第十一話 刺客
ベッドで眠っていたルシフェルとプロセルピーヌは、扉を何度となく叩く音で目を覚ました。
プロセルピーヌはベッドから降り、扉に歩み寄って開ける。
そこには心配げなガーゴイルが顔を覗かせた。
「何事じゃ?」
「一晩中出て来られませんでしたので、もしや中で何かあったのではないかと思い、呼び掛けた次第です」
護衛達の顔には疲労感が垣間見られた。
「そうか、お前達は一晩中そこに立っておいてくれたのじゃな。忘れておった。済まぬ事をしたな」
「勿体なき御言葉。我等は護衛、それが任に御座います」
「そう申してくれると妾も嬉しいぞ。じゃが、お前達も疲れたであろう。妾は大丈夫じゃ。他の者と代わり、眠りに就いて疲れを癒やすが良い」
「ですが……」
護衛の目は、ベッドに寝ているルシフェルに向く。
「大丈夫だと申しておるのじゃ。それとも、折角の妾の好意を無にするつもりか?」
「い、いえ、滅相も御座いません。おい、早く代わりの者を」
一匹のガーゴイルが慌てて駆け去って行く。
「それで良いのじゃ」
「交代の者が来るまでは我等が待たせて貰いますゆえ、その分は御容赦を」
「うむ、良きに計らえ」
扉を閉め、プロセルピーヌはベッドへと戻って行く。
「困った者達じゃ」
「忠義があって良いではないか」
「忠義にも度と云うものがある。疲れが溜まっていざと云う時に動けぬでは困ると云うものじゃ」
「それも云えるか」
ベッドに戻ろうとすると、直ぐに今度は扉を激しく叩く音が聞こえて来る。
「今度は何じゃ? 交代の報告なら良いぞ」
「いえ、違います。至急の報告があります。どうか御目通りを」
返って来た声には、少しの緊迫感が感じられた。
「至急の報告じゃと? 良いぞ。入れ」
扉を開き、入って来たガーゴイルは、護衛達とは違い、左腰に帯剣している。
プロセルピーヌの前で片膝を床に落とし、顔を伏せる。
「何事じゃ?」
「今し方、サバタイの手の者が我が国に攻め込んで来ました」
「何じゃと、誠か? 争うような声一つ聴こえて来ぬではないか」
「それはそうです。攻め入って来たのは私だけですから」
ガーゴイルが上げた顔は悪辣な笑みで満ち、その手がいつ動いたかと知れぬ速さで剣が鞘から抜き放たれ、その切っ鋒がプロセルピーヌに向けて突き出された。
避けるどころか動く間さえ与えぬ速さであった。
呻き声が洩れると共にどす黒い血が床に飛び散った。
ただそれは、プロセルピーヌのものではなく、ガーゴイルが突き出した剣はルシフェルの腹部に突き刺さっていた。
ルシフェルは苦痛に顔をしかめつつもガーゴイルに爪を振るう。
ガーゴイルは咄嗟に反応し、剣を引き抜きつつ飛び退るが、胸元に五本の傷口が開き、血が噴き出す。
「中にまだ一匹居たのか」
「一体どう云う事じゃ?」
「恐らくそいつはこの国の者ではない。扉の外を見よ」
傷口を押さえるルシフェルが声を絞り出す。
扉の外には、倒れている護衛と思われる複数の足が覗いている。
「良く見ればあの剣もこの国の物ではない。貴様、何者じゃ!」
傷ついた胸元を押さえながらも笑みを見せるガーゴイルの体が変化を見せ始めた。
背中に生えている羽が一瞬にして背中に消え、頭にある角も頭の中に消えると、新たに水牛のような角が三本生えて来て左右と後方に伸び、耳は尖り、顎から髭が伸びて来た。
「貴様はカレガタナス!?」




