昭和幽霊は、ギャルをタケルに紹介する
令和ギャルとおしゃべりを楽しんだ昭和幽霊のユー子は、玄関先でタケルとレムのお迎えをした。
「タケル、レムおかえりなさい」
「すいません。お邪魔してます」
ナオは、おずおずとユー子の後ろから顔を出した。
「えっ、なんでギャルがいんの?人間?生きてる人?」
タケルは、ナオをじっと見つめる。
「生きてるよぉ〜、タケル見れば分かるじゃん!」
「俺は、わかんねーんだよ。生きてるか幽霊か」
タケルは、頭をがしがしと掻く。
「あのおじさんは、生きてないよ〜。ナオちゃんのストーカーなの。タケルなんとかして!」
「いや、それは分かる。あんなの生きてるやつだったら余計にキモイだろ」
「うん、だからこの家なら入って来れないかなーって思って避難してた」
悪びれることもなく、さも当然のようにユー子は首を傾げる。
「だめだった?」
「ダメじゃねーけど……ったく、しょうがねーな」
タケルは、家の中に入ると二階から、数珠のネックレスを持ってきた。
「何気に、やばい奴じゃんか……。おい、レムも俺の後ろにいろよ」
タケルは、数珠を腕に巻き付けるとおじさんに向かって、両手の組み形を変えながら、呟いた。
おじさんは、手足をばたつかせながら静かに消えていった。
「はい、完了!ったく、悪霊になりかけだったぞ?……んで、君は誰?」
「ナオです。タケルさんは霊能者なんですか?」
ナオは、タケルをぼーっと見つめたまま、静かに答えた。
「まぁ、そんな職業だね。自営業だからいろいろ面倒だけど……。おじさんが消えるところまで視えた?」
「はい、静かに消えていきましたね」
「なるほど……。まあ、中に入ってゆっくり話しようか」
タケルは、おじさんがいた場所を一目見てから家の中に皆を招き入れた。
*****
「ナオちゃんは何か飲む?お腹は空いてない?」
「あ、お構いなく……。勝手にユー子についてきちゃっただけなんで……」
ナオは首を振りながら正座をする。
「いいって、遠慮しなくていいよ。くつろいで……レムはくつろぎ過ぎだぞ」
タケルは、ソファーで大の字で寛ぐレムをたしなめる。
「我が輩は、腹がいっぱいだ。だから何もいらないぞ」
「そうだろうよ……。あんだけ吸い取ってたんだからよ……。お前、デカくて邪魔だから、小さくなれ」
「猫!レム、猫になって!」
ユー子は、レムに駆け寄るとレムの頭を撫でながら催促する。
「……ねこ?」
ナオが不思議そうに首を傾げた瞬間、しゅるるるっとレムは黒猫の姿になる。
それでもヘソを天井に向けて、だらしなく大の字になっていた。
「もふもふ〜」
ユー子はそのままレムのお腹に顔を埋めて、思いっきり息を吸う。
「ユー子やめてくれ〜。せっかく食べたもんが減る気がする〜」
レムは情けない声を出しながらも、そのままだらけている。
「……え、なにこれ」
「だよな〜そう思うよな〜……」
ナオのドン引きしている表情を見ながら、タケルはナオにお茶と、クッキーを、箱ごと出した。
「こんなもんしかないけど、良かった食べてよ」
「あ、ありがとうございます」
現実離れした展開に、ナオはついていけず、考えることを放棄した。
「ところで、ユー子何があった?」
「うんとね〜、散歩して、猫にシャーされて、石を蹴飛ばしたらナオちゃんに会ったの!おじさんに付きまとわれてて、えいってしたんだけど、ついてきたから逃げた!」
「………ごめん、ナオちゃん何があったのかな?」
「あの、おじさんの霊に付きまとわれててて、逃げてたんです。そしたら、ユー子と会って……。喋れる幽霊に初めて会ったから、どうにかしてくれって頼んで、ユー子がなんか、波動?みたいなやつで倒してくれたんだけど、しばらくしたら起き上がって追いかけてきたから、ここに避難させてもらったんです」
「なるほど……ちょっとだけ全貌がみえてきたぞ」
タケルは顎に手を置きながら、ふむふむと頷く。
「すいません、私もよく説明出来なくて……」
「いや、いいんだ。こんな現実離れしたことを説明するほうが難しい。ナオちゃんは、変なもんよく視えちゃう人?」
「はい……子供の頃から……手首だけの影とか、家の階段に知らないおじさんがうずくまってたり、気づくと隣に赤いワンピースの女が立ってたり。どいつもこいつも、しゃべらないから、幽霊ってしゃべんないのかと思ってた」
ナオは、「もふもふ〜レムたん、かわいい〜」としゃべりまくるユー子に視線を向けた。
「なるほどね〜、ちょっとナオちゃん、手を触ってもいい?」
「……はい、どうぞ」
タケルは、ナオが差し出した手を、手のひらを上にして左右を見比べるように軽く握る。
「うん、だいぶ感性が強いな。もちろん、霊的な……だけど。人混みとか、大勢がいる飲み会とか苦手でしょ。あと、人の痛みに敏感すぎる」
「えっ……なんで分かるんですか?でも、人の痛みを感じるとか、人混みが苦手とか、みんなそうですよね?」
「うん、みんなにも当てはまるね。だけど、ナオちゃんは、人よりも強く受け取っちゃうんだ。霊たちも、ナオちゃんの優しさに敏感だから、つい甘えたくなっちゃうのかもね」
「えっ……じゃあ、私はタケルさんみたいに、追っ払ったりできますか?」
ナオのすがるような目を、タケルはじっと見つめる。
「……いや、ナオちゃんは、今世ではその力を使うつもり、ないでしょ?」
「………」
全てを見通すかのようなタケルの言葉に、ナオは言葉を失った。
「ナオちゃんはね、ずっと人を助ける仕事をしてきたんだよ。……あ、魂の話ね。だから、今世はおやすみなの。好きなことをして、自分を優先する人生を送るんだよ」
「ずっと、人を助ける仕事してたんですか?私、今は介護士をしてるんですけど……」
「はは、それこそ現世にあった人を助ける仕事だね!合っていると思うよ。これまでの魂は、巫女とか占い師とか、人を導く仕事だったんじゃないかな。後ろに巫女さんがついてる」
「巫女さん……ですか?」
「あぁ、かなり上位の巫女さんだね。お師匠さんだったんじゃないかな。あと、左側に厳つい武将っぽい人もいる。変なのが寄ってきても、たいがい追っ払ってくれるから大丈夫!ただ、疲れてたり心が病んでると、護りの力も弱くなるから、気を強くもつのがコツかな」
「………そうだったんだ。全部気のせいじゃなかったんだ」
「ははっ。気のせいの時もあったかも知れないけど、ナオちゃんは大丈夫!ちゃんと護られてるよ。視えたり、怖くなたら、後ろの人達に、視たくないって強くお願いしてごらん。目隠しをしてくれるよ」
「ちょっとまってて」タケルは短く伝えると二階からパワーストーンのブレスレットを持ってきた。
「これ、お守り変わりに着けているといい。おしゃれなパワーストーンと違って数珠に近いから、ちょっとダサいかも知れないけど」
タケルの手のひらの中には、二つのパワーストーンが握られていた。
「この二つを一緒に着けて。肌身離さず。バリアみたいなもんだから」
「……ありがとうございます。あっ、いくらお渡しすればいいですか?さっきのおじさんも祓ってくださいましたし、相場っていくらくらいなんでしょう?こんな、相談ができるなんて思ってなかった。私、嬉しいんです」
ナオは、受け取ったブレスレットを左の手首に着けると、バックから財布を取り出す。
「あー、俺が勝手にやったことだしなー。ユー子も女の子と話ができて嬉しそうだし……。今回はサービスってことで!次の依頼からはちゃんと料金頂くよ。それに、今日は臨時収入があったんだ!」
「それでも、私は納得できないです。祓うのもリスクとか、力を使った筈だし、パワーストーンだって材料費がかかっている筈です!」
「……ナオちゃん、しっかりしてるね。お兄さん、泣いちゃう……。じゃあ、五千円……もらおうかな。領収書持ってくるから待っててね」
ナオは、タケルに支払いを済ませると満足そうに笑い、ユー子に視線を向ける。
「ユー子ありがとう。タケルさんに会わせてくれて」
ユー子は、レムのお腹から顔を上げると、なんてこともないと目を丸くした。
「私じゃどうしようもなかったからね。タケルなら何とかしてくれるって思っただけで、私は何もしてないよ?」
「ううん、ユー子に会えて良かった」
ユー子は、心がぽわぽわするような、くすぐったい気持ちが湧き上がってくるのを感じた。
「えへへっ。ナオちゃんもレムなでなでする?普通の猫と違ってNGゾーンないから撫で放題だよ?」
ユー子が撫でると、レムはごろごろと喉を鳴らす。
「我が輩は、お腹いっぱいだよ〜。もっと撫でろ〜」
「……なんか、当たり前に受け入れたけど、さっきまで男の人でしたよね。猫になるって人間……じゃなくて何なの?」
「我が輩は悪魔だ!崇め讃えよ!ごろごろ……」
「レム、そんな体勢で言っても説得力ないぞ……。ナオちゃん、レムは本当に悪魔なんだ。海外から日本観光に来たんだって」
タケルはソファーに座ると、レムを撫でた。
「猫……か、きれいな男の人にしか見えなかったですけど……ってか、日本観光?」
「むむっ……。信用してないな?これならどうだ!」
レムは肉球をユー子のおでこにぴたっとくっつけると、ユー子は実体化する。
よりくっきりと、はっきりと目に映るユー子を見て、ナオは目を見開いた。
「あっ、レムありがとう!これでナオちゃんにハグ出来る!」
ユー子は、ナオに抱きつく。
「ナオちゃん、私と友達になってくれる?」
「……ユー子、もちろんだよ!こんなに触れるなんて……。しかも、ユー子ちょーかわいい!メイクしようよ!もっと可愛くなれるよ!」
「ほんと?やったー!!あと、写真撮ってSNSに載せたい!!」
はしゃぐユー子を、レムを撫でながらタケルは静かに微笑んだ。
「なぁータケルー。ネトフリ見よーぜ」
黒猫のレムは、あくびをしながらテレビに向かって前足を伸ばした。
「……なにこれ、ナオちゃん順応早くね?ってかレムなんでネトフリまで知ってんだよ」
「ねぇ、タケル。臨時収入って何があったの?」
ユー子は思い出したかのように、タケルに訊ねた。
「あぁ、俺たちホストクラブで一日体験してな。レムは、800万、俺は80万稼いできた!」
「……それってすごいの?」
「……やばっ。一日体験でそれってやばくない?」
ナオは目を丸くして驚いたが、タケルの話し方や、レム(青年ver)を思い浮かべて、納得したかのように頷いた。
「……ナオちゃん、ほんと君は肝が据わってるわ。修行したら霊能者になれるよ……」
「あっ、私怖いの嫌だし、面倒なこと嫌いなんで……」
「だよねー。今世はお休み回だもんねー。困ったことがあったら、いつでも連絡ちょうだい」
そう言ってタケルは、ナオと連絡先を交換した。
タケルはやっぱり苦労人。
実はめちゃくちゃ強い霊能者だったりするんですけどね。
ナオちゃんが視た、手首だけの影、階段でうづくまるおじさん、気付いたら隣にいた赤いワンピースの女は、実体験を元に書いてたりします。
怖くはないけど、気持ち悪いよね。




