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堕天使物語 -サタン誕生-  作者: 平岡春太
 第二章 死線

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 第五話 頼み

 歩み寄るルシフェルに気圧(けお)され、ゴブリン達は逃げ出そうとするが、迫るルシフェルの方が早く、背後から二匹の首を摑み止める。

と、その時、牢屋全体が激しく揺れ始めた。


「丁度良い時に来たな」


 ルシフェルは片手を放すと同時に放したゴブリンの腹に拳を叩き込んで(うずくま)らせると、もう一匹を壁際に引き摺り、断ち切れて垂れ下がる残る鎖をゴブリンの首に巻き付ける。

更に蹲っているゴブリン首を素早く摑み、同じように壁際に引っ張って来てその首にも鎖を巻き付けた。


「や、止め、止め……!」


 ゴブリン達は慌てて鎖を外そうとするが、瞬く間に鎖から雷撃が流れ込んで来た。

 激しく体を震わせ、絶叫する。

 直ぐに雷撃は収まったが、鎖にぶら下がった二匹のゴブリン達は、体から白煙を上げたまま動く様子はなかった。


「他愛もない。一撃で死におったか」


 ルシフェルは突然片膝を床に落とした。


「どうやら痛みが蓄積しておるか」


 それでも直ぐに立ち上がる。


「おい、ヴェール」


 先程の雷撃を受け、ヴェールの体からは白煙が上がっているが、いつもながらヴェールは平然としていた。


「どうだ。鎖は切れたぞ」

「誠に恐れ入った。まさか本当に魔剛石の鎖を切ってしまうとは、大したものじゃ。それはそうと早く逃げてはどうじゃ? 幾らお前に力があるとて、その体ではまともに戦えぬであろうて」

「分かっておる。もう奴等に苦汁を舐めさせられるのは御免だ。万全の体になって必ずや借りを返しに戻って来る。それより、お前はどうする? お前には色々な事を教わった。望むなら、その鎖を断ち切ってやっても良いぞ」

「止めておけ。お主に鎖を断つ力がある事は分かった。じゃが、そのゴブリン達の連絡が遅れれば不審に思って誰かが来る。幾ら何でもそれまでに鎖を断つ事は不可能じゃて。見つかってしまえば折角の逃げる機会も無駄となるぞ」

「それでは遠慮なく行かせて貰うぞ」

「おいおい、そう急ぐな」

「行けと云ったのはお前だぞ。やはり出して欲しいのか?」

「そうではない。ただ、助ける気持ちがあると云うのなら、ある悪魔にこいつを渡して欲しいのじゃ」


 ヴェールの左の蛙の頭が口から黒い物体を床に吐き出し、それを一本の足でルシフェルの牢に蹴り入れた。

 滑るようにしてルシフェルの足元で止まる。

 拾い上げたそれは、漆黒のペンダントであった。

 中央にある石には悪魔文字で何か刻まれている。


「これは?」

「儂の身を明かすものじゃ。それをイディオヴァルトを治める君主、ルキフグスに渡してくれぬか。ルキフグスとは昔からの知り合いでな。儂が牢に入れられておると知れば、必ずや助けに来てくれるはずじゃて」

「そんな事をしなくとも、我の体が万全となれば我だけでも何とでもなるわ」

「甘く見るでないわ!」


 あまり感情を見せなかったヴェールが初めて見せる怒りに、ルシフェルは驚く。


「確かにお主の力は凄い。サタナエルやアスタロトに勝てるやもしれぬ。じゃが、それは対等で戦えばの話じゃ。国一つを落とすとなれば、たった一匹でどうなると云うものではない。ここに連れられて来たと云う事は、それは身をもって知ったはずじゃ」

「誰に物を云っておる。我は……我は……」


 天使であった時のその名は言えなかった。


「我の本来の力はこんなものではない。それに我は誰の命にも従わぬ、そう云ったはず。例えそれがお前でもな」


 牢を出たルシフェルは、ヴェールの牢の前に立ち止まる。


「しかし、こいつは確かに届けてやる。その後、そのルキフグスとか云う者がどうしようと我の知る所ではない」


 それだけ言い残し、ペンダントを首に掛けて去って行った。


「全く素直でない奴じゃ」

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