第十話 思わぬ襲来
「本当にこのまま帰るつもりか?」
城の出口に向かって歩きつつ、マルコキアスが訊く。
「無理矢理連れて来た所で、あれではどうしようもあるまい。それよりも早く戻り、新しい策を考える方が賢明であろう」
「止むを得ないか」
城を出たルシフェルは早々に羽を広げる。が、
「待て。飛ぶな」
マルコキアスが慌てて止める。
「何故止める?」
「上空を見てみろ」
空は相変わらず分厚い雲で覆われている。
その中ではゴロゴロと音を立て、時折雲そのものが光を見せている。
今にも雷が産声を上げそうだ。
「飛んでいる時に雷が落ちれば直撃を食らうぞ。少し時間がかかるが、安全もな所まで歩いて行こう」
「我は雷など気にならぬが、お前はそうも行くまい。仕方あるまいな」
ルシフェルは羽を戻し、歩み出す。
「全く、口の減らない奴だ」
呆れつつも、マルコキアスは歩み出す。
暫くして、空が落ち着いて来た所でほぼ二匹の足が同時に止まった。
ただそれは、飛び立つ為ではなかった。
「おい、聴こえるか?」
真剣な面持ちでルシフェルが訊く。
マルコキアスもまた険しい表情で深く頷く。
遠方より軽い地響きが伝わって来ると共に、時折奇声のようなものが聴こえて来る。
それが徐々に二匹に向かって近付いて来るのだ。
近付いて来るそれが何か巨大なものの足音だと判って束の間、二匹の前方にある数本の木々を薙ぎ倒し、巨大な四足の竜が姿を現した。
マルコキアスは、眉を顰める。
「火竜だと? 馬鹿な。魔竜が出る地域はここより遠いはず。どうして……?」
サラマンダーは二匹の姿を認めると、先割れした長い舌を出し入れする。
「考えている暇はなさそうだ。どうやらあいつの目当ては我等を食べる事らしい。餌になりたくなければ、お前も早く魔獣の姿になる事だ」
「言われなくとも」
マルコキアスは横手にある木に素早く身を隠した。
魔獣に変態する時に無防備になるからだ。
「言葉の割には、手間の掛かる奴だ。仕方あるまい」
ルシフェルはその場から少し離れ、サラマンダーを引き付ける。
釣られたサラマンダーは向きを変え、大きな足を振り上げ、ルシフェルを踏みつけようとするが、ルシフェルは横に飛び退いて軽々と躱す。
「がたい通り動きが鈍い。容易く躱せるわ」
サラマンダーは間髪入れずにルシフェルに顔を向け、大きく口を開けるなり炎を吐いた。
これには不意を突かれ、炎は咄嗟に身を引いたルシフェルの左腕を掠めて皮膚を焼く。
「炎を吐けるのか」
尚もルシフェルの方に顔を向け、大きく口を開ける。




