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堕天使物語 -サタン誕生-  作者: 平岡春太
 第三章 大女悪魔

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 第十一話 刺客

 ベッドで眠っていたルシフェルとプロセルピーヌは、扉を何度となく叩く音で目を覚ました。

 プロセルピーヌはベッドから降り、扉に歩み寄って開ける。

 そこには心配げなガーゴイルが顔を覗かせた。


「何事じゃ?」

「一晩中出て来られませんでしたので、もしや中で何かあったのではないかと思い、呼び掛けた次第です」


 護衛達の顔には疲労感が垣間見られた。


「そうか、お前達は一晩中そこに立っておいてくれたのじゃな。忘れておった。済まぬ事をしたな」

「勿体なき御言葉。我等は護衛、それが任に御座います」

「そう申してくれると妾も嬉しいぞ。じゃが、お前達も疲れたであろう。妾は大丈夫じゃ。他の者と代わり、眠りに就いて疲れを癒やすが良い」

「ですが……」


 護衛の目は、ベッドに寝ているルシフェルに向く。


「大丈夫だと申しておるのじゃ。それとも、折角の妾の好意を無にするつもりか?」

「い、いえ、滅相も御座いません。おい、早く代わりの者を」


 一匹のガーゴイルが慌てて駆け去って行く。


「それで良いのじゃ」

「交代の者が来るまでは我等が待たせて貰いますゆえ、その分は御容赦を」

「うむ、良きに計らえ」


 扉を閉め、プロセルピーヌはベッドへと戻って行く。


「困った者達じゃ」

「忠義があって良いではないか」

「忠義にも度と云うものがある。疲れが溜まっていざと云う時に動けぬでは困ると云うものじゃ」

「それも云えるか」


 ベッドに戻ろうとすると、直ぐに今度は扉を激しく叩く音が聞こえて来る。


「今度は何じゃ? 交代の報告なら良いぞ」

「いえ、違います。至急の報告があります。どうか御目通りを」


 返って来た声には、少しの緊迫感が感じられた。


「至急の報告じゃと? 良いぞ。入れ」


 扉を開き、入って来たガーゴイルは、護衛達とは違い、左腰に帯剣している。

 プロセルピーヌの前で片膝を床に落とし、顔を伏せる。


「何事じゃ?」

「今し方、サバタイの手の者が我が国に攻め込んで来ました」

「何じゃと、誠か? 争うような声一つ聴こえて来ぬではないか」

「それはそうです。攻め入って来たのは私だけですから」


 ガーゴイルが上げた顔は悪辣(あくらつ)な笑みで満ち、その手がいつ動いたかと知れぬ速さで剣が鞘から抜き放たれ、その()(ぽう)がプロセルピーヌに向けて突き出された。

 避けるどころか動く間さえ与えぬ速さであった。

 呻き声が洩れると共にどす黒い血が床に飛び散った。

 ただそれは、プロセルピーヌのものではなく、ガーゴイルが突き出した剣はルシフェルの腹部に突き刺さっていた。

 ルシフェルは苦痛に顔をしかめつつもガーゴイルに爪を振るう。

 ガーゴイルは咄嗟に反応し、剣を引き抜きつつ飛び退るが、胸元に五本の傷口が開き、血が噴き出す。


「中にまだ一匹居たのか」

「一体どう云う事じゃ?」

「恐らくそいつはこの国の者ではない。扉の外を見よ」


 傷口を押さえるルシフェルが声を絞り出す。

 扉の外には、倒れている護衛と思われる複数の足が覗いている。


「良く見ればあの剣もこの国の物ではない。貴様、何者じゃ!」


 傷ついた胸元を押さえながらも笑みを見せるガーゴイルの体が変化を見せ始めた。

 背中に生えている羽が一瞬にして背中に消え、頭にある角も頭の中に消えると、新たに水牛のような角が三本生えて来て左右と後方に伸び、耳は尖り、(あご)から(ひげ)が伸びて来た。


「貴様はカレガタナス!?」

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