第三話 暴君
「マルコキアスは悪魔と魔獣の間に生まれ、二つの姿を持つ半悪魔半魔獣なのじゃ。見た目ではそう見えぬかもしれぬが、悪魔の姿でもかなりの力は出せる。その姿ならば更にじゃがな」
「ほう、それは面白い」
「もう良いぞ」
マルコキアスは元の悪魔の姿に戻り、また膝を床に落とした。
「それで、私に何用で御座いましょう?」
「おお、そうじゃった。実は、そこに居る者の道案内をやって貰いたいのじゃ」
「私が道案内を━━ですか?」
「嫌か?」
「いえ、女王様の命とあれば誰が拒みましょうか。それで、何処にでしょうか?」
「何処に? そう云えばまだ行く先を訊いていなかったな。何処まで行くのじゃ?」
「確かイディ……そう、イディオヴァルトだ」
行き先を告げた途端、その場の雰囲気が一変する。
「イディオ……ヴァルトじゃと……」
「どうした。そんなにもそこは遠いのか?」
「いや、それほど遠くはない。じゃが……お前が力を借りようとしておるのは、もしやルキフグスか?」
「おお、確かそう云う名であったな」
「貴様、知らぬのか? ルキフグスと言えば、東国で名を馳せる暴君ぞえ」
「一度その怒りに触れれば、その国は草木も残らぬほど暴れ廻ると言う噂ぞ」
「其奴が素直に力を貸してくれるとは思えぬ」
「暴君か。結構ではないか。そうでなくては面白くない」
「貴様、国の命運が懸かっておると言うのに、面白いか面白くないかで━━」
今にも水中から出て来そうなスキュラを、プロセルピーヌの錫杖が床を叩く音が止める。
「止めよ。ここで争う事は妾が許さぬ。それよりそなた、今までの口振りからしてルキフグスを知らぬように思えるがどう云う事じゃ? 堕ちて来たばかりの者が、そんな大物と知り合いとも思えぬしな」
「ああ、知り合いではない」
「では、当てと云うのはどう云う事じゃ?」
「ヴェールと云う悪魔を知っておるか?」
「ヴェールとな? 隣国の元君主じゃ。無論、知っておる。じゃが、サタナエルに侵略され、殺されたと聞くが」
「ヴェールはまだ生きておる。我が幽閉されていた時、隣の牢に幽閉されておった」
「ほう、あの老王がまだ生きておったか。実に友好的な王であったが、それは良かった」
ルシフェルは胸に下げているペンダントを少し掲げる。
「これは我が牢を抜けた時にヴェールから預かった物だ。ヴェールによればルキフグスとは古い付き合いで、これを渡してヴェールが幽閉されていると知れば、必ず助けに来ると云っておった。だから、もしかすればこちらにも力を貸してくれるやもと思ってな」
「なるほど、そう云う事じゃったのか。確かに、あのルキフグスが力を貸してくれるとなると助かる。じゃが……」
「そうだ。やはりあの暴君がそう簡単に力を貸してくれると思えぬぞえ」
「例えヴェールを助ける為に動いたとしても、我等に力を貸してくれるとは限らぬ」
「その点に関しては妾もスキュラに同感じゃ」
「力を貸してくれぬ時はそれで良い。そのルキフグスがヴェールを助けに行くならば、少なくともサタナエルの国を足止めする事が出来る。その間に我等はサバタイの国に攻め入れば良いだけの話だ」
「なるほど、それは良き案じゃ。スキュラよ、お前もそれならば異論なかろう」
「ですが……」
「それとも他に、それ以上の案がお前にあると申すのか?」
「……ありませぬ」
六つの頭が歯噛みしたのは言うまでもない。




