第五話 沈黙の城
飛び始めは案内もあって、マルコキアスが少し先を飛んでいたが、いつの間にかルシフェルが少し先を飛んでいた。
「まだ覚え立てで何て速さをしている……」
「どうした? 少し遅れているぞ」
「分かっている!」
教えた手前マルコキアスも向きになって飛び、その御蔭もあってか、下方に広がっていた森を抜け、開けた高原の先に建物らしき影が見えて来た。
「あれだ。あれがルキフグスの城だ」
小さかった影は直ぐに城の形を成し、その巨大な城の門の前で二匹は舞い降りた。
少し息が上がっているマルコキアスが息を整えている少し前で、ルシフェルは怪訝な顔で辺りを見廻していた。
「どうした?」
息が整って来たマルコキアスが訊く。
「衛兵らしき姿が無い。それどころか中から誰か出て来る様子もないぞ」
「確かに。我等が着た事はとっくに気付いているはずだが。考えてみれば、ここに来るまでに領土には入っているはず。その時点で止められていてもいいはずだ。何かの罠か?」
「考えていても仕方がない。入るぞ」
警戒をしつつも城の中に足を踏み入れる。
通路を歩いていても誰の姿もなく、気配すらない。それどころか城全体が荒れ果て、至る所に悪魔らしき骨が横たわっている。
王室らしき部屋に入るが、奥にある玉座と思われる一際大きな椅子にも誰の姿もなく、その周りにも幾つもの骨が点在している。
「本当にここで良いのだろうな?」
「間違いないはずだが……」
答えるマルコキアスの声にも力がない。
「この国が他の国に攻め込まれたと云う事はないのか?」
「いや、これだけの大国だ。そう言う事があれば我が国にも分かる」
「では、この状況は一体どうした事なのだ? ルキフグスは何処に……ええい、こうしておってもどうにもならぬな。二手に分かれてもう少し探すぞ」
「分かった」
王室を出て二手に分かれたルシフェルは一室一室見て廻るが、やはり見当たるのは骨ばかりで、生きている者の姿はない。しかし、
「おかしい。先程から誰かに見られておるような気が……」
城に入って来た時はまるで感じなかったが、王室を出て直ぐに誰かに見張られている気配がする。
ルシフェルは素早く振り返るが、誰の姿もない。
「気のせいか……いや、何か居る」
一向に消えない気配に警戒しながら歩んでいると、突然柱の陰の上方から巨大な斧がルシフェルに向けて振り下ろされる。
ルシフェルは咄嗟に飛び退ってこれを躱す。
斧は獲物を失って空を斬り、激しい音を立てて床に突き刺さる。
「誰だ? 出て来い!」
斧が床から抜き取られて柱の陰に消えたかと思うと、代わって大きな影がゆっくりと姿を現した。
髪を全て覆うような帽子を被り、口の周りを覆う程の髭を蓄え、何より巨躯であるルシフェルを圧倒するほどの大柄な悪魔がそこに居た。
肩にはルシフェルを襲った巨大な漆黒の刃を持つ斧を担いでいる。
悪魔は現れ出でるなり憤怒の形相でルシフェルに猛然と駆け出し、斧を振り上げる。
「貴様は━━」




