昭和幽霊は、ゲームセンターではしゃぐ
試着を終えた昭和幽霊のユー子は、試着室のカーテンを開けた。
試着室の前には、レムとタケル。
「ユー子、似合うじゃん。かわいいよ」
腕を組みながら、タケルは笑顔だ。
「うむ……。我ながらセンスがいい。ユー子らしさが出ているな」
レムは、満足気に頷いている。
ユー子は、二人の顔を交互に見つめると、にっこりと笑った。
「えへへ……。ありがと」
用意されたもの、流行りのものではなく、自分に似合うものを選んでくれた。
ただ、それだけで心のモヤモヤが消えていった。
「じゃあ、会計だな。タケル!金!」
「はいはい……。俺、そろそろ荷物いっぱいになってきたから、一度、置いてきていい?」
試着のまま、店員にタグを切ってもらい、会計を済ませると、タケルは駐車場に向かった。
タケルが戻ってくるまで、ユー子とレムは、ゲームセンターで待つことにした。
*****
「レム!すごい!おっきな、ぬいぐるみがあるよ!」
ユー子は、クレーンゲームの中のぬいぐるみを指した。
「この箱の中からどうやって取るんだ?」
「んー、わかんない!」
ユー子は、遊び方が分からなくても、わくわくしていた。
レムと写真を撮ったり、たくさんの機械と、遊んでいる人の動きを見るだけでも面白い。
「おーい。お待たせ〜ってか、なんでプリ機の前で自撮りしてんの?」
身軽になったタケルは、不思議そうな顔で首を傾げた。
「プリ機って、なんだ?」
「後ろの機械だよ。俺も久しぶりに見たけど。撮った写真がシールになって出てくんだよ。加工したり、スタンプ押したり出来んの」
「……スマホのアプリで出来るだろ?」
「……いや、スマホが出来る、ずっと前から加工出来たんだよ」
「やりたい!」
ユー子は、ぴょんぴょんとその場で跳ねた。
「よし、両替してくるから、ちょっと待ってろ」
小銭を持ってきたタケルは、二人をプリ機の中に押し込むと、小銭を入れる。
「いや〜最近のはよく分かんないけど、まあ、大体同じだろ……ってか、600円?うそだろ……」
タケルは、ぶつくさ言いながら、操作をすると、撮影が始まる。
「撮影だ!ポーズをとれ!」
タケルの呼びかけとともに、カウントダウンが始まりフラッシュが光る。
レムは器用にポーズや角度を変え、ユー子もタイミングよくポーズを決めたり、表情や視線を変える。
タケルは……ピースの位置を変えた。
「よし!次は加工のコーナーに行くぞ」
「わータケル、これ、目がでっかくなった!タケル、宇宙人みたい!」
「おい、エフェクトきらきらで、これじゃ天使みたいじゃないか!気に食わん!」
「えーっと、ここは無難に『ずっ友』と描いて〜、今日の日付と、『いっぱい買った』でいいか……」
ユー子とレムは、出来上がったシールを顔をくっつけながら覗き込む。
「あははっ。レムの脚!さらに長くなってる。タケルの目がきらきらして、ぱっちりしてる〜」
「角のスタンプがあったな……ふむ。タケル、もう1回!」
「おっけー、レムが気にいるとは思わなかったよ」
三人は、再度プリ機の中に入ると、レムは真ん中の位置をぶん取った。
「よし!準備は整った。タケル、始めてくれ」
小銭を入れて、撮影が始まる。
瞬間、レムの頭から割と大きめの角が生える。
「うわっ。こら、レム!」
パシャ。
次は、猫耳としっぽを生やした女の子になるとタケルにしがみつく。
「ちょっ待て、それは……」
パシャ。
ユー子は、レムに負けじと長い髪で顔を覆うと、髪の隙間から目を見開いてタケルの背後から顔を出す。
「ひぇっ……」
パシャ。
最後は、タケルを中心に誘惑する美女と、平成幽霊に扮したユー子が挟んだ。
パシャ。
「だー!お前ら加工に張り合うなよっ!」
出来上がったシールは、加工するよりも盛れていた。
「え〜タケルの表情も、全部違っておもしろいよぉ〜。変な顔してる〜」
「うむ……面白かった」
「ねぇ!タケル!ぬいぐるみのやつ!あれはどうやって遊ぶの?」
ユー子は、プリ機の興奮そのままに、タケルの袖を引っ張る。
「あぁ、クレーンゲームか。よし!ユー子、どれが欲しいんだ?」
ユー子は、タケルをぬいぐるみがあるところまで連れて行く。
「これっ!」
ユー子が張り付いたクレーンゲームの中には大きなイルカのぬいぐるみがあった。
「なるほど〜……このタイプのやつね。何回かやれば取れそうだな」
タケルは、舌を少しだけ出して操作を始める。
その目は、真剣で輝いていた。
ばたんっ。
五回目の操作で、ぬいぐるみは音を立てて落ちてきた。
「ほらよっ」
タケルは、ユー子にイルカのぬいぐるみを差し出す。
「わーっ!タケルすごい!!ありがとう!!」
ユー子は、イルカを抱きしめる。
「ふふ……ふかふか〜」
「タケル、我が輩もやってみたい!あれとかどうだろう?」
レムの指差す方向には、お菓子が積み上げられたクレーンゲームがある。
「あのタワー崩せたら、いっぱい獲れるよ」
「ふむ……やってみようではないか」
レムはタケルにコツを聞きながら操作をする。
「むむっ……崩せん。三回もやっているのに、一つしか獲れん」
レムは、クレーンゲームの中をひと睨みすると、赤い目がじわりと光を帯びる。
「次の一回で獲ってやる」
レムが操作を始めると、少しだけ輪っかに触れる。
次の瞬間、タワーがぐらりと揺れ一気に崩れた。
「わ〜レムすご〜い!!」
ユー子は、ぬいぐるみを抱えたまま、レムに駆け寄ってハイタッチをした。
タケルは、店員を呼び袋をもらうと、レムを横目で見据えた。
「……お前、やったな?」
「……なんのことだ?……我が輩は、タケルのアドバイスを聞いたまで」
レムは、タケルと目を合わせずに天井を見つめた。
「ったく……また大荷物になっちまったな」
タケルは両手に菓子が入った袋を持つと、レムを肘で突いた。
「レム、お前も少し持て」
袋をレムに差し出すと、レムはすんなりと受け取る。
(……んだよ。最初から持たせれば良かった。持たないキャラなのかと思ったじゃないか……)
レムは袋を空間に放り投げる。
すると、次の瞬間には袋はどこにもなかった。
「おい、レム。袋は?どこ行った?」
「異空間に仕舞ったが、必要だったか?」
「………」
タケルの理解が追いつかない。
「異空間?持たなくていいって事?」
「わざわざ持つ必要が?スマホも異空間に仕舞ってある」
レムは手をふわりと翻すと何も持っていなかった手のひらにスマホが乗っている。
「異空間に荷物を入れられるってこと?」
「さっきから、そう言っている」
タケルは、がっくりと項垂れた。
(……そうだった。こいつ、人外だった)
「ってか、じゃあ……わざわざ車に荷物置きに行かなくて良かったんじゃねーか。レム、これも異空間に仕舞っておけ」
タケルが、もう一つのお菓子の袋をレムに渡すと、レムは“なんて事ない”顔をして、異空間に袋を投げ入れた。
「ユー子、そのぬいぐるみも入れておくか?」
レムは、ユー子が抱えるイルカに触れる。
「ううん……。これ、抱っこしてたい」
「そうか」
レムは短く答えると、辺りを見渡す。
「レム、どうした?」
ぬいぐるみを抱え込むユー子の姿をみて、微笑んでいたタケルが、声をかける。
「いや、なんか腹減ったなと思って」
「じゃあ、フードコートでもいくか?飯もあるし、アイスとかドーナツとかあるぞ?」
「ユー子、アイス食べたい!」
「アイスか……我が輩も食べて見たいな」
「あーお供えにアイスってないよな……。納得……」
*****
レムとユー子がカップに入った三段アイスを食べている様子は、なかなか絵面が強いと、半目で見つめた。
「タケルは一個だけ?」
「三十路にもなると、一個で充分なの」
「我が輩は、何千年も越えてるけど大丈夫だぞ?」
「お前は人外だろっ」
「あはは……タケル、口悪い〜。アイス美味しい!買い物も、ゲームも、写真撮るやつも、すごく楽しい!友達がいるってこんなにも楽しいんだね」
ユー子は、けたけたと笑いながら、イルカを抱きしめた。
「……そうだな」
タケルは切なげに笑うと、立ち上がり食べ終わったカップを片付ける。
「さぁ、帰ろう」
「うん!タケル、レム、今日はありがとう!」
ユー子は、タケルとレムの間に入ると、笑顔で二人を見上げた。
「日本は穏やかだな。これでは、腹が減ってしまう」
レムのつぶやきに、タケルは後頭部がビリつくのを感じた。
「タケル、あとで付き合え」
レムは不敵な笑みを浮かべた。
最近のプリ機の相場は500円〜800円らしい。
昔は300円だったのにな〜。
仕様も今、どうなっているのか分からないので、違ってたらすいません。
作者の時代は、電車の吊り革とかありましたよ。
背景のカーテンを切り替えて撮るとか。
加工よりも機械動作とか照明に力入ってました。
ってこと書いたら、世代がバレそうですね。ははっ。




