昭和幽霊は、本当の嬉しさを思い出す
ナオにメイクをしてもらった昭和幽霊のユー子は、ご満悦だ。
「みてみて!タケル!ユー子、かわいい?」
「あぁ、可愛い可愛い」
「レム!かわいい?」
「うむ……愛らしいではないか。そのまま悪魔になって魅了してみるか?」
「ユー子は素材がいいから、メイクするの楽しい!ビジュ良すぎて、怖いくらいだよ」
「えっ!ユー子怖い?やったー!」
ユー子は、ナオが大好きになった。
ギャルの格好をしているのは、幽霊が寄ってこなくなるかららしい。
(ふふ……タケルと少し似てる)
「写真撮ろ!」
「オッケー!」
二人はポーズを変えながら、たくさん写真を撮る。
「ナオちゃん、SNSフォローしたい!アカウント教えて!」
「ごめん、SNSやってないんだ。いろいろ疲れるから……」
「そうなの?……残念……」
がっかりした様子のユー子を見て、ナオはSNSのアカウントを作る。
「自分は投稿しないけど、見るだけで良かったらやるよ」
「ほんと?あのね、レムもタケルもアカウントあるよ!みんな相互フォローしよーよ!」
「タケルさんも、レムさんもSNSやってるんですか?タケルさんは、分かるけど、レムさんも?」
「そうだぞ!我が輩もアカウントあるぞ!そのおかげでユー子と意気投合して日本に来ることにしたんだ!」
黒猫は、二本足で立ち上がると、スマホを片手にドヤ顔をする。
(……どうやってスマホ持ってるんだろう)
ナオは、不思議そうにレムのスマホを見つめた。
レムのスマホのホーム画面は、青年レムで、胸のはだけたバスローブ姿をしており、妖艶にこちらを見つめていた。
「……なんか、えっちぃ〜な」
「エロスは悪魔の基本だからなっ」
猫の姿で言われても、なんとも言えない。
「猫の方が魅了される人多いと思うよ。それこそ、老若男女、人種関係なし」
ナオは、大真面目な顔をしてレムに告げる。
「なぬ!!それは本当か?」
「うん……。私、動画は猫ばっかみてる。やめられないんだよね。癒しは必要だよ」
「ばかもん!癒しを与えるのではない!恐怖と崇拝だ!よし、ナオ、お前の怖いものは何だ?」
「えっ?……税金」
ナオは急に真顔になる。
「なっなっ、お前も税金が怖いのか?」
「うん、だって、夜勤とか残業とか、懸命に働いてさ、処遇改善手当とかも貰ってるけど、結局、税金でがっぽり取られちゃうし」
「なんだそれっ!」
「なんかね、頑張るの辛くなってくるよね」
ナオはうつむきながら、ため息をついた。
「悪魔と税金、どっちが怖い?」
レムは、おそるおそるナオの顔を覗き込んだ。
「「んなもん、税金に決まってんだろ」」
「がーーん!!」
見事にハモった、タケルとナオの声に、レムは顎が外れんばかりに、大口を開けた。
「じゃあ、じゃあ、我が輩の恐ろしい姿を見ても怖くないのか?」
レムは、肉球をぺたぺたとしながらスマホを操作すると、本来の姿の写真をナオに見せつける。
「どうだ!怖いだろ!」
「……どうだと、言われても……。映画とかアニメとかで見慣れてるし……これ、A Iせい……」
「ナオちゃんだめー!それNGワード!」
ユー子は、ナオの口を両手で塞いだが、レムはがっくしとうなだれ、ごめん寝姿でうずくまった。
「なんか、ごめん。私そろそろ帰るね、明日仕事だし。新しく来る、利用者さんの受け入れ準備をしないと行けないんだ」
「そんなんだ!ナオちゃん、頑張ってね!また、連絡するね」
「うん、ユー子またね。タケルさん、今日はありがとうございました」
ユー子は、タケルと一緒にナオを見送ると、ごめん寝を続けるレムを撫でた。
「ユー子、良かったな。友達が出来て」
「うん!あのね、私、SNSでハートとかコメントとか貰えないけど、ナオちゃんやタケルと友達になれたし、レムも仲良くしてくれる。それがね、嬉しいの。本当の私を知ってくれていて、笑ってくれるがこんなにも心が温かくなるなんて、知らなかったよ」
「そうか……。気付けたんだな……」
(ユー子を空に還すのも、時間の問題……かな)
タケルは、レムの背中に顔を埋めるユー子の背中を眺めながら、少しだけ寂しそうに笑った。
*****
「ナオさーん、新しい利用者さん、来られたわよー」
「はーい!」
ナオは、相談員の案内でフロアにきた、利用者と娘に挨拶をした。
「ようこそ、ここが伊藤真希さんのお部屋ですよ」
「……迎えに行かなきゃ。娘が待ってるの、ここはどこなの?ここに娘がいるの?」
顔立ちのきれいな、八十八歳の真希は、落ち着かない様子で、部屋をきょろきょろと見渡している。
ティルトリクライニング車椅子に、ちょこんと座った真希は、半身麻痺があり介護度は高い。
痩せ細った身体、低栄養の状態で、先は長くないのではと、ナオは、相談員から説明を受けていた。
「伊藤さん、娘さんが待っているんですか?移動で疲れたと思いますので、少し休まれていきませんか?」
真希の話を否定せず、ナオは落ち着いた声色で、声をかけた。
「……すいません。混乱しているみたいで……。私は次女の由希子と申します。母が探しているのは、若くして亡くなった姉のことなんです」
「そうなんですね……」
「はい……。母は私の事は忘れてしまったみたいなんですけど、姉のことは、よく覚えていて……」
「私の娘はね、すごく可愛いの。モデルと舞台女優をしているのよ」
真希は、目を輝かせてにっこりと笑った。
ナオはその表情をどこかで見た気がした。
「姉の写真なんですけど、お部屋に飾ってくれますか?」
「もちろんです。ベッドから見えるところに置きましょう」
ナオは、由希子から写真立てを受け取ると、写真を見つめた。
胸がどくんと大きく鳴った気がした。
「………これって………」
そこには、黒髪ロングの可愛らしい笑顔が写っている。
「どうか、されましたか?」
「いえ、ちなみに長女さんのお名前って……」
ナオは震える手を、抑えるように写真立てを強く握った。
「姉の名前ですか?」
優子ですーー。
ナオは、写真の中で笑うユー子を見つめた。
昨日、一緒に撮った笑顔とは違う……どこか、よそゆきの笑顔だった。
ナオは猫の後頭部とクリームパンみたいや前足が好きです。
レムは黒猫ですが、鼻と肉球はピンクです。
ナオは利用者さんに大人気の介護士さんです。
ちなみに、次女の由希子さんは父親似なのか、優子とはあまり似ていません。
自分の写真ではなく、優子の写真を渡す、由希子さんの気持ちを考えると、なんだか切ないです。




