第二話 案内役
「我もそう馬鹿ではない。あのカレガタナスと云う奴が居る以上、一匹でどうなると思うておらぬ。そこで、力になる悪魔を呼びに行く」
「力になる悪魔を呼びに行くじゃと? 確かお前は堕ちて来て間もないと云っておったであろう。当てはあるのか?」
「力を貸してくれるかどうかは分からぬが、当てならある。お前達はそれまでの間この国を守ってくれれば良い」
「守るだけなら問題ないだろうが、余り時間が掛かるとどうなるか。して、何処まで行くつもりじゃ?」
「その事だが、何分我は堕ちて間もないのでな。道が分からぬゆえ、一匹で良いから道案内を付けてくれ。それも少し腕の立つ奴だ。道すがら何かに襲われて死なれては困るのでな」
「それなら打って付けの者が居る。おい、誰かこれへ」
外から一匹のゴブリンが駆け込んで来て、ルシフェルの横で片膝を床に落として顔を伏せる。
「何用でしょうか?」
「マルコキアスを呼んで参れ」
「お待ち下さい!」
ゴブリンが返事を返すより早く声を上げたのはスキュラだ。
「まさか、マルコキアスを案内に就けるおつもりですか?」
「何をしておる。呼んで参れ」
ゴブリンは慌てて返事を返して立ち上がり、外に駆け去って行った。
「女王様、一体何をお考えに?」
「マルコキアスが居らねば城の守りが手薄になりますぞえ」
「どうかお考え直しを」
「お前の云いたき事も分かる。じゃが、マルコキアス以外にも力ある者がまだ城には居るではないか。お前とてそうであろう」
「そうですが……」
「マルコキアスが居らずとも何とかなる。いや、してみせるのじゃ。分かったな?」
「ですが……」
「何じゃ、自信がないのか?」
「いえ、決して……分かりました」
スキュラの幾つかの頭が不服そうな目をルシフェルに向ける。
暫くして、先程駆け去って行ったゴブリンが一匹の悪魔を連れて戻って来て、一礼を済ませてから再び外に出て行った。
マルコキアスはルシフェルの横で片膝を床に落とし、顔を伏せる。
「何用でしょうか?」
「ちょっと待て。こいつがマルコキアスなのか?」
ルシフェルが訝しげに訊く。
「そうじゃ。どうかしたのか?」
「先程から随分と期待させるような事を話しておるから、どれほどの者が来るかと思っておったが、悪いが我にはそうは思えぬぞ」
マルコキアスには羽や角が無く、以前ルシフェルが戦ったヒュポクトニアを少し大柄にした程度の容姿で、これと言った特徴は見当たらない。
直ぐに顔を上げたマルコキアスは、片膝を床に落としたまま隣に立つルシフェルを下から睨め付ける。
それに気付いたルシフェルも睨み返し、スキュラ同様畏縮して思わずまた顔を伏せてしまった。
「そう落ち込むでない。今のお前の姿ではそう思われても仕方なかろう。もう一つの姿を見せればよいのじゃ。さすれば其奴にもお前が只の悪魔でない事が分かるはずじゃ」
「承知しました」
四つん這いになったマルコキアス体が徐々に大きくなり始め、それと共に顔の鼻から顎の部分が前に迫り出し、歯は鋭く尖り、数本が牙と化す。
更に体中から黒く深い毛が生え出すと共に背中から羽が生え、両手足が獣の足となった。
ルシフェルの口から感歎の声が洩れる。




