第十一話 三度目の対峙
振り返った先にある一本の柱の陰から、一匹の悪魔が姿を現し、ルシフェルと対峙して歩みを止める。
ソバージュの髪に背中の羽、そして何度となくルシフェルの体を突き刺した背中の槍、薄暗い中であるが見紛うことなくアスタロトであった。
「わざわざ殺されに戻って来るとは、馬鹿な奴だ」
「図に乗るでないわ。この体にも馴染め始めておる。今のこの体ならば、貴様など取るに足らぬわ」
「その大きな物の言い方は変わっておらぬな。面白い。その冗談がどれほどのものか、見させて貰うぞ」
アスタロトは背中の槍を手にし、来いと言わんばかりにその穂先をルシフェルに向ける。
「二度の苦汁、今こそ晴らしてくれる」
ルシフェルはアスタロトに真っ向から向って行った。
「速い!」
以前とは比べ物にならないその速さに、アスタロトは思わず声を上げた。しかし、驚きに浸る間もなく迫って来たルシフェルに槍を突き出す。
ルシフェルは飛び上がって槍を躱し、そのままアスタロトの頭上を越えて反転しつつ背後に廻ると共にアスタロトの背に向かって爪を振り下ろす。
アスタロトは素早い動きで前方に駆け出し、爪は逃れたものの、ルシフェルが振るった爪が起こした突風が刃と化し、アスタロトの背中を切り裂いた。
痛みに顔をしかめつつ後ろを素早く振り返ると、前方に居るルシフェルは既に右手を高々と掲げていた。
ルシフェルが振るった右手が空を裂く事によって生じた突風が再び刃と化し、アスタロトに逃げる間も許さずに襲い掛かる。
アスタロトは両手を目の前で交差させ、風の刃に耐えるが、風の刃は容赦なくアスタロトの体を切り裂いて吹き抜けて行く。
何とか堪え、両腕を下げた時、視界からルシフェルの姿が消えていた。
「先程の余裕、何処に行った?」
背後から聞こえた声に反応し、横に飛び退くが、既に振るわれたルシフェルの爪が右肩を切り裂く。
アスタロトの口から呻き声が洩れると共に、その手から槍が離れ落ち、床に落ちる音が部屋に響き渡る。
槍を拾う間もなく飛び迫って来たルシフェルの爪が、今度は胸元を引き裂く。
更に腕から、足から、そして背中からと、アスタロトの体の至る所から鮮血が噴き出す。
「一思いに殺しはせぬ。今までの屈辱、しっかりと返させて貰おうぞ」
暗がりの中を飛び交うルシフェルの爪が、成す術なく立ち尽くすアスタロトの体を切り裂いて行く。
その光景は、過去に二度、二匹が戦った時とは立場が逆転していた。
血塗れとなったアスタロトは、床に片膝を落として蹲る。
ルシフェルも動きを止め、少し距離を置いて床に舞い降りた。が、その表情は決して晴れやかではなかった。
「簡単過ぎる。それほど我の力が上廻ったと云うのか? いや、今の奴は以前の奴とはまるで違う。それでは何かの策か……?」
「どうした。これで終わりか?」
アスタロトは槍を拾い、ゆっくりと立ち上がる。
「それとも何か。傷付き、弱った者は殺せぬか?魔王になると大きな事を云っておきながら、所詮は完全な悪魔になりきれぬ半端者よ。魔王など夢のまた夢。早々に諦めよ」
「云わせておけば!」
ルシフェルは怒りに押されて飛び出そうとするが、
「待つのじゃ!」
突然飛んでいた第三者の声に動きが止まる。




