第三話 共感と反感
玉座には、妖艶な雰囲気を漂わせる女悪魔が座っていた。
それも、衣服から覗く肌は雪のように白く、体を流れる黒い血が見える程に透き通り、頭にはルシフェルのような山羊のそれに似た二本の角が生えてはいるが、長い黒髪が良く似合う魔界の者とは思えぬ美しい女の悪魔がそこに居た。
無意識の内にルシフェルがプロセルピーヌに手を伸ばそうとした時、背後から迫った黒い物がルシフェルの首に巻き付き、物凄い力でルシフェルを背後に引っ張った。
宙に投げ出されたルシフェルは、元居た階段下の床に背中から叩き付けられた。
ルシフェルの首に巻き付いている黒い物の先は水の中から伸びており、ルシフェルの首から離れ、スルスルと水の中に吸い込まれた。
それに代わって、水中から六つの女の頭が顔を覗かせた。
それは、ルシフェルが逃亡中にガーゴイルに見つかった時、河の中から現れたあの六つの頭であった。
「女王様に触れる事は許さぬぞえ」
頭の一つが怒声を飛ばす。
「何だ、貴様等は?」
ルシフェルはゆっくりと立ち上がる。
「そう怒るでない。お前をサタナエルの手の者から助けたのは、そこに居るスキュラなのじゃぞ」
「何、こいつ等が?」
「そうだ。だと言うのに、感謝するどころか先程から聞いておれば女王様に無礼な口ばかり聞きおって。その挙句、女王様の姿を見るとは何とも下衆な奴よ」
「下衆だと!」
「下衆だから下衆と言うたのだ」
「やはり助けなければよか━━」
次々と頭を変えて飛ばされる罵声と、怒りに駆られて今にも水の中に飛び込まんばかりのルシフェルを、再び床を叩いたプロセルピーヌの錫杖の音が止める。
「いい加減にするのじゃ。幾ら何でも云い過ぎじゃ。スキュラ、お前も無礼じゃぞ」
「ですが女王様、其奴━━」
頭の一つが口を開くも、カーテン越しにプロセルピーヌに睥睨されているのに気付き、直ぐに口を噤む。
「それに、こちらが礼を欠いたと云うのも確かじゃ」
プロセルピーヌは玉座から立ち、カーテンの中から姿を現した。
「これで良かろう。じゃが、そちらも礼を欠いた言動をしておったのも事実であるぞ」
「それほどと思わぬが、そちらが誠意を見せたのだ。気になったのであれば、これからは気を付けよう」
意外と素直な返答にプロセルピーヌの顔から笑みが洩れる。
それを見た六つの頭が、揃って驚きを見せる。
「女王様が笑われた……」
「久しく見なんだぞ」
「あの者が……」
「一体何者ぞ……?」
「我等にとって吉と出るか凶と出るか……」
ルシフェルに向ける六つの頭の目は、嫌悪のそれであった。




