第八話 図星
「裏切った者達を殺している内に儂の怒りは頂点に達し、途中で意識を失ってしもうた。その意識が戻った時、城内は血の海と化しておった」
「正に暴君か……」
マルコキアスは固唾を飲む。
「横たわる屍の数からして、まだ生き残った下僕も居ったはずだが、恐れを為して逃げてしまったのか、屍しか残っておらなんだ。儂は悩んだ。殺した者達は全て裏切った者達だったのであろうか? 関係もない者達を殺してしまったのではないだろうか? と。その上、悩み続ける儂の元に、逃げた下僕は一匹として戻って来る事はなかった。ずっと待ったのだ。ずっとな。だが、あれほど信頼しておった下僕が一匹として……」
ルキフグスは崩れ落ちるように再び玉座に座り、額に手を遣る。
「それから儂は誰も信頼しないと誓ったのだ。それが例え下僕であろうと、昔の知り合いであろうとな」
「それでこの城を出ぬと云う訳か。他の悪魔と接触しなければ、信頼する事も疑念を抱く事もないだろうからな。我を襲ったのも、また一匹となりたかったからと云う訳だな」
「解ったのならば良かろう。もう命までは取ろうとはせぬ。だから、とっとと帰れ」
「良かろう。が、城を出るか出ないかは関係なく、こいつはヴェールからお前に渡してくれと渡された物だ。受け取れ」
ルシフェルはペンダントをルキフグスに向けて投げる。
今度は何も言わずにルキフグスは受け取った。
「これで用は済んだであろう。さあ、帰れ」
「待ってくれ」
ルシフェルは踵を返そうとしたが、マルコキアスはそう簡単に引き下がる訳にはいかなかった。
「我が国は近い。その間くらい城を出てもよかろう。暴君と恐れられたそなたの力が今の我が国には必要なのだ。それが終わればまたこの城に戻ればいいではないか。頼むから力を貸してはくれぬか?」
「それが本音か。概ねそんな事だろうと思ったわ。旧知の中であるヴェールを助けに行かぬと云っておるのだぞ。それが何故、何の縁もない国に力を貸せねばならぬと云うのだ?」
「しかし━━」
尚も食い下がろうとするマルコキアスの肩を、ルシフェルが摑む。
「止めておけ。確かにそいつの力はそこらの悪魔を何千、何万と連れて来るより頼りになる。それは先程戦ってみて良く分かった。だが、幾ら力があろうと直ぐに逃げ出してしまうような奴に用はない。帰るぞ」
ルシフェルは踵を返す。が、
「待て!」
ルキフグスはゆっくりと立ち上がり、床に刺さっている斧を引き抜いた。
「今の言葉は聞き捨てならぬ。誰が逃げたと云うのだ? 返答によってはただではおかぬぞ」
「高々下僕に裏切られた程度で他の者を信頼するのを止め、たった一匹で生きて行こうとする。それは現実から目を背け、逃げておるだけではないか。どうだ、違うか?」
背を向けたまま答えるルシフェルの言葉に、ルキフグスが答える言葉がない。しかし、このまま認めてしまえば今までして来たこと全てが否定される。
「考えが変わった。やはり、お前達には消えて貰うぞ」
ルキフグスは斧を振り上げ、猛然と駆け出した。




