第五話 殺す価値
「あの程度で死ぬようではサタナエルと戦っても殺されるだけだ。そして、お前はこうして戻って来た。それも力ある仲間まで連れてだ。ただ、俺の予想よりかなり早く戻って来た今のお前にサタナエルを殺せるだけの力が付いておるのかどうか見極める必要があった」
「だから自ら戦ったと云う訳か」
ルキフグスが失笑する。
「じゃが、その体では全力で戦ってくれるかわかぬ。そこで暗がりの部屋を戦いの場に選んだと云う所じゃろうて」
これはヴェールだ。
「お前がそれなりの力を付けている事は分かった。不死身の秘密さえ解ければ殺せる程の力があると。そのまま殺されておれば俺も下僕達の元に行け、全ては予定通りに行くはずだった。ヴェールよ、お前さえ現れなければな。だが、まだ方法はある」
アスタロトは自らの槍の穂先を自分の体に向ける。しかし、
「ふざけるな!」
ルシフェルが猛然と飛び出し、瞬時にアスタロトに迫るなりアスタロトが槍で自らを刺すより早くその顔を拳で力一杯殴った。
アスタロトは勢い良く飛ばされ、床にもんどり打って倒れた。
飛ばされた時に手から離れた槍が床に落ち、甲高い金属音が響き渡る。
ルシフェルは立ち上がろうとしているアスタロトに歩み寄り、その首を摑んで一気に引き上げる。
「全てが予定通りだと? まるでお前が我を導いたような物云いだな。勘違いするでないわ! 我は自分の意志でサタナエルを恨み、自分の意志でこの城に戻って来たのだ。貴様の思い通りに動いた訳ではないわ」
突き押されたアスタロトは、派手に尻餅を突いて倒れた。
「お前には二度の屈辱を受けた。その借りを返すまでは絶対に死なせはせぬぞ」
「何故だ? 何故、殺さぬ? この俺はお前にそれだけの仕打ちをして来たのだぞ」
「ああ、その通りだ。だが、傷付いた体で、その上死ぬ目的で戦おうとする者に殺す価値などないわ。もし我に殺されたければ、まずその体を完治させる事だな」
背を向けたルシフェルは、それ以上は何も言わずに駆け出し、部屋を出て行った。
「素直でない奴だ。死ぬなと何故云えぬ?」
ルキフグスがまたも失笑する。
「奴が素直であれば、お主はここまで付いて来たか?」
「いいや」
ルキフグスはまだしゃがみ込んだままのアスタロトに歩み寄る。
「お前は良いな。死んでしまったとは云え、良き下僕達を持って。儂の一部の下僕は儂を殺そうとしたのだぞ。それを思えば羨ましい限りよ。とは云え、君主がこれでは下僕達は浮かばれぬであろうな」
アスタロトが怒りの目をルキフグスに向ける。
「どう云う事だ?」
「やはり分からぬか。それが分からぬ以上、奴が云っておった通り、今のお前には殺す価値もないと云う事だ」
ルキフグスもまた背を向け、ルシフェルと同じくそれ以上何も言わずにヴェールの元に戻る。




