昭和幽霊は、懐中時計の異変に気づく
ちょっと落ち込んでる昭和幽霊のユー子は、風呂上がりのタケルを見上げた。
「おぅ……ユー子どうした?」
「タケル……わたし、何で死んじゃったんだろ?覚えてないの」
「……無理に思い出さなくていいさ。あがりたくなる時が来たら、いつでも手伝うよ」
タケルは優しい。
せめて、何か手伝いができないかな……。
「タケル、私にできることってある?」
「……レムと、観光しておいで。楽しいと思えることをすればいい」
タケルは、ユー子の頭をそっと撫でて微笑んだ。
「俺は寝るけど、ユー子はどうする?外に行くか?それとも寝るのか?」
「……寝れない。寝るフリは出来るかも……」
「じゃあ、レムでも抱きしめて寝ればいい」
「……タケルも、傍にいて欲しい」
込み上げてくる寂しさを隠さずに、ユー子はタケルを見上げた。
タケルは「ふぅ……」と、眉を八の字にして、軽く息を吐いた。
「しょーがねぇーな」
困ったように笑いながら、毛布と枕を持ってくると、レムが眠るソファーに横になる。
「同衾……してみたかったんだよなー」
ふふと笑ってレムを抱きしめる。
レムは、迷惑そうに半目でタケルに視線を向けたが、どうでもよさげにため息をつくと、眠りについた。
「これで寂しくないだろ?」
「……うん。ありがとう。タケル」
ユー子は、部屋の隅っこで膝を抱えたまま、目を瞑った。
*****
翌朝、タケルは肉付きのいい何かに、頬を埋めて目を覚ました。
半分意識を、夢の中に置いたままタケルはぼんやりと目の前の光景を見つめた。
漆黒の艶やかな長い髪。
豊満な胸元は、今にも溢れそうだ。
大きな赤い目は熱を帯びている。
薄い唇が妖艶に微笑んだ。
「タケル、おはよう」
溶けそうな、色っぽい声がタケルの耳をかすめる。
「………」
タケルは、目の前の美女をしらけた顔で見つめた。
「お前、ふざけんな。夢の中の美女とのいちゃいちゃを返せ」
「ほう……我が輩と分かったか」
タケルは、がばっと起き上がると、レム(美女)を押し退ける。
「タケル、我が輩と同衾したいって言ってたじゃないか」
レムは「男の夢だろ?このボディーは」と不思議そうに、首を傾げる。
「猫だからだよ!猫!」
タケルは、けしからんとばかりに、かみつく。
「……なるほど。では、これは?」
レムは、しばし考えてから、ふわりと身体を捻ると、先ほどの美女よりも少し幼くなり、黒い猫耳と尻尾を生やす。
心なしか、猫目になった赤い目を、きゅるんとさせると、丸くした手を頬に寄せる。
「にゃ〜」
可愛らしい声で、鳴き真似をする。
「………」
がっくりと、タケルはうなだれた。
「どストライクだよ!ふざけんなっ。俺の性癖に触れてくんなっ!」
黒い尻尾を、うねうねさせながらレムは、けたけたと笑った。
「ユー子、撮ったか?」
「ばっちりだよ!」
ユー子はスマホを連写する。
「はぁ〜?お前っ……ユー子!写真撮ってたな!」
「うん!眠ってるタケル、レムの胸に埋まるタケル、真っ赤になったタケル、全部取ったよ〜」
ユー子は、悪びれることなく、笑顔で頷いた。
「……消せ!今すぐ消せ!」
タケルがあまりに凄むので、ユー子は口を尖らせながら、データを消すそぶりをした。
「ふふ……ユー子、エロ本探そうぜ。タケルの性癖を深掘りするぞ」
「うん!分かったー!タケル、ベッドどこ?ベッドの下にある?」
ユー子は、うきうきした。
「だー!!一人暮らしでベッドの下に隠すかよっ!お母さんかよ。お前は!」
タケルは、がしがしと金髪の頭を掻く。
「えーじゃあ、どこにあるの〜?」
ユー子は、きょろきょろと辺りを見渡す。
「残念でしたぁ〜。この家にエロ本なんてありません〜。デジタルの時代に置いておくかよ」
タケルは得意げに、ユー子を笑う。
「ほぅ……。デジタル……ユー子!スマホだ!スマホを探せ!」
「……墓穴掘った……。ねぇ、もうこの話題辞めない?」
タケルは、顔を手で覆うと項垂れた。
「はぁ……もう、お前ら外に行って観光でもしてこい。俺は仕事するから」
「んー町に行く?」
「そうだな。買い物もいいな」
レムは、青年の姿になるとにんまりと笑った。
「買い物って、そもそも金あんの?」
タケルは、腕を組むと首を傾げる。
「……飛行機もぬいぐるみに入ったんだろ?」
「金?日本円はないが……これ売れば金になるか?」
レムは、ポケットから純金の懐中時計を取り出す。
「……売れば金になるが、それ売っちゃうのか?」
いかにもアンティークっぽい懐中時計をタケルは見つめた。
「……動かないガラクタだし、拾い物だから別に、売っても構わない」
「ふーん……拾い物ねぇ」
ユー子も懐中時計を見つめる。
「レム、これ、悪いやつ。黒いのあるよ!これ付けたら呪われちゃうよ!」
「そうなのか?何も起こらないが……」
レムは、手のひらの懐中時計を握る。
「呪いの懐中時計は売れないだろ。ってか、売るな!被害が出る」
タケルは、首をぶんぶん振る。
「タケルが祓えばいいじゃん」
なんて事ないとばかりに、ユー子はタケルに視線を向けた。
「え?俺が?」
「うん!だって、レムが入ってたぬいぐるみの黒いの祓ってたじゃん」
ユー子は、空港でぬいぐるみを祓っていた事に気付いていた。
「ユー子……ずっと気になっていたけど、生きている時から、変なものとか、黒いのとか、視えていたのか?」
タケルは、目を細めてユー子を見据えた。
「んー……あんま覚えてないけど、“変なことを言う子”とか、“気味が悪い”とかは言われてたかも……」
「そうか……俺と一緒だな」
ユー子は、切なそうに笑うタケルを見つめた。
「一緒?タケルも、友達いなかった?」
「ははっ……そうかもな」
タケルは、穏やかに笑うとユー子の頭を撫でる。
「じゃあ、いっちょ懐中時計の悪いもん、祓いますか」
タケルは、懐中時計をレムから受け取ると、二階へ向かっていった。
少し時間がかかると言って、テレビをつけると某動画投稿サイトに切り替えていった。
「レム、心霊スポットの動画あるよ!」
「おぅ見よう!恐怖の研究だ!」
*****
タケルは、無事(?)懐中時計を祓い終わると、リビングからユー子とレムの話し声を耳を傾けながら、扉を開けた。
「違うよ!そっちじゃないよ!うしろうしろ!」
「こいつら、見えてないのに、怖がってるな。すぐ後ろにいるのに……」
「自分の足音なのに、怖がってる!」
二人は、きゃっきゃっ言いながら、動画に夢中だ。
「楽しそうだな」
ユー子は、リビングに戻ってきたタケルに、「面白いっ」と笑顔で答えた。
「幽霊なんて、その辺にいっぱいいるのに、何でみんな分からないの?」
「視える人、感じる人は少ないからな。視えていても、理解されにくいし、分かった振りして、面白がられるだけさ……。まあ、視えないんだから仕方ないけどな」
タケルは軽く息を吐きながら、肩をすくめた。
「そんなもんなの?」
「そんなもんさ……レム、悪魔崇拝ってあつわたんだろ?どんなもんなんだ?」
「あぁ、今でこそ減ったが昔は盛んだったな」
レムは思い出すように天井を見上げた。
「我が輩は、人間界が面白すぎて、呼び出さなくても直ぐに後ろにいたが、実体を見せないと分かって貰えなかったな〜」
「実体って、あのグロいやつじゃないのか?」
「あぁ……あれも、精神体だから視えないんじゃないか?他の悪魔は知らんけど」
「他にもいるんだ」
「あぁ、破滅、呪いその類が得意なやつはいるな。まあ、呪おうとする人間の方が恐ろしと思うけどなぁ」
にやりとレムは笑った。
「だから、逆に、そいつの魂を頂くのさ。恨みが強ければ強いほど、そいつの顔が歪むのが楽しい」
「……悪魔こぇ〜。悪霊よりこぇ〜」
タケルは腕をさする。
「そうだろ?悪魔は、そうやって長生きするのさ。ただ最近の人間は、空っぽさ。昔と比べて、感情が薄くてな。恐怖も映像で慣れてしまっている。それに、疲れ切った魂には興味ないんでね」
「……なるほどね〜」
タケルは頷くと、レムに懐中時計を渡す。
「ほれ……これを換金して観光してこい」
「おぉ……。ってか、浄化どころか神の匂いがするぞ。ぞわぞわする」
レムの漆黒の髪が静電気を帯びているように膨む。
「そりゃ念入りに浄化したからね。神力が残るのさ」
「タケルすごい!天才!」
ドヤ顔をするタケルに、ユー子は拍手をして褒めた。
「だろ?もっと褒めていいぞ」
「それで、タケル。これ、どうやって換金すればいい?身分証明書もないが……」
「……そうだった……お前、悪魔だった……」
まだ付き合わなきゃ駄目だったと、タケルはその場に膝をついた。
金は高騰中。
いくらになるんだろ……。
美女レムはスタイル抜群!
タケル、いい夢見れたね!




