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堕天使物語 -サタン誕生-  作者: 平岡春太
 第四章 亡国の王

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 第一話 今後に向けて

 カレガタナスがプロセルピーヌの暗殺に失敗して二日が経っていた。

 その間サバタイが攻めて来る事はなく、プロセルピーヌの城では平穏な時間が過ぎていた。

 ルシフェルは用意された部屋のベッドに横になっていた。

 体に巻かれていた包帯はなく、アスタロトやカレガタナスに受けた傷もその傷跡さえ(ほとん)ど消えている。

 体を起こし、ベッドから降りて部屋を出た。

 通路には、ガーゴイルやゴブリンが三匹一組となった巡廻する警備の悪魔達と次々と行き交って行く。

 初めてこの城で目覚めてから今まではなかった光景だ。

 カレガタナスに侵入を許した後を受けての事だろうが、自由に歩いて行くルシフェルを(とが)める声はない。

 王室の前まで来ると、入り口にも以前は姿がなかった四匹のゴブリンと二匹のガーゴイルの姿があった。

 中に入ろうとするルシフェルを、入口の両側に立つガーゴイルがそれぞれの槍を交差させて止める。


(しば)しお待ちを」


 一匹のゴブリンが王室に入って行き、少しして戻って来てガーゴイルに頷いて見せる。


「どうぞ、お入り下さい」


 入り口を塞ぐ槍が引かれ、ルシフェルは王室に歩みを進めた。

 部屋の中には護衛らしき悪魔の姿はなかった。

 部屋の半分を覆う水面に浮かぶようにある玉座の間を囲むヴェールに、玉座に座っているプロセルピーヌらしき影がある。

 玉座の間へと続く階段の前でルシフェルが歩みを止めると、玉座を立ったプロセルピーヌがヴェールの奥から姿を見せた。


「もう傷の方は良いのか?」

「見ての通りだ。もう完治と云っても良い。それより、少し警備が厳し過ぎるのではないか?」

「馬鹿を言うでないぞえ」

「女王様が殺されかけたのだぞ」

「これでも少ないくらいじゃ」


 畳みかけるように飛んで来た声は水面の方からだ。

 水面には、先程までなかったスキュラの六つの頭が浮んでいる。


「そんな事より本当に宜しいのですか?」

「まだ我らは其奴と女王様が一緒になる事に納得出来ませぬぞ」


 納得出来ないどころかスキュラの声には嫌悪さえ感じられる。


「それは妾が決めた事じゃ。お前にどうこう云われることはないはずじゃぞ」

「ですが、女王様はこの国の君主ですぞえ」

「勝手に王となるべき相手を━━」

「声が大きい」


 感情的になる余り徐々に声を張るスキュラを、錫杖で床を付いて制する。


「その事はまだ特定の者にしか伝えておらぬ。外の者に聴こえたらどうする? 今は混乱を避ける時ぞ。その事は隣国との戦いが落ち着いた時にゆっくりと話し合えば良き事じゃ。分かったな」


「ですが……承知しました」


 六つの顔は、そう言っていない。


「それで、今日は何の用じゃ?」

「もう動くのに支障はない。サバタイの動きも今の所ないようだから、先にこちらが動こうと思うてな」

「そうか。では、直ぐにでも皆に戦いの準備をさせよう。それで、サバタイとサタナエル、どちらの国に攻め入るのじゃ?」

「そう逸るな。まだ戦いには早い。どちらに攻め入っても、必ずやこの国は滅びるぞ」

「それはどう云う事じゃ?」

「二つの国に狙われておるのなら、どちらか一方を責めれば、必ずやもう一方がその隙を衝いて、手薄な国を襲って来るであろう」

「じゃが、サタナエルの国はまだ攻め入って来る気配はないぞ」

「今はな。我はアスタロトから近々隣国を攻め入ると聞いた。恐らくこの国の事であろう。我が多くの下僕を殺したから、その立て直しに少し時間が掛かっておるのか、それ以外に理由があるのか、今はまだ攻め入って来ないだけであろう」

「何と」

「だが、それなら好都合ではないか? 立て直しておる間に、サバタイの国に攻め入れば良いだけの事ぞ」


 そう進言するのはスキュラだ。


「浅はかな。サタナエルはそう甘くはなかろう。先程云ったが、サバタイの国に攻め入り、手薄となれば立て直す間もなく攻め入って来るはず」

「確かにお前の云う通りかもしれぬ。じゃが、このまま何もせずに待っておっても、何れサバタイやサタナエルに攻め入られ、滅びるであろう」


 もっともな疑問を投げかけるのはプロセルピーヌだ。


「女王様のおっしゃる通りぞえ」

「お前の考えではどちらにせよ滅びの道を辿るのではないか」

「それとも何かえ。お前一匹でサバタイの国を落とせるとでも言うのかえ?」


 スキュラの六つの頭は、一斉にせせら笑いだす。が、直ぐに向けられたルシフェルの睥睨に、はたと口を噤む。

 何度となく向けられた事のあるルシフェルの鋭い視線だが、今まで何も感じなかったその視線に畏怖を感じる。

 ルシフェルの視線がプロセルピーヌに戻り、思わずホッとしてしまった事に、スキュラは驚きと共に憤りを覚えた。

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