第十二話 新たなる強者
「知っておるのか?」
「サバタイの重臣じゃ。まさかたった一匹で乗り込んで来ようとは」
「ここまでは上手く来たのだが、まさか部屋の中にもう一匹居ようとは。だが、怪我を負った護衛一匹ではさして変わらぬ」
カレガタナスは剣を構える。
「不意を突かれなければ貴様など━━」
プロセルピーヌは振るう錫杖がない事にようやく気付いた。
机に立て掛けてある錫杖の元に駆け寄ろうとするが、カレガタナスが素早い動きでその行路に廻り込む。
「杖が無ければ強大な力が出せぬ事は先刻承知。覚悟するのだな」
カレガタナスが剣を振り上げてプロセルピーヌに歩み寄って行く。が、ルシフェルが腹部を押さえつつ再び割って入る。
「貴様の相手は我がしてやろう」
「怪我を負っていると言うのに、先に死にたいか?」
「この程度の怪我、大した程でもないわ。それに貴様、聞き捨てならぬ事を云ったな。云っておくが我は護衛などではない!」
言い切るのが先か、カレガタナスに迫るのが先か、ルシフェルは右手を振り上げていた。
カレガタナスも体が反応し、飛び退って躱そうとするが、左腕を引き裂かれる。
ただ、透かさず振るった剣が、ルシフェルの右の腿を掠め斬る。
距離を取った二匹の声が揃った。
「こいつ、やる」
その時、開け放たれている部屋の入口から護衛の交代に来た五匹の悪魔が血相を変えて雪崩れ込んで来た。
「何事です!」
「曲者じゃ! その者を始末せい!」
護衛達は次々とカレガタナスに向かって行く。
カレガタナスも上手く応戦していたが、騒ぎを聞き付けた他の悪魔達が次々と集まって来て加勢に入り、形勢は悪化して行く。
「くそ、ここまでか」
隙を巧く作ってバルコニーに出たカレガタナスは、その身をまたガーゴイルに変え、剣を納めると共に飛び立って行った。
傍に居るガーゴイル達も次々と後を追う。
ルシフェルも後を追おうとするが、腹部と腿の傷の痛みが止める。
「無理をするではない。そうでなくともお前は元々傷を負っておるのだぞ。おい、そこの者、グライアを呼んでまいれ」
一匹のゴブリンが慌てて駆け去って行く。
「護衛に来た者は部屋の外で護衛に当たれ。他の者は外の亡骸を葬ってやってくれ」
「ですがまだそいつが━━」
「何を云っておる。こやつは身を挺して妾の命を救ってくれた恩人であるぞ」
「そいつが!?」
「何をしておる。分かったのなら出て行かぬか!」
悪魔達はそそくさと部屋から出て行った。
扉が締められるのを確認してからプロセルピーヌはルシフェルに肩を貸し、ベッドに腰を下ろさせる。
「お前の御蔭で助かった。礼を云うぞ」
「礼などいらぬ。云ったではないか。将来の妻となるお前とこの国は我が守ると」
「そうであったな」
「それにしても、アスタロトやサタナエル以外にまだあんな奴が居るのか」
「魔界も広い。まだまだあんな連中が居るはずじゃ」
言い終えるなり、プロセルピーヌは小声で失笑する。
「何だ?」
「いや、済まぬ。大口を叩くお前には珍しく弱気な言葉だと思うてな」
「弱気ではない。魔王を目指すには遣り甲斐があると思っただけだ」
ルシフェルは少し気まずそうな顔を背けた。




