第七話 疑心
悪魔━━ルキフグスが向かった先は、王室であった。
玉座に座り、その傍らの床に斧を突き刺す。
マルコキアスと共に玉座の前に立つルシフェルは、首に下げているペンダントを外す。
「先にこいつを渡しておくぞ」
ペンダントを投げようとするが、
「いらぬ」
「いらぬ? 何を云う。まさかヴェールを助けに行かぬ訳ではあるまいな?」
「何故行かねばならぬ?」
「お前とヴェールは昔からの仲なのであろう。ヴェールが云った事は嘘だと云うか?」
「誰も嘘だとは云っておらぬ。確かに儂とヴェールは昔からの仲だ。しかし、儂はもう城から出たくない。ただそれだけだ」
「城から出たくない? どう言う事だ?」
そう訊いたのはマルコキアスだ。
「この城を見て巡ったのなら分かるであろうが、この城には今、儂しか居らぬ。それが落ち着くのだ」
ルキフグスは頭を抱え、少し身を竦める。
「城を出れば嫌でも他の悪魔と顔を突き合わさねばならぬ。そうなればまた疑心に苛まれるやもしれぬ。もう二度とあんな想いは…………」
少し震えているようにも見えるその姿は、とても暴君と恐れられて名を馳せた者の姿とは思えなかった。
「疑心に苛まれる? それが怖いか。それでよく君主になれたものだ」
少しの失笑と共に発したルシフェルの言葉に、ルキフグスは憤った顔を上げつつ勢い良く立ち上がった。
「お前に何が分かる!」
斧に手を掛け、襲って来そうな勢いであったが、直ぐに二匹に背を向け、少し顔を上げて虚空を見る。
「昔からそうであった訳ではない。君主になる前も、君主になった後も、下僕達の事を信頼しておったわ。それがだ……」
振り返ったルキフグスはあらぬ方を指差す。
「あれが何か分かるか?」
そこには首を落とされた骨と化した屍が横たわっている。
「あれだけではない。ここにある全てが、いや、お前達も見て来たであろうが、城に散らばる全ての骨は儂の下僕の成れの果てだ」
「全部殺されたとなると、相当な戦いがあったのか。いや、それだけの戦いがあれば、我が国の耳にも入ったはず」
「戦いは戦いでも何処かの国相手ではなく、下僕達を殺したのはお前ではないのか?」
ルシフェルの指摘に、マルコキアスだけでなくルキフグスも大きく目を見開く。
「この全てが自分の下僕であるとは不思議ではないか。他国との争いであれば、幾ら一方的にやられたとしても、少なからず相手の方の屍があって然りであろう」
「確かに……」
「しかも、王であるお前が殺されもせず、監禁すらされていない。考えられるとすれば、お前自身が殺したと云う事だ」
「勘の良き奴よ。そうだ。全て儂がこの手で殺した」
「何と、自ら下僕を手に掛けたと言うのか? しかも全て……」
「そうだ。信頼しておった下僕をこの手で殺したのだ。そうなったのも全て、奴等が儂を……この儂を裏切ったからだ」
「それで疑心か。下らぬ」
「何を云う。儂はずっと絶大なる信頼を置いておったのだぞ。それを、いつしか奴等は野望を抱く者達が集い、儂に刃を向けて来おった。もう随分と前になるが、鮮明に覚えておる。奴等、儂の寝込みを襲って来おった。だが儂はその気配に気付き、反撃に出た。そこまでは良かったのだ。そこまでは……」
ルキフグスが握った拳が小刻みに震える。




