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【本編完結】怖がられない昭和幽霊は、海外悪魔とSNSで意気投合する  作者: 小原みん
昭和幽霊と乗り越えたい過去

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昭和幽霊は、女子会を楽しむ

おしゃれをした昭和幽霊のユー子は、改札近くの壁画の前に着いた。


控えめなフリルとボウタイがついたブラウスに、千鳥格子のジャンバースカート。

ボルドーのタイツに、靴は黒のメリージェーン。

長い髪には、ベレー帽が計算されたような角度で可愛らしく乗っている。


小さなボストン型のバッグには、たぬきな猫のマスコットが揺れていた。


「ナオちゃーん!お待たせー」


ユー子は、壁画の前に立つナオに手を振って駆け寄った。


「ユー子、おはよう!……あれ?レムさんは?」


ナオは、辺りをきょろきょろと見渡した。


「レムは、ここにいるよ!」


ユー子は、バッグを持ち上げるとマスコットの手がひょこひょこと動く。


『我が輩は、ここだ。今日は女子会って聞いたからな。配慮が出来る悪魔は、我が輩しかおらんだろう』


「えっ。この中にいるの?マスコットがしゃべった!ふぁ、ふぁんたじー!!」


ナオが、マスコットのお腹をぐにゅっと押すと、『うぐっ……もっと優しく……』とレムの声が漏れた。


「きゃー!かわいい!」


ナオは興奮した様子で、遠慮なくお腹をぷにぷにと押した。


『うげっうげっ……辞めんかい!我が輩はデリケートなんだぞ!』


「あ、ごめんなさい……つい……」


ナオは、優しくマスコット(レム)のお腹を撫でると、ユー子に向き直った。


「じゃあ、行こうか!映画を観て、それからパンケーキを食べるでどうかな?ユー子は、どんな映画が好き?」


「うんとねー、よく分からないから、ナオちゃんが観たいやつ!」


少し考えてから、ユー子は弾ける笑顔でナオを見つめた。


「じゃあ、アニメでもいい?魔法と冒険と感動系なんだけど」


「うん!いいよ!アニメ好きだよ!」


映画館に着くと、ナオが観たかった映画がちょうど上映時間を迎えるところだった。


「あっ、ちょうど良い時間だったね。チケット買っちゃおう」


ナオがチケット販売機を手慣れた仕草で、購入していく。


「これでチケットが買えるの?窓口じゃないんだ……。今、お金渡すね。私の分も一緒に買ってくれる?」


ユー子は、バッグから財布を取り出すとナオにお金を渡す。


「ユー子、ありがとう。真ん中の席空いてる!やっぱり映画は平日だなー」


ポップコーンと飲み物を持って、席に行くと先客が座っていた。


「あれ?席、合ってるよね……」


ナオはチケットの座席番号を確認すると、ユー子は、先に座っている人に向かって、しっしっと手を振った。


レムも『ふしゃー!!喰っちまうぞ!』と威嚇すると、座っていた人は、ゆらりと形を変え消えていく。


「……今の幽霊?」


「そうだよー。タダ見するために居座ってるじゃないのかな?私だってタケルにお小遣い貰って来たのに!」


ユー子は、ぷんすこと怒りながら、どかりと椅子に座った。


『ノーモア映画泥棒だぞ!マナーは守らなきゃな。ユー子、観やすいように肩に乗せてくれ』


「分かったー」


ユー子は、キーチェーンを外すと肩に乗せる。

ナオは、落ちないか見守ったが、どうやらレムの力でバランスを取っているらしい。


「マスコットなら料金要らないですよね。もしかして、レムさんがマスコットに入っているのって……」


『違うぞ!我が輩が美し過ぎて目立つからだ!移動とか映画とかタダで過ごすことが目的ではないからなっ』


ナオはくすくすと笑うと、「そう言うことにしておきましょう」と小声で呟いた。


「ナオちゃん、予告始まったー!映画泥棒っているんだね!踊ってるよ!」


『録画……なるほど。我が輩の能力を使えば……』


「レムさん、ダメですよ」


光る赤い目が点灯し、録画モードに切り替わったように見えたナオは、静かに注意をした。


「ユー子と私が捕まっちゃいます」


『むむ……それは困るな。大人しく観るとするか……』


「それと、鑑賞中はなるべく静かにですよ」


『そうなのか?アメリカでは皆、騒ぎまくってるぞ』


「日本ではマナー違反です。面白いシーンで笑うとかはありですけど、おしゃべりは控えて下さいね」


『分かった。なるべくしゃべらないようにしよう』


「あ、本編始まるー。楽しみ!」


ユー子は、ポップコーンを口に放り入れながら、わくわくする気持ちを隠さずに笑顔でスクリーンを見つめた。



*****


「おもしろかったー!」


映画が終わるとユー子は、大きく伸びをした。


「良かった!ユー子に喜んでもらえて。面白かったね」


「うん!悪役令嬢が、ざまぁされてからのどんでん返し!悪魔との契約。魔法で真の悪魔を倒すところとか最高だったよ。主人公をサポートする、ちょっとキモカワなキャラクターも良い味出してたね」


「そうだよね!契約した悪魔の美しさが半端なかった!しかも、めちゃくちゃ良い人だし、悲しい過去もうるっときちゃった」


『美しさなら我が輩の方が美しい!悪魔は良いやつなんかじゃないさ。誘惑する為の偽造に過ぎん!』


「でも、レムはいい人だよっ」


『ふん!』


ユー子の曇りのない視線に、レムは顔を背ける。


「ラスボスの悪魔は、最低でしたね。まさに悪魔って感じでした」


『あれは、悪魔というより、死神に近い』


レムはぽそりとつぶやく。


「死神って本当にいるんですか?」


「私も見たことないよ?」


ナオとユー子は、顔を背けたレムを見つめた。


『我が輩は、奴らが嫌いだ。なんの美学もない。ただ命を狩っていく。ユー子、会ったらすぐに逃げるんだぞっ』


「えっ、そんなにやな奴なの?」


『本来は憎しみをたくさん背負った奴の魂を狩っていくんだが、たまに気まぐれで無差別に狩っていく奴もいるから、気に食わん!』


「そうなんだ〜。私は霊力高めだから、頑張って逃げるよ!」


「死神……ってやっぱり大鎌とか持ってるんですかね」


『大鎌を持っている奴もいるが……それよりも視線だな。嫌な視線をしている』


「そうなんだ〜会わないのが一番だね」


『そうだな。奴らも暇ではないから、そう遭遇はしないさ』


映画館のショップを覗くと、映画に出てきた主人公をサポートするキモカワなキャラのマスコットが売られていた。


長い手足。

頭はちょんまげ。

顔にはちょび髭。

ブラックスーツを着たキャラクターの表情は間抜けで愛らしい。


「レム!これなら動きやすいんじゃない?」


ユー子は、手に取ると、たぬき猫のマスコットの前でぷらぷらと揺らした。


『むむ、確かに動きやすそうだが、我が輩の美学が……』


「スタイリッシュでかわいいと思いますけど」


ナオの一言で、レムはキモカワキャラに憑依する。手足を動かすと、気に入ったようだ。

『ふむ。悪くない』と一言つぶやいた。


ユー子は会計を済ませると、バッグに着けた。たぬき猫のマスコットはレムの異空間に仕舞われ、ナオは興奮した。


「そんな異空間収納なんてあるんですか!すごい!すごい!ファンタジー!!」


『そうだろ?我が輩は凄いんだ!千年前に取得した!』


キモカワマスコットのレムは、ドヤ顔をする。


「異空間ってどこに繋がってるんですか?」


ナオは目を輝かせてマスコットに詰め寄る。


『ん?我が輩の実家の城だぞ?』


「……実家が太い!城?レムさんって御曹司?」


『太い?我が輩は太ってないぞ!』


「あぁ、ごめんなさい。そう言う意味じゃなくて、お金持ちとか由緒ある家系って意味です」


ナオは慌てて説明をした。


『日本語は難しいな。まあ、由緒ある家系ではあるな』


「まさか、王子様?」


ナオは口に手を添える。


『王子って言っても第三王子だからな。自由気ままに過ごせるってもんよ』


「ガチだった……」


「そんなことより、ナオちゃんパンケーキ食べに行こっ!」


ユー子は、ナオの手を握ると歩きだす。


「うん!そうだったね。行こう!」


『我が輩も!我が輩も食べる!』  


ナオとユー子は、人がいないところに移動すると、レムがマスコットから出て女の子になるところを見守った。


「はぁ〜確かに、この姿は目立ちますね。めちゃくちゃ美少女じゃないですか」


ナオは感心したように、大きく息を吐いた。


「青年だったり、美女だったり、美少年だったりするけど、何故かレムってわかるんだよね」


ユー子は首を傾げた。


「パーツは同じだからな」


さも当たり前のように話すレムを連れて、三人はパンケーキ屋に入ると鬼盛りクリームのパンケーキを注文した。


運ばれてくる三種類のパンケーキにレムとユー子は目を輝かせた。


「すごーい!」


「写真撮ってタケルに自慢しよう!」


ユー子は、パンケーキの写真と三人で撮った(店員さんに撮ってもらった)写真をタケルに送ると、クリームを頬張った。


「ユー子ってクリーム好きなの?」


ナオは、パンケーキを頬張りながらアイスティーを飲むユー子を見つめた。


「うん。好きだよ!甘いものはなんでも好き!」


「そうなんだ!この後、どうする?」


「プリ機!プリントシール撮りに行こうよ!」


「いいね!そうしよう!」


ナオとユー子が、食べきれなかったパンケーキはレムがきれいに平らげ、ゲームセンターへ移動した。


何枚かプリ機で撮ると、満足そうにユー子はシールを見つめた。

そこに写るのは、自然な楽しそうな自分の笑顔と、ナオの笑顔。

レムは、再びキモカワマスコットに入っていた。


ナオとユー子が、ゲームセンターの中を見て廻っていると、三人組の青年たちに囲まれた。


「お姉さん達、かわいいね。俺らと一緒に遊ばない?カラオケとかさ!」


「あーごめんねー。ちょっと興味ないわ」


ナオは、慣れた様子で手を振るとユー子の手を握って足早にその場を立ち去ろうとした。


「いやーちょっと待ってよー。俺ら奢るよー」


一人の青年が、二人の前に回り込む。


「ちょっと、しつこいです!断ってるんです!」


ユー子は、きっ!と青年達を睨みつける。


「えー!か〜わ〜い〜い!」


背の高い青年達に囲まれ、ナオとユー子は壁際まで追いやられてしまった。


「そういえばさー、さっきパンケーキ屋にいたもう一人の可愛い子はどこ?トイレかな?」


(!!……こいつら!ずっと付けてたのか!)


ナオは頭に血が上るとともに、怖くなってきた。


ユー子は、繋いだナオの手が僅かに震えているのに気がついた。


(ナオちゃんは私が守る!)


そう決心したとき、ふと青年達の頭に影が差した。


()()の連れに何か用か?」


青年達の背後に、美しい青年が立っていた。


艶のある漆黒の髪。

筋の通った鼻。

整った眉のすぐ下には大きく鋭い赤い目が冷たく見下ろしていた。


規格外の美しさに、青年たちは言葉も出ない。


「もう一度聞く。俺の連れに何か用か?」


低く鋭い声に、青年たちは慌てて飛び退くと、「な、なんでもないです!すいませんでした!」と逃げ去っていった。


ナオがヘナヘナとその場で腰を抜かすと、手を繋いでいたユー子も引っ張られて、一緒に座り込んだ。


「大丈夫か?」


レムがナオと、ユー子の手を取るとゆっくりと引き上げた。


「……さすが、第三王子!カッコよ過ぎです!」


「レム、ありがとう!危うく相手を呪うところだったよ!」


「えっ、ユー子呪えるの?」


「うん!多分出来るよ!一週間不運が続くくらいだけどね!」


「それって例えば?」


ナオは、気になってユー子を見つめた。


「んー、スマホのデータとアプリが全て消えるとか、どこいっても電波入らないとか、電車に全て乗り遅れるとか、水虫になるとか?」


「うわぁ、どれも地味に嫌なやつ」


ナオは嫌そうな表情をした。


「そう?大したことじゃないと思うけど。スマホない時代があったんだからさ。あはは」


あっからかんとユー子は笑った。


「……そうかも?現代人って便利だけど、生きにくいのかな?」


ナオは首を傾げながら眉をひそめる。


「そうでもないさ。どの時代も人は対して変わらない。生きにくいかは、その人次第さ」


「さすがレムさん。長く生きているからか説得力がありますね」


「そうだろ?我が輩は凄いんだぞ!」


その後、三人はぷらぷらとショップを巡った。

ボディーガードのつもりなのか、ナンパされてからはレムは青年の姿で傍に居てくれている。


そろそろ帰ろうか、とナオが言うと、ユー子がパン屋を見つけた。


「ねっ、ナオちゃんパン屋寄って良い?」


「いいよ!ユー子パン好きなの?」


「うん、クリームパンを買いたくて」


ナオは、利用者の真希の話を思い出した。


“いい子なの。クリームパンが好きでね、外に出るたびに買ってくるの。すごく可愛い子でね。モデルをしているのよ”


「ユー子、クリームパン好きなの?」


「私じゃなくて、妹が好きだったの。だから、習慣なのかな。パン屋を見るとクリームパンが買いたくなるんだ」


ナオはクリームパンをトレーに乗せるユー子の背中を見つめた。


「………クリームパン、美味しいよね」


「うん!私もクリームパン好きだよ。でも本当は、メロンパンの方が好きなんだ」


そう言って笑いながら、ユー子はメロンパンをトレーに乗せた。


なんとレムは王子様だった!

作者もびっくり!


ナンパした青年たちよ。

レムがきてくれてよかったね。

ユー子の呪いは怖いぞ。

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