最終話 非情の王
追っ手を巧く撒いたカレガタナスは、森を越え、平原の上をガーゴイルの姿のまま飛んでいた。
「スキュラとマルコキアス以外にまだあんな奴が居たのか。いや、あんな奴は居なかったはずだ。では、いつから……」
考え耽りながら飛んでいると、その行方に城らしき大きな建物が見えて来た。
それが城だと確認出来るほど近付いた時、城の方から二匹のガーゴイルが飛び迫って来た。
「おい、そこの奴、止まれ!」
カレガタナスから少し離れて宙に静止したガーゴイル達は、同じく宙に静止したカレガタナスに手にしている槍を向ける。
「ここはサバタイ様の領土なるぞ」
「大人しく捕まるか、槍で串刺しになるか、どちらか選べ」
「選べ? 誰に物を言っている」
カレガタナスの頭だけが元の自らの姿に変わる。
「これはカレガタナス様」
「し、失礼致しました。姿が違っていましたので、つい余所者かと」
直ぐに槍を引くと共に、カレガタナスの傷に気付く。
「その腕、どうなされたのですか?」
「胸元も怪我をされているではありませんか」
「傷の事はいい。サバタイ様の報告が遅れる。行くぞ」
カレガタナスを先頭に、三匹は城の前に舞い降りる。
二匹のガーゴイルは守衛の任に戻り、姿の全てを元に戻したカレガタナスだけが城の中に歩みを進めた。
通路を黙々と歩み、向かった先は王室だ。
王室の玉座には、頭に一本の角を生やし、顎から耳の辺りまで多量の髭を蓄えた城主、サバタイが鎮座する姿があった。
玉座の後方には、斧を持った二匹のゴブリンの姿もある。
カレガタナスは玉座の前で片膝を床に落とし、一礼する。
「只今戻りました」
サバタイはカレガタナスの傷を一瞥する。
「暗殺に行って傷を負ったのか。まさか、失敗した訳ではあるまいな?」
「申し訳御座いません。もう少しと言う所だったのですが、傍に手強い奴が居りまして、邪魔された上、こうして手傷まで負わされてしまいました」
カレガタナスの声は少し恟々としている。
「ほう、お前に手傷を負わせるとはかなりのものだな。だが、寝込みを襲ったのならスキュラやマルコキアスは近くにはおらぬであろう」
「奴の顔は初めて見ました。恐らく余所者かと思われます。本当です。信じて下さい」
必死に訴えるカレガタナスの姿に、サバタイは口元を綻ばせる。
「女のプロセルピーヌにそれほどの者が従うとは思えぬが、お前がそこまで云うのなら信じよう。そんな事よりも━━」
サバタイが玉座から腰を上げる。
「今大事なのは暗殺に失敗した事だ」
「お、御許し下さい」
カレガタナスはあからさまに狼狽する。
玉座の後方に立つゴブリン達も、その表情は強ばり、微かに身を震わせている。
ゆっくりと歩み出したサバタイの両手の五指が徐々に一つになり、更に手首から先の部分が床に向かって細長く伸びて行く。
床に膝を落としたままのカレガタナスの前で歩みを止めた時には、その両手は細長く床に引き摺る程に伸びていた。
「失敗した者には、分かっておろうな?」
サバタイが振るった手が鞭のように大きくしなり、カレガタナスの体を打ち付ける。
息もつかせず、もう一方の手でも打ち付ける。
何度となく、絶え間なく、カレガタナスの体を打ち付け、その度にカレガタナスの口から悲痛な声が洩れる。
ゴブリン達はその光景を直視出来ずに目を背け、歯を食い縛る。
「ほら、もっと叫べ! 苦しめ!」
王室にサバタイの高笑いとカレガタナスの叫び声が響き渡る。
それは、カレガタナスが気を失うまで続けられた。
《第四章へと続く……》




