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堕天使物語 -サタン誕生-  作者: 平岡春太
 第二章 死線

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 第七話 追跡

 収監されている悪魔達の声も耳に入れず、真っ先に向かったのは、奥にある拷問牢獄、それもルシフェルが入れられているはずの牢だ。

 ただ、そこには居るはずのルシフェルの姿はなく、黒焦げになって横たわるゴブリンの変わり果てた姿しかなかった。


「まさかここから逃げ出すとは……おい、まだ奴は飛べぬはず。まだそう遠くには行ってはおるまい。今直ぐあと何匹か連れて奴を追え」


 ゴブリンが返事を返し、ヒュポクトニア達を連れて牢から走り去って行った。


「おい、アスタロトよ」


 悪魔達が去ったのを待っていたかのように、隣の牢からヴェールが呼び掛ける。


「幾多の悪魔を見て来た儂が見る限り、あ奴は相当強いぞ。これからもっと強くなるじゃろうて。そして必ずや戻って来ると云うておった。覚悟しておいた方が良いぞ」

「ほぉう、それは楽しみだ。早く戻って来て欲しいものだ」


 ヴェールの中央の顔が眉を(ひそ)める。


「はて、お主、喜んでおるのか?」

「さあ、どうかな」

「何を考えておる? そもそもお主、どうしてサタナエルの下僕となった? 誇り高き一国の王として名も知れておったお主が、その国を滅ぼしたのはあのサタナエルじゃろう」

「誇りなど、とうに捨てたわ。俺はお前とは違う。ただそれだけだ。失礼するぞ。奴を追わねばならぬからな」

「何を考えておるのか……」





 牢から去ったアスタロトは、王室に向かった。

 玉座に鎮座するサタナエルの前で床に片膝を床に落とし、顔を伏せる。


「先程から何やら騒がしいが、何事だ?」

「拷問牢獄から奴が逃げました」

「拷問牢獄の奴と云うと、先日捕えた堕天使か? 何と、三日以上もあの牢で耐えたばかりか、逃げ出したと申すか? 底知れぬ力と云うべきか。が、今度は少々度が過ぎるな。それで、現状はどうなっておる?」

「魔獣を放ち、何匹かに追わせております。逃げたとは云え、拷問牢獄に五日も入っていたのです。遠くに行ける体ではありますまい。直ぐに私も追跡に出ますが、見つけたら如何なさいましょう? 連れて戻りましょうか?」

「いや、拷問牢獄にも耐え、逃げ出した奴だ。これ以上何をしても下僕にはならぬであろう。とは云え、このまま逃す訳には行かぬ。誰の下僕にならぬと云っておるとは云え、もしもあの力が他国に渡る事があれば我が国の脅威となるのは必定。力がまだ完全ではない今の内に殺すのだ」

「承知しました」





 遅れて城を飛び立ったアスタロトは、ゆっくりと旋廻しながらルシフェルの行方を捜す。


「一体何処に居る……」


 広大な森の中、探し出すのは至難だけに、ルシフェルを見つければ知らせろと捜索する悪魔に命を下してあるのだが、知らせどころか探しているはずのガーゴイルの姿さえ見えない。

 遠方から何かの騒ぎ声が聞こえて来る。

 その方向に徐々に近付いて行くと、それは複数の悲鳴だと分かった。


「あそこか……!」


 悲鳴が次々と上がる地上には複数の影が確認出来た。

 ゆっくりと舞い降りたそこには、ガーゴイル、ゴブリン、ヒュポクトニア、そして魔獣の屍が無数に横たわり、流れ出したどす黒い血が一帯に広がっていた。

 その屍のほぼ中央に、返り血に塗れたルシフェルが立っていた。

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