第十二話 妨害
揃って二匹が振り向けた部屋の入り口には、ルキフグスの姿があった。
その左手には、首の後ろを摑まれたヴェールが居る。
「もう少しと云う所で。どうやって牢から……?」
アスタロトの目は、ヴェールを床に下ろすルキフグスに向けられる。
「あいつが出したのか? むう、あの出で立ちは、まさか……」
朧気な記憶は、ルシフェルの怒声が明確なものにした。
「何をしに来たルキフグス。王室で会おうと云ったであろう」
「やはり、あれはルキフグスか。しかし、どうしてルキフグスがここに?」
その視線はルシフェルに戻る。
「奴が呼んだのか? あの暴君をどうやって……」
「まあ良いわ。但し、邪魔するでないぞ。これは我とアスタロトの戦いだ」
部屋が薄暗く、二匹の姿は見えないが、明確に分かる声の怒りに、ルキフグスは困った顔をする。
「本当に良いのか? 邪魔をされてかなり怒っておるようだぞ」
ヴェールは右側の獣の頭を薄闇に向ける。
「死にたい者を殺しても、お主の願いは叶うまい」
「死にたい者だと? どう云う━━」
ルシフェルの会話を遮るように、アスタロトが突然槍で突き掛かって来た。
ただ、その動きは鈍く、不意打ちながらも軽々と躱されてしまう。
それでも、間髪入れずに横薙ぎに振られた槍が、ルシフェルの脇腹を殴打する。
ルシフェルは慌ててアスタロトから距離を取る。
「卑怯な」
「卑怯だと? 甘いな。魔界では卑怯と云う言葉は皆無だ。戦いの最中に喋っているお前が悪いのだ」
「何だと。いや、確かにそうだ。ここは上とは違うのだからな。ただ、残念だったな。我を殺す機会を逸したのだからな。そしてもう二度と、そんな機会はないぞ」
「やってみなければ分かるまい」
暗がりの中、二匹の戦いが再び始まった。
「口で云っても無駄か」
ヴェールの中央の老悪魔が溜息を洩らす。
「仕方あるまい。ルキフグス、先程云っておいた通りに頼む」
「分かった。ただ、暗くて奴等の位置が見えぬ。位置だけは教えてくれ」
「承知した。それでは儂の合図と共に頼むぞ」
暗がりに向けられている獣の頭の目は、その中で戦う二匹の姿をはっきりと捉え、無数にある足の一本が、その方向を指し示す。
その方向に合わせてルキフグスは斧を振り上げて構える。
戦い続ける二匹の動きに合わせてヴェールが指し示す足を動かすと、ルキフグスも斧を構えたまま向きを変える。
「今じゃ!」
ルキフグスは斧を思い切り床に振り下ろした。斧が床に突き刺さると共に亀裂が走る。
亀裂は戦っている二匹の間を走り、戦いを止め、更に奥にある壁にまで達し、その壁を崩して大きな穴をあけた。




