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堕天使物語 -サタン誕生-  作者: 平岡春太
 第五章 それぞれの戦い

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 第五話 募るわだかまり

 六つの頭が血相を変えて水中から姿を現したスキュラは、床に乗り上げるなり、その長い尻尾をカレガタナスに向けて伸ばそうとする。

 だが、直ぐにその間にルシフェルが割って入って妨げる。


「まあ待て。この度の戦いの功労者を襲うつもりか?」

「功労者じゃと?」

「サバタイの首を獲ったのはカレガタナスだ」

「カレガタナスがサバタイの首を? 一体どう云う事じゃ?」


 ルシフェルはサバタイの城の王室で起こった経緯を語った。


「……なるほど、そう云う事であったか」

「簡単に信じてはいけませんぞえ」

「その通りじゃ。そ奴は女王様を殺そうとした大罪人ですぞ」

「例えサバタイの首を獲ったとは言え、敵には変わりはなかろう」

「きっとまた殺しに来たのであろう」


 納得しないスキュラに、ルシフェルの足が前に出るが、カレガタナスがそれを制す。


「命令されていたとは言え、私はそなたの王を殺そうとしたのだ。重臣として疑い、怒れるのは至極当然であろう。ここに来るまでにもマルコキアスにも責められていたのでな」


 カレガタナスはプロセルピーヌに向かい、片膝を床に落とす。


「暗殺の件は済まぬ事をした。その罰は甘んじて受けさせて貰う。死ねと言うなら死ぬ覚悟も出来ている。好きな罰をそなたが決めて下されば良い」

「ならば死刑ぞえ」

「そうじゃ。死刑じゃ」


 尚も騒ぎ立てるスキュラの口を、プロセルピーヌが錫杖で床を強く叩く音が噤ませる。


「少し黙っておれ」

「ですが……」

「そもそも錫杖があれば妾を殺そうとしても無駄なこと。それともお前は妾の力が信用出来ぬのか?」

「いえ、決してそのような事はありませぬ」

「ならば黙っておれ」

「……」

「カレガタナスよ、お前に襲われた時には妾は相当な怒りを覚えた。それが正直な気持ちじゃ」


 カレガタナスは少し気まずそうに下を向く。


「じゃが、妾以上に剣で刺されたそ奴の方がもっと怒りを覚えたのではないか?」

「刺されて気に留めぬ奴などおるまい」

「そうであろう。そう感じた者が殺さずにここまで連れて来たのじゃ。妾が殺すと云う訳には行くまい。そ奴が申した通り自分の為に生きて行ってはどうじゃ?」

「お待ち下さい!」

「何の罰もないと言うのはどうかと……」


 スキュラが意見するのは当然と言えば当然。が、向けられた有無を言わせぬプロセルピーヌの目に勢いは失せる。


「分かりました。もう口は挟みませぬ」


 六つの頭は納得した顔をしていないが、水の中に退散する。


「寛大なる処分、感謝する。だが、スキュラが言うとおり、何の罰がないと言うのは私自身気が引ける」

「そうか。そなた自身がそう云うなら止むを得ぬが。さて、どうしたものか……」

「ならば、こう云うのはどうだ」


 困ったプロセルピーヌに代わって、ルシフェルが口を開く。


「この後、サタナエルの国に攻め入るのであろう。ならばその力、この国の為にその戦いに使ってはどうだ?」

「ほう、それは良い。サバタイの右腕と云われたそなたの力があれば、我が国の勝利も大きくなろう。どうじゃ?」

「それが罰と言うなら、喜んで受けよう」

「ならば直ぐにもう一部屋用意させよう。戦いの時まで、ゆっくりと体を休めるが良いぞ」


 話がまとまる中、ただ一匹は納得が出来ていなかった。


「何故こうなるのじゃ?」

「ルキフグスと言い、カレガタナスと言い、どうしてこうも信用出来ぬ奴が次々とやって来るのだ?」

「それもこれも全て、あ奴が来てからぞえ」

「あ奴など連れて来なければ良かったのじゃ」


 六つの頭は静かに水の中に消えた。

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