第六話 ルキフグス
有無も言わせずに目の前に迫った悪魔が斧を振り下ろして来る。
ルシフェルも横に飛び退いてこれを躱す。
空を斬った斧は再び床に突き刺さる。
刺さった辺りから前方の床に大きな亀裂が走る。
「この力━━」
息を吐く暇もなく今度は横に薙がれた斧が襲って来る。
後ろに飛び退いて躱したルシフェルに、流れた斧から生じた突風が襲う。
ルシフェルは後方に飛ばされるも、羽を羽ばたかせて止まる。
「お前がル━━」
悪魔はルシフェルに喋る間も与えずに次々と斧を振るって来る。
「こいつ!」
ルシフェルは隙を見て向かって来る悪魔に向かって右手を振るった。
まだ距離があり、爪は空を裂いたが、突風が生じ、それが風の刃と化し、斧を振り上げた悪魔の体を容赦なく切り裂いて吹き抜けて行く。
手首に走った痛みで悪魔の手から斧が溢れ落ち、床に刺さる。
直ぐに斧の柄に手を伸ばすが、摑むより早くルシフェルが飛び迫り、右手を振るた。悪魔はそれを咄嗟に左手で受け、更にルシフェルが振るって来た左手に右手を合わせる。
互いの手を強く握り合い、力で押し合う中、巨漢の悪魔が初めて口を開いた。
「魔界随一と云われる儂に力比べとは、何と身の程を知らぬ奴よ」
ルシフェルも大柄だが、それを上廻る大きさの悪魔が上背を生かしてルシフェルを後方に徐々に押し倒して行く。
ただ、ルシフェルも焦る様子はない。
「こ、これで魔界随一とは片腹痛い」
「大口を叩くな。若造が!」
悪魔は更に力を強める。
ルシフェルもまた叫び声を上げると共に力を強める。すると、反っているルシフェルが徐々に起き上がって行く。
「儂の力が押し返されておるだと? そんな馬鹿な……む、それは!」
ルシフェルが首に下げるペンダントに気を取られた悪魔の力が一瞬弛み、ルシフェルは手を組みあったまま悪魔の巨躯を頭上に掲げ、そのまま一気に後方に放り投げた。
悪魔は飛ばされた先にある柱に激突し、その衝撃で崩れた瓦礫の下敷きになる。
ただ、直ぐに瓦礫を落としながらゆっくりと立ち上がって来る。
「儂の力を押し返したばかりか、一瞬気を取られたとは云え、儂を投げ飛ばすとは貴様一体━━いや、そんな事はどうでも良い。そのペンダントは一体どうした?」
「こいつはヴェールから預かった物だ」
「嘘を吐け。ヴェールは既に殺されたと聞いた。貴様が殺してそれを奪ったのであろう」
「言い掛かりは止めて貰おう。ヴェールは未だ牢に幽閉されておるだけで生きておるし、これはお前に渡してくれと預かった物だ」
「ヴェールが生きておると。そのペンダントを儂にだと?」
二匹が言い合っていると、騒ぎを聞き付けたマルコキアスがルシフェルの元に駆け寄って来た。
「あいつは?」
「恐らくルキフグスだ。そうだな?」
悪魔は答えることなく床に刺さったままの斧に歩み寄り、引き抜いた。
ルシフェルとマルコキアスが緊張を高める中、斧を肩に担ぎ、背を向けて歩み出す。
「話だけなら聞いてやる。付いて来い」




