昭和幽霊は、霊感令和ギャルと出会う
プリシールをスマホに貼った昭和幽霊のユー子は、帰りの車の中で爆睡していた。
「ユー子、着いたぞー」
タケルは、後部座席に呼びかけた。
「ったく、なんで幽霊なのに寝るんだ?俺が祓ってきた幽霊は寝てなかったぞ?」
「ん〜、たぶん車は寝るところって思ってたからだと思う……ちょっとだけ、思い出したの」
「えっ?まじ?ユー子、何してたんだ?」
「なんか、写真撮られてたと思う。フラッシュと『笑って〜』って声が浮かんできた」
「……モデルとかしてたのか?」
「ふりふりのワンピースを着たり、舞台にいたかも?」
ユー子の脳裏に、スポットライトを浴びている自分が過ぎる。
「とにかく、疲れてたかなぁ〜」
「……そうか。まあ、今はゆっくり出来てる……って感じか?」
「うん!なんか、ゆっくりしてるし、楽しいよ」
ユー子は、タケルの受け答えが心地よく感じた。
(こんな風に話がしたかったのかも……。もう少し、思い出してもタケルなら受け止めてくれるかな)
三人は家に入ると、思いおもいにくつろいだ。
レムは、SNSのチェックをはじめ、ユー子はイルカのぬいぐるみを抱きしめながら、テレビで動画(心霊特集)を見ている。
タケルは二階にあがると、祝詞と、依頼されていた人形の除霊と御札を書き上げ、玄関前の結界を簡易的に貼り直した。
「タケル、夜の繁華街に連れて行け」
タケルが仕事を終え、リビングに戻ると、レムは、ニヤリと笑いながら待っていた。
「繁華街?なんで?」
「我が輩は腹が減っている。人の欲望が多いところに行きたい」
「繁華街ねぇ……。新宿かな?」
「じゃあ、そこ連れて行け」
「電車でいいか?酒飲むだろ?」
「なんだっていい」
「ユー子は、どうする?一緒に行くか?」
「人多いところは、ちょっと……。私は近所を散歩しているよ。近所の心霊スポットっぽいところ探す」
「んな、猫探すみたいなノリで言うなよ……分かった、じゃあ、レムと出かけてくる」
「うん!いってらっしゃい!」
*****
ユー子は、タケルとレムを見送ると夜の町を散策した。
途中に出会った野良猫には、シャーと言われて落ち込んだ。
「いいもん。レムをいっぱい撫でるから」
野良猫に、ベーッと舌を出す。
幽霊になってから、夜風も感じなくなった。
暑さも寒さも何も感じない……。
寂しい……。
痛みも苦しみも感じない……。
でも、寂しい。
道端の石を蹴りたくなった。
足に霊力を集中させて、石を蹴飛ばす。
コロコロと石が飛んでゆく。
その石を追うと、喚きながら走ってきたギャルと鉢合わせた。
「ぎゃっ!……ったく、今日は、なんでこんなに変なのに遭遇すんだよっ!!」
ギャルは、ユー子の顔を見るなり悪態をついた。
「変なの!変なのって言った!ひどい!」
「うわっ、こいつ、しゃべんのかよ」
「しゃべれるよ!失礼だよ!」
「……ちっ。それどころじゃねーんだよ。こっちはよぉ。あーほら追いかけてきた!」
ユー子は、ギャルが振り向いた先を覗いた。
片腕をなくしたおじさんが、呻きながら寄ってくる。
「うわ〜こわっ……私に必要なのはあれかなぁ?」
ユー子は、首を傾げながら、なにか参考になるところはないかと、おじさんを凝視する。
「お前も幽霊なんだろ?あいつ、なんとかしろよ」
ギャルは逃げることを諦め、ユー子の後ろに隠れる。
「私、幽霊だから、後ろに隠れても透けちゃうよ?」
「んなことたぁ分かってんだよ!しゃべれるんだろ!あいつを説得しろ」
「え〜出来るかなぁ〜?タケルが居れば良いんだけど……」
ユー子は、とりあえず話をしてみることにした。
「あのぉ……おじさん?追いかけちゃだめですよぉ。怖がってます。怖がらせたい気持ちは、分かりますけど、怖がったらそこまでで終わりにしてあげないと、お供えもらえません」
「うぎぎぎぎぃ〜」
おじさんは、表情を変えずに近寄ってくる。
「あっ、だめだこりゃ。言葉忘れちゃってる……ってか、私のこと視えてんのかな?」
ユー子は首を90度以上傾ける。
「ぬぉっ。お前、渋谷に居た、キモい幽霊じゃん!」
「えー?渋谷?あっ、きもっていったギャル!あれ、私、傷ついた!」
「あぁぁ、めんどくせぇ。悪かったよ!だから、あれ、なんとかしてよ」
めんどくさい……。
なんか、昔そんなこと言われた気がする。
「う〜む……」
ユー子は、眉に力を入れて、おじさんに掌を向ける。
「こっちに来ないで!」
ユー子は霊力を掌に集中させて、解き放った。
ぱしゅん。
気の抜けた音が響くと、おじさんはふらつく。
そのまま、バタンと後ろに倒れた。
「おっ!お前やるじゃん。すげー」
ギャルはユー子の肩を叩こうとするが、突き抜けて、すかっと空振りをする。
「えへへっ」
(頼られた!感謝された!)
ユー子は嬉しくてその場で、高速でぴょんぴょん飛び跳ねる。
「お前、もしかして千葉県非公認のゆるキャラの中の人?」
「なにそれ?」
「いや、なんでもない。……ってか!おじさん起き上がってるぞ!」
おじさんは、バタバタと足を動かしながら起き上がろうとしていた。
「ぎゃー!!」
「ぎゃー!!」
「ってかなんでお前まで怖がってんだよ!」
「えーこんな幽霊初めてあったよー。皆んな親切な人ばっかだったし……。悪霊になる前かもぉ〜」
「はぁ〜?幽霊に親切もなにもあるかよっ!近寄ってきたり、ストーカーされるだけじゃねーかよっ」
「えーそうなの?」
「ったくぽやぽやしてんな、さっきのやつ、もう一回やってみてよ」
「うん!分かった!……おじさん、ごめんね!!えいっ!」
ユー子は再び霊力を放つと、おじさんに命中した。
おじさんは、ひっくり返ったまま、わきわきと片腕と両足を動かしている。
「なんか、この動き……生理的に無理」
「……わかる」
ユー子とギャルは顔を合わせると、ふふと笑い合った。
「じゃあ、ギャルちゃん!逃げよう!」
ユー子は、霊力を手に集中させるとギャルの手を掴んで走り出す。
「えっ?冷たっ……なんで触れんの?」
「霊力高めだからぁ〜。走って〜」
「ったく、おっ遅ぇ〜よ!それから、私はナオだよ!ギャルちゃんじゃない!」
「あはは、分かった!ナオちゃん、私はユー子だよっ!」
ユー子とナオは、タケルの家の前まで走り続けた。
「ここ、この家、安全!」
「ここ誰の家?ユー子の家?」
「タケルの家!昨日会ったの!」
「はぁ?タケルって生きてる人?」
「うん!れーのーしゃだよっ!……たぶん」
「なんだ、それっ」
「とりあえず、中に入って!タケル、今日結界貼り直してた!おじさんは入れないと思う!」
ユー子は、タケルに渡されていた鍵を使って扉を開けると、ナオを玄関に押し入れた。
ユー子も扉の中に入り、二人で外を伺うと、追いかけてきたおじさんは、家の前の道路から中に入ろうとしていた。
「あいつ、追いかけてきてた!」
ナオは、涙目でユー子を見つめる。
「大丈夫だよ。ほら、外でわきわきしてる」
おじさんは、見えない壁に阻まれるように片腕をかさかさと動かしていた。
「やっぱり、あの動き無理……」
「わかる」
ユー子とナオは、再び顔を合わせて笑いあった。
「タケルとレム、出かけてるの。帰ってくるまでここに居ればいいよ。タケルがきっとなんとかしてくれる」
「……タケルってやつ、良いやつみたいだね」
「うん!良い人で、優しいよ!」
「そっか……幽霊って怖いやつだけじゃないんだな。あと……キモいっていってごめん。助けてくれてありがとう」
ナオは、ユー子を真っ直ぐ見つめた。
「ううん。いいの。慣れてるし……。頼ってくれて嬉しい!タケルが帰ってくるまで、ネトフリみて待ってよ!」
「……幽霊ってネトフリみんの?」
「動画でもいいよ!心霊特集面白い!」
「勘弁してよぉ〜」
ナオは、ユー子に案内さリビングの前の廊下で足を止めた。
「二階……神聖な空気がするね。居心地が良さそう」
「ナオちゃん、わかるんだ。すごいね!あっ、タケルと友達になれるかも!タケル、友達いないみたいだから、良かった!」
ユー子は手を合わせると、にっこりと笑う。
「……お前、さらりと失礼なこと言ってないか?」
「そうかなぁ?」
ユー子は、リビングに入ると、ナオに部屋の電気とテレビをつけてもらう。
「ナオちゃん、これがタケルとレムだよ」
ユー子は、ナオにスマホの写真を見せる。
ナオは、幽霊がスマホを操作していることに突っ込んだらいいのか、写真の顔面偏差値に突っ込んだらいいのか、分からなかった。
ユー子ちゃんが勝手に他人を家に入れちゃうのは、多分昭和のノリですかね。
かさかさ、わきわき動く幽霊なんて、絶対遭遇したくない。




