第四話 飛翔
話がまとまり、既に城を出たルシフェルとマルコキアスは、城からさほど遠くない森の中を歩いていた。
「どうして飛んで行かぬのだ? お前も羽があるではないか。その方が早いであろう」
少し先を歩くマルコキアスが言う。
城を出て直ぐ、マルコキアスは当然ながら飛んで行こうとした。
こちらも当然ながら、ルシフェルはそれを止めて歩いて行こうと申し出た。
「そう遠くないのであろう。ならば歩いて行っても良かろう」
「しかし我が国が危機に立たされているのは知っているのだろう。少しでも早く事を済ますには飛んで━━」
「もう良い。我は飛べぬのだ!」
ルシフェルは思わず少し声を荒げる。
「飛べぬ?」
マルコキアスは歩みを止めて振り返る。
「そうだ。我はまだ堕ちて間もない故、まだ飛べぬのだ。笑いたければ笑え」
「何だ、そんな事か。それならば早く言えば良かろう」
「何?」
「誰しも堕ちて来たばかりの時は飛べぬものだ。ならば私が教えてやろう」
マルコキアスは姿を変えずに背中に羽だけを生やし、少し飛び上がる。
「私の真似をして飛んでみろ」
そう言って更に飛び上がるが、一向に飛び上がって来ない気配に気付き、宙に静止する。
ルシフェルは迷った顔を地面に向けていた。
「どうした、教えていらぬのか? お前も今の内に飛べるようになっておいた方が良かろう」
飛べるようにはなりたいが、誰かに教わると言うのも気が引ける。
その上、ルシフェルを一介の悪魔としか見ていないマルコキアスにとっては当然だが、その口振りにも引っ掛かりがあって葛藤する。
少し悩んだ挙句、顔を上げたルシフェル、はゆっくりと羽を広げて飛び上がった。
一気にマルコキアスが静止している高さまで到達し、静止する。
「何て速さだ……!?」
「どうだ。これで良いのか?」
「ああ、いや、それでは駄目だ」
「どうしてだ。お前の真似を━━」
話の最中にルシフェルは突然浮力を失い、真っ逆様になって落ちて行った。
マルコキアスは溜息を洩らし、後を追って急降下する。
派手な音を立てて地面に叩き付けられたルシフェルの傍で、静かに着地する。
ルシフェルは顔をしかめつつもゆっくりと立ち上がる。
「どうして落ちたのだ? 確かにお前の真似をしたはずだぞ」
「いや違う。今のお前の飛び方は神や天使の飛び方だ。神や天使が持つ翼は風に乗れば飛ぶ事が出来るが、悪魔や魔獣、魔鳥などが持つ羽は風を摑むようにして飛ばなければならぬ。だから翼よりも羽を羽ばたかせる回数が増える為、それが少ないと静止している時は特に落ちてしまうのだ」
「風を摑むか。そう云えば、ヴェールも天使と悪魔では飛び方が違うと云っておったな……」
「良く見ていろ」
マルコキアスは再び飛び上がり、神や天使の飛び方と悪魔の飛び方の違いを実際にやってみせる。
「どうだ、分かったか?」
最初は鼻に付いていたマルコキアスの物言いも、ルシフェルの頭は飛ぶ事が優先で気にならなくなっていた。
「何て覚えの良い奴だ……」
それほど経たない間で、宙に静止するマルコキアスの前には、自由に飛び廻るルシフェルの姿があった。
暫し飛び廻っている間、ルシフェルが落ちる事はなかった。
「御蔭で飛べるようになった。礼を云うぞ」
「い、いや……」
以外と素直に礼を言われ、マルコキアスは戸惑いを見せる。
「では、案内して貰おうか」
「そうだな」




