第二話 遺恨
「この私に剣を向けるとはどう云うつもりだ? まさかお前━━」
話の最中、サバタイがまた入口に目を向ける。
今度はルシフェルとルキフグス、そして魔獣の姿のマルコキアスが入って来た。
「ほう、これは、これは」
ルキフグスは愉し気に笑みを見せる。
「これは一体どう言う事だ?」
マルコキアスは悪魔に姿を変えるなり驚きの声を洩らす。
「こんな時に。誰か居らぬのか!」
サバタイの呼ぶ声も虚しく、応える声も、悪魔の姿もない。
「幾ら呼んでも無駄だ。お前の下僕は我等が片付けた。残って居っても知れている」
「そ奴等も最早逃げたかもしれぬな」
ルシフェルに続き、ルキフグスが答える。
「たった三匹に我が国が落ちたと云うのか? そんな馬鹿な。マルコキアスが居るとは云え、そんな事が━━む? あれはまさか、ルキフグスではないか!? それにもう一匹は見かけぬ顔だが、ルキフグスに負けぬあの体、カレガタナスが云っておった奴か。くっ、いつの間にプロセルピーヌの所にあのような者達が……いや、今問題なのは」
サバタイは目の前で剣を合わせたままのカレガタナスに目を移す。
「間違えるでないぞ。お前の相手はあ奴等ではないか」
「間違ってなどいない。言っておくがこれは反逆などではない。度重なるお前への恨みだ」
「恨みだと? 私はお前の育ての親ぞ。その恩に対する礼は受けても、恨みを買う覚えはないぞ」
「よくもぬけぬけと。確かに捨てられていた私を育て、姿の変え方も教えてくれたのはお前だ。だがそれは全てお前の為ではないか。私を道具のように扱い、失敗する度に酷い仕打ちを受けた。今までは確かに恩があるからと耐えて来たが、既に我慢の限界であった。だから、誰にも邪魔されないこんな時を待っていたのだ。お前達は手を出すなよ」
最後の言葉はルシフェル達にだ。
「どうする?」
マルコキアスがルシフェルに訊く。
「どの道サバタイは殺すつもりでいたのだ。誰が殺しても構わぬであろう」
「それもそうだ」
勿論同意するのはルキフグスだ。
サバタイの顔に苛立ちが募る。
「どいつもこいつも馬鹿にしおって。例え一匹だとしても貴様等全員始末してくれるわ!」
カレガタナスの剣を弾くと共に、サバタイのもう一方の手も剣に変わる。
「まずはカレガタナス、望み通り貴様から殺してやる!」
一本の剣を躱しても、もう一本が透かさず振るわれる。その剣技は、王に上り詰めただけあってかなりのものであった。
カレガタナスも、振るわれた剣を自らの剣で弾き、更に振るわれるもう一方の剣を、身を翻して躱す。
「甘いわ!」
躱されたサバタイの剣が鞭に変わり、カレガタナスの首に巻き付いた。
そこにもう一方の剣で斬り掛かる。
カレガタナスは剣を合わせて受け止める。しかし首を絞められていて力が入らず、じりじりと押されて行く。
「貴様に剣の扱いを教えたのも私だ。勝てるはずもなかろう」
サバタイの口から笑い声が洩れる。




