海外悪魔は、夜の繁華街へ行く
日本観光を楽しむ海外悪魔のレムは、タケルとともに夜の繁華街に来ていた。
「いいねぇ〜欲望の匂いがする」
意気揚々と夜の店が立ち並ぶ道を突き進む。
ネオン、爆音で流れる音楽、地面に座り込む若者、酔っ払い、客引きらしき従業員、散乱するゴミ、喧嘩や下品な笑い声。
すでに頭痛がしてきたタケルとは、対照的にレムはうきうきしている。
目立つ二人ではあるが、派手な格好の人や酔っ払いが多く、視線はあまり感じない。
タケルは、なるべく人と目を合わせないように、視線を落とす。
人と幽霊の違いがよく分からないからだ。
あまりにも人が多く感じていた。
「お兄さんたち、暇?私たちと遊ばない?」
きれいな女性二人組が、レムとタケルに声をかける。
レムは、少しだけ屈んで女性たちの顔を覗き込むと、女性の顎に手を添える。
「また今度な」
くすりと微笑むと、女性は膝からふにゃふにゃと崩れる。
「あ、あの……どこかの店で働かれてますか?」
すっかり座り込んでしまった女性の腕を支えながらもう一人の女性が、タケルに声をかける
「えっ?店?」
「はい、お兄さん達、ホストかなぁ〜って思って。お兄さん達がいるなら、その店に行こうかなって思ったんですけど、違うんですね」
「違うよ〜ただの観光。お姉さん達も遅くならないうちに帰りなね!」
タケルは、穏やかに微笑むと、女性の肩にそっと触れる。
「……なんか、肩が軽くなったような……?」
女性はポツリとつぶやくと、説明を求めるようにタケルを見つめた。
「……気のせいだよ」
タケルは短く答えるとレムの腕を引いてその場を離れた。
女性たちは、しばらくレムとタケルの背中を見つめていたが、やがて駅に向かって歩いて行った。
「タケル、ホストってなんだ?」
少し進んだ先でレムはタケルに問いかけた。
「あ〜……お金もらって酒飲むところ」
「誰がその金払うんだ?」
「……主に女性かな。お姫様のように扱って、話を聞いてあげて、お酒を飲む……感じかな」
「へぇ〜それって楽しいのか?」
「夢を売る……感じ?」
(レムに闇の部分まで話したら、面倒くなる未来しか見えない……)
「ふーん……つまらない夢だな。もっとどろどろしたやつが見てみたい」
興味をなくしたようすのレムに、タケルは小さく息を吐いた。
その時だったーー。
「あー!!ちょっと、ちょっと!そこのお兄さん、お兄様!!」
突然、黒スーツに身を包んだ青年がタケルにしがみついてきた。
「ぬぉぉっ!なんだよ!ひっつくなよ!」
タケルは、黒服の青年を蹴飛ばす。
「さっきの女とは、えらい違いだな……」
レムは、一歩引いて呟いた。
「男に抱きつかれて、喜ばねーよ!」
それでもしがみついてくる青年を、引き剥がしながらタケルはレムに怒鳴りつけた。
「あの、俺、店長に殺されそうなんです!助けて下さい!」
「殺されるとは、また面白そうなことを言っている。青年、何があった?」
レムは、夜の店の闇を察知した。
(うわぁ〜めんどくせぇ〜)
タケルの顔がひきつる。
「あぁ〜聞いてくださり、ありがとうございます!」
青年は涙を流しながら、レムに近づく。
「おぉ……近くで見ると、本当にお兄さん、悪魔的におキレイです!怖いくらい」
「あぁ、悪魔だからな!」
どこか噛み合っていないやり取りを、げんなりとした表情でタケルは見守った。
(ったく……レムの喜びそうなこと言いやがって)
「そのコンセプト、いいですね!……というのも、俺の働いている店のNo.1のライトさんを怒らせてしまって、出勤拒否されちゃったんです!今すぐ変わりを見つけて来ないと殺すって店長に言われてしまって……うわーん!!」
「ほぅ……それで、我が輩にNo.1になれと?」
(いや、そこまでは言ってないだろ……)
「はい〜!!お兄様方は、顔がいい!そして雰囲気もいい!No.1狙えます!稼げます!愛と欲望の店で、その魅力を発揮してみませんか?もちろん、売り上げに応じて給料をお支払いします!」
「愛と欲望……ねぇ」
レムは妖艶に笑うと、タケルを見据えた。
(おわった……。この黒服、わざとか?わざとレムのヒットワードを言っているのか?)
「タケル、面白そうだ!助けてやろうではないか」
(やっぱり〜!!)
予想通りの展開に、タケルは項垂れる。
「稼げるんだろ?」
「レム。お前、身分証明書ないじゃないか。だから……」
「いえ、お兄さんが保証人になってくだされば、あとは俺がなんとかします!ほんと、命かかってるんで!よろしくお願いします!」
青年は勢いよく腰を曲げて、頭を下げる。
「……ったく、しょーがねぇーな。そこまでお願いされたら、断れないじゃねーか。ちゃんとした店なんだろーな」
「はい!もちろんです。福利厚生、税金、専任弁護士もいますし、反社は関わっていない、クリーンな店です。しかも、結構名の知れた店なので、そこは安心してもらっていいっす!」
青年は、晴れやかな顔をして、満面の笑みを浮かべた。
*****
黒服の青年のユーマに連れられて、レムとタケルは、煌びやかな店に入った。
少しだけ薄暗い店内、シャンデリア、シャンパンタワー、酒のボトルと、男女の話し声。
店に入った途端、レムは口の端をあげる。
「ふふふ……タケル、ここはいい!腹が満たされそうだ」
タケルは、レムに視線を向けると深くため息をついた。
「店長!店長ー!!」
「うるせぇ、代わりは連れてきたんだろーな!」
「はい!稀に見る逸材です!」
ユーマは、店長にタケルとレムを紹介する。
「レムさんと、タケルさんです。体験入店で入っていただく感じでどうでしょう?姫たちもいっぱいお金出してくれそうです!」
「ばかやろう!金出すとかいうな!……しっかし、確かに逸材……よく見つけたな」
店長は、レムとタケルを頭からつま先まで眺める。
「お前らは、酒は強いか?」
「ふん!三日三晩酒盛りしても潰れたことはない!」
レムは、ドヤ顔で胸を張る。
(潰れなくとも、酒の池に沈められたんじゃねーか……)
タケルは、レムを横目に見ながらも「割と強い方だと思います」と答えた。
「よし!今日出勤しているメンバーと、この二人でなんとかまわそう!源氏名はどうする?」
「レムのままでいい」
レムは、源氏名が何か分かっていなかったが、そのままの名前を指定した。
おそらく、レムという名も真名ではないのだろう。
「俺は……ノアで」
タケルは、咄嗟に浮かんだ、最近読んだ小説の登場人物の名前を指定した。
「よし!レムとノアだな!売り上げるぞぉ!」
「おーっす!!」
タケルは貸し出しされた衣装に身を包む。
レムは貸し出しされた衣装のズボンの丈が足りなかったので、店の従業員の目を盗んで自前のスーツ(異空間から取り出した)に身を包んだ。
「お二人とも、素敵です!ライトさんの売り上げなんて越えちゃって下さい!」
ユーマは、二人の背を軽く叩くと店内の姫たちの席に案内した。
ホストクラブは良く知らないので、テレビで見たイメージです。すいません……。
ユーマくんは、きっと悪気なく人を怒らせてしまう天然ボーイです……。がんばれユーマ!がんばれ店長!




