昭和幽霊と海外悪魔は、マスコットを選ぶ
三箇所の除霊をレムと終えた昭和幽霊のユー子は、タケルの家に戻ってきた。
「ただいまー!!」
元気に扉を開けたユー子は、黒猫になったレムを抱えている。
「おかえり……って、レム猫?抱っこして帰ってきたのか?」
タケルは、お腹を膨らませて眠りこけている黒猫をユー子から受け取った。
ぐにゃぐにゃとした身体は、抱きにくい。
鼻ちょうちんを作りながら眠るレムに、少しだけイラッとした。
「除霊ありがとな。楽しかったか?」
「うん!レムったらね、最後の場所で悪霊に説教してたんだよー」
ユー子は、思い浮かべながら、うふふと笑った。
「説教?悪霊に?」
「うん!そんなんじゃ怖くないぞ。もっと頑張れ!我が輩の時は……って長々とお話が始まって、悪霊たちはずっと正座して聞かされてたの。私も途中から飽きて、団地のブランコで遊んでたんだけど、気付いたら悪霊達が、もう勘弁して下さいって分散しちゃった!」
ユー子は、目を輝かせながら、一気に話をした。
「はは……俺も話をして除霊するスタイルではあるけど、レムはすごいな。悪霊を話だけで分散させるなんて……」
リビングに移動すると、タケルはレムをソファーの上に置いた。
レムはすぐに仰向けになると、大の字でいびきをかき出した。
「にしても、なんでレムはこんなに腹が膨れているんだ?」
「駅前の遅くまでやってる焼き肉屋に行って、お肉とビビンパと、参鶏湯を食べてきた!」
ユー子も満足そうに、お腹を撫でる。
「そっちかよ!……悪霊喰ったんじゃないのかよ!ってか食い過ぎだろ!」
どうやら幽霊は、匂い移りを気にしないでいいらしい。二人からは焼き肉の匂いがしなかった。
「じゃあ、シュークリームは明日にするか?ナオちゃんから貰ったんだけど」
「ナオちゃん……来てたの?」
ユー子は、目を丸くしてタケルを見つめた。
「あぁ、お前らが出かけた後にな」
「タケルずるい!私もナオちゃんに会いたかった!」
ユー子は、幽霊らしい表情で目を黒くしてタケルにしがみつく。
「ひぇ……」
「シュークリーム……食べる。今!」
ユー子はうつむくと、頬を膨らませながらタケルを見上げた。
「お前、腹いっぱいなんじゃないのか?」
「甘いものは、別腹なの!幽霊になったらお腹壊さなくなったし!」
「そうかよ……じゃあ座ってな。なんか飲むか?コーヒーか紅茶は?」
「紅茶!タケル、ありがとう!」
ユー子は、タケルが紅茶を淹れるのを足をぷらぷらさせながら待つ。
「ナオちゃん、今日は何でここに来てたの?」
「あぁ、お前のことを知りたいんだって。一緒に遊びに行きたいって言ってたぞ」
「えっ!ほんと?嬉しい!!」
ユー子は、ふふふと笑うと目の前に置かれたシュークリームにかぶりつく。
ふわりと香る紅茶とクリームに、満面の笑みを浮かべた。
ソファーで眠るレムの鼻がひくひくと動くと、ぱちりと目を醒ます。
「うにゃー!何を食べてるんだ?我が輩も食べる!」
がばりと起き上がると、素早い動きでテーブルまでジャンプする。
「レム、テーブルに乗るな。食べるなら人の姿になって椅子に座れ」
タケルが静かに注意すると、レムは青年の姿になり素直に椅子に座った。
筋肉質な腹は、すっきりとしていて、あれほど膨らんでいた腹はどこにもなかった。
(……レムの体は一体どうなってんだ?)
「お前は何飲む?紅茶か?コーヒーか?」
「うむ、我が輩も紅茶を頂こう」
タケルは「ほらよ」と紅茶とシュークリームをレムの前に置いた。
「にしても、レム、猫の時はあんなに腹が膨れてたのに、今は膨れてないのはなんで?」
タケルは、シュークリームを頬張るレムに問いかけた。
「あ?猫は腹が膨れている方が、可愛いからに決まっておるだろ?」
「……そうかよ」
「ぽんぽこのレムかわいいよ!たぬきみたいで!」
「むっ!たぬきと一緒にするな!」
「えーっ。たぬきも、かわいいじゃん!」
「我が輩は、狼にはなれるが、狸にはなれないからなっ」
「……どんな理論?」
「たぬきはイヌ科だからな。イヌ科は狼で取得したからなれない」
「えっ、種族は一種類だけってこと?」
「おう。大体の動物は取得した。我が輩はすごいんだぞ!ここまで出来る悪魔は、我が輩だけだ!」
「へぇー。それは凄いな。知らんけど」
「レム!狼になったら、私、背中に乗れる?」
「腰を痛めるから辞めてくれ。背中に乗りたいなら馬になってやってもいいぞ」
「もしかして、きれいな黒馬?」
「おう!自慢のたて髪を見せてやろう」
「待て待て!ここで、馬になるなよ。家が壊れる。あと、熊とか猪とかもやめろよ。こんなところで出現したってなったら、ネットが荒れるし、下手したら麻酔銃か、射殺だからな」
「我が輩を人間が、攻撃出来るとは思わんが……タケルが言うなら、そうなんだろう。では、別の場所でだな」
「やったー!レムの変身コレクション見たいー!」
「そしたら、全て写真に収めてくれ。動物になると自撮りが出来んからな」
「……もう、なんなの?その発想……」
「レム!狼!狼さんなら、ここでも大丈夫でしょ?」
ユー子は、狼の姿になったレムが見たくなった。
「おう、いいぞ。美しい姿を見よ!」
レムは、椅子から立ち上がると狼の姿に変わる。
子鹿くらいの大型の狼の目は赤く、漆黒の毛並みは輝き、胸元の毛のボリュームが王者の風格があった。
「もふもふ〜」
ユー子は、レムに抱きつくと毛並みに顔を埋める。
「ふわふわ〜幸せ〜」
「ユー子、やめてくれ〜。気高い狼なんだぞ〜」
「レム、俺も!俺も、もふもふしたい!」
レムは、二人から撫でられることに抵抗はせずに、ごろりと横になった。
「そうだ!写真!レム写真撮ってあげる!」
ユー子は、スマホを手に取ると狼の写真を撮る。
様々な角度から、レムの指示通りに十数枚撮った。
「あっ!ナオちゃんからメッセージが届いた!」
ユー子は、慌ててメッセージを開いた。
ーーーー
【nao】
やっほ。ユー子、今度遊びに行かない?
パンケーキとか好き?
鬼盛りのクリームのパンケーキ食べに行かない?
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クリームがたっぷり乗ったパンケーキの写真とともに届いたメッセージに、ユー子はその場でぴょんぴょん飛んだ。
「タケル!ナオちゃんからお誘いが来た!嬉しい!」
目を輝かせて喜ぶユー子に、タケルは優しい目で微笑んだ。
「それは良かったな。遊んでおいで」
「むっ!我が輩も行く!」
レムはユー子のスマホ画面を覗くと、鬼盛りのクリームに釘付けになる。
「……レム、女の子同士で楽しませてやってよ」
「女の子になればいいか?」
レムは、狼の姿から黒髪の可愛らしい女の子に変化する。
「うーん……そうじゃなくて……」
タケルは、レムになんて伝えようかと、目をつむる。
「レムがいないと、私、実体化できないよ?」
「むむ、我が輩はお邪魔虫か?なら、ぬいぐるみに憑依するか?パンケーキさえ食べられれば満足だぞ!我が輩は、空気が読める悪魔だからなっ」
「……レム、お前、いい奴だな」
「私、ナオちゃんにレムも一緒でもいいか、聞いてみる!」
ユー子は、ナオに返信をする。
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【yuu ko】
ナオちゃん、お誘いありがとう!
嬉しい!
行こう!行こう!
パンケーキ食べたい!
レムが一緒じゃないと、私、実体化出来ないの。レムも一緒でもいい?
ーーーー
【nao】
そうなんだ。
良いよ!
じゃあ、三日後はどう?
平日だし、お店も空いていると思うんだ!
映画とか観るのもどうかな?
ーーーー
【yuu ko】
映画!いいね!
楽しみにしてるね!
ーーーー
「ナオちゃん、レムと一緒でも良いって!」
ユー子は、女の子の姿のままでいたレムに呼びかけた。
「そうか!ナオはいい奴だな。だが我が輩はぬいぐるみでいいぞ。我が輩がいると目立ち過ぎるからなっ!」
レムはドヤ顔をする。
「確かに……その姿のレムは可愛過ぎて、注目浴びそう。じゃあ、ぬいぐるみに憑依してくれる?」
「おう!まかせろ!」
レムは、胸をとんと叩いた。
「タケル!いい感じのぬいぐるみある?」
「……あったかな?ちょっと探してくる」
戻ってきたタケルが手にしていたのは、マスコットのキーチェーンだった。
「これくらいしかなかったが、レムはどれがいい?」
うさぎがピザまんを抱えているマスコット
たぬきになった猫のマスコット
ハロウィンの仮装をした熊のマスコット
レムは三つを見比べた。
「むむむ。猫か熊が良いが……。たぬきか……。かぼちゃ(ハロウィン仮装)は我が輩は好きじゃないだよな……」
散々悩んだ末に、猫のマスコットを選んだ。
「たぬき猫!さっきのレムだね!かわいいと思うよ!」
「いや、これは猫だ!猫がなんでたぬきの格好をしているのか、不思議だが、猫!」
「とりあえず、入ってみたら?動きやすさとかあるだろ?」
タケルの言葉に頷きながらレムは、マスコットの中に入る。
ころん。
起きあがろうとしても、ころん。
『なんだこれは、ころころするぞ』
「あははは。レムかわいい!バッグにつけるから転がらないと思うよ!」
『むむ……』
レムは眉間に皺をよせて(そう見える)ぷるぷると震えると、ふわりと浮き上がる。
『我が輩の力を持ってすれば、ころころなぬいぐるみでも動かせる!もっと手足が長いやつだといいのだか……』
「じゃあ、ナオちゃんと一緒に新しいマスコット選ぶよ!」
『そうだな!そうしてくれ!』
(ぬいぐるみ憑依は続けるんだな……。猫になるとか、鳥になって追いかけるとかは無いんだ……)
タケルは、二人のやりとりを静かに見守った。
次回、ナオとお出かけ会。
タケル不在は、ツッコミ不在。
ナオちゃん、がんばれ!




