第二話 プロセルピーヌ
牢を出た二匹は、ゴブリンを先導に長々と続く通路を歩む。
牢がある事と言い、見た目にも分かる巨大な建造物に、そこが城であると察しはついた。
「おい、まだ着かぬのか?」
「そう慌てるな。あそこだ」
少し先の壁に大きく口を開けた入口まで歩み、ゴブリンは歩みを止めた。
「失礼致します」
一礼し、中に入ったゴブリンに続き、警戒しながら足を踏み入れたルシフェルは、直ぐに歩みを止めた。
「ほう、これは……」
目の前には、広々とした部屋が広がっていた。が、床は半分ほどしかなく、残り半分には水が溜まっていた。
しかもその水は、降り注いでいた雨や流れていた河の水のように黒く濁っておらず、蒼い。
溜まっている水の中央の上空には、レース状のカーテンのような物に四方を囲まれた小部屋があり、床から伸びた階段が小部屋を支えている。
小部屋のカーテンの奥には、錫杖らしき物を手にして玉座に座る影が薄っすら透けて見える
「何をしている。ここまで来い」
階段の下で待つゴブリンが呼ぶ声に、立ち尽くしていたルシフェルはようやく歩み出す。
ゴブリンはルシフェルを待たず、小部屋に向かって片膝を床に落とし、一礼する。
「お言い付け通り、枷を外して連れて参りました」
「うむ、御苦労であった。お前はもう下がって良いぞ」
カーテンの奥から聞こえて来た声は、明らかに女のものであった。
「ですが、得体の知れぬ者を置いて女王様だけにする訳には行きませぬ」
「案ずるな。スキュラが戻っておる」
「左様で。分かりました。では、これにて」
ゴブリンは一礼してから立ち上がり、そそくさと部屋を後にした。
カーテン越しながらも、玉座に座る者の視線が自分に向けられたのがルシフェルには分かった。
「話には聞いておったが、誠に大きな奴じゃ。して、そなた名は何と申す?」
「名か。昔の名は捨てた」
「捨てたじゃと?」
「そもそも名を訊くならそちらから名乗るべきではないか? 貴様は誰だ? ここは何処だ? 一体どうなっておる?」
「こんな状況でまるで物怖じもせず、高圧的な態度を取る奴に会うたのは初めてじゃ」
「黙っておらず、説明せよ」
「良かろう。ここに来るまでに気付いたであろうが、ここは城の王室じゃ。して、妾はこの城の城主であるプロセルピーヌと云う」
「ほう、女王とは聞いておったが、誠に魔界の君主に女の悪魔が居るのか」
「居るのかじゃと?」
プロセルピーヌが握る錫杖の先が床を叩く激しい音が響き渡る。
「女が王となって悪いか?」
露骨に怒りを含んだ声が飛んで来る。
「誰もそうは云っておらぬ」
「居るのかと疑念に思うておるならそう申しておるのも同然であろう」
「凝り固まった奴だ。その様子からすると、女が王となるのに相当疎まれたか。が、その程度で怒るとは、それこそ王としての器量がないのではないか?」
「何を申す。この無礼者め!」
「無礼者だと?」
ルシフェルは目の前に伸びる階段を一気に駆け上がり、カーテンに手を掛ける。
「貴様こそ全く姿を見せずに無礼ではないか。それとも見せられぬほど醜い姿でもしておるのか?」
カーテンを払いのけるように開いたルシフェルの動きが止まった。
「これは……!?」




