと口を開けた。
「ナオさん、伊藤さんどう?」
食事の様子をみにきた、管理栄養士のカオリは、控えめな声でナオに問いかけた。
「少しだけ、口を開けてくれました。半分こしようと言ったら表情が変わりましたよ」
「半量にした方がいい?」
「いえ……“はんぶんこ”の言葉に反応した気がします」
ナオの言葉に、カオリはしばらく考えた。
「……誰かと分けるエピソードがあったのかしら?娘さんとか?……無理に食べて嘔吐する人じゃないし、しばらく全量出して『半分こ作戦』で様子見ようか……。栄養補助食品はどう?」
「そうですね……『半分こ作戦』いいかも知れないです。フロアスタッフで共有しますね。栄養補助食品は、数口なら食べてくれます」
「数口でもいいから食べてもらいましょう。あと、水分はしっかりとお願いしますね」
「分かりました……そういえば、次女さん何か言ってました?」
ナオは、真希にお茶飲ませてから、カオリを見上げた。
「うーん……今の食事の様子からは提供出来ないけど、クリームパンが家にいつもあったって言ってたの。真希さんが好きだったのかしら?」
「クリームパン……ですか?入所したてのときに、真希さん、娘さんがクリームパンが好きでよく買ってきてたって言ってましたけど……」
「真希さんが好きだから、娘さんが買ってきてたとか?ん?それって次女さんの話?次女さんは、家にあったって言ってたけど」
「いえ……長女さんって言ってました」
「なるほどね……。長女さんか……。触るだけでも……いや、匂いとか?……クリームだけとか……。うーん……ちょっと考えてみるね」
カオリは、真希をそっと見守ると他の利用者の食事の様子を見に行った。
「伊藤さん、そういえば、伊藤さんと写真の優子さん、似てますね」
お茶を飲み込む様子を見ながらナオは、真希に声をかけると、真希はきらきらした目をナオに向けた。
「ありがとう……。よく言われてた。由希ちゃんは旦那に似てる。ふふ、私の愛した人……」
真希は穏やかに微笑むと、すーっと眠り始めてしまった。
(………ユー子。真希さん、何だったら食べてくれる?)
ユー子に真希のことを話してもいいのか、ナオは分からなかった。
(タケルさんなら、どうするだろう……。話さない方がいいのかな……)
ナオは、他の利用者の食事介助を始めた。
『歳をとって最後に食べたいもの』は人の生き様が出る気がします。
みなさんは、何が食べたいですか?
レム「我が輩は、特大パフェが食べたいぞ」
タケル「そもそも、お前って死ぬの?」




