第三話 拷問牢獄
「来るぞ。気を抜くと死ぬ事になるぞ」
ふと隣を向くと、左隣の牢で鎖に繋がれているゴブリンが何かに怯えるように激しく体を震わせている。
「何が来ると━━」
言い切るより早く、それぞれの拷問牢獄の壁の中から鎖を伝わって、繋がれている悪魔達に強烈な電撃が流れ込む。
悪魔達は体を激しく震わせて絶叫する。
ルシフェルもまた体を震わせて絶叫していた。
唯一ヴェールだけは、中央の顔だけが苦痛に顔をしかめてはいるものの声は上げていなかった。
直ぐに電撃は途絶えたが、ヴェールを除く拷問牢獄に居る四匹の悪魔は揃って床に倒れた。
立っているヴェールを含め、その体からは白煙が上がっている。
倒れた悪魔の内、三匹は全く動く様子はなかったが、ルシフェルだけは必死に体をもたげて立ち上がる。
「ほぉう、ここに来てあれに耐えられた奴を見るのは初めてじゃ。それも堕ちて来てまだ間もないと云うのにのぉ」
「こっ、この程度の衝撃、大した程ではないわ。それより、今のは何なのだ?」
「あれか? この城の頂には一本の長い針が立っておってな。それに雷が落ちれば城の壁を通り、儂らを繋ぐ鎖を伝わって来る仕組みになっておる。ここに並ぶ五つの牢は拷問牢獄と云うてな。従わぬ者をここに入れ、従うまで雷を打たせて拷問すると云う訳じゃ。耐えられぬと……ほれ、ああなる。見えるかのぉ?」
ヴェールは一本の足で右端の牢を指し示す。
かなり薄暗く見え難いが、その牢の中には黒焦げになった悪魔が仰向けになって絶命していた。
「殆どの者は一日を待たずに命乞いするか、あ奴のように惨めな姿となる。儂の覚えて居る限り、儂以外で三日と持った者は居らぬ。勿論、逃げ出せた者は皆無じゃ。儂が作らせた物じゃが、まさか儂自信が入る羽目になるとは思いもよらなんだがのお」
「逃げたものは皆無か。ならば我が初めてになってくれよう」
ルシフェルが鎖を引く音、そして時折落ちて来る雷の衝撃を受けた悪魔達の悲鳴が地下に響き渡った。
ルシフェルが牢に幽閉されてから五日が過ぎた。
五つある拷問牢獄は三つが空となり、残っているのはヴェールとルシフェルの姿だけになっていた。
日に十数回と城に落ちる雷の衝撃を受け、ルシフェルの体はボロボロだ。
相も変わらずルシフェルは鎖を引き続けているが、切れる様子はない。
そしてまた、牢獄全体が激しく揺れ始めた。
「来るか」
直ぐに鎖を伝い、ルシフェルとヴェールの体に雷撃が流れ込む。
初めて雷撃を受けてから暫くの間ルシフェルは気を失わなかったが、苦しみに耐えきれずに絶叫してしまう。
ただ、全く声を出さないとは言えないものの絶叫はせず、最後まで立っていられるようになっていた。
雷撃が途絶えると、ルシフェルとヴェールの体から白煙が上がる。
「もうかなり耐えられるようになったようじゃのぉ。儂でさえ耐えられるようになるまでに半年は掛かったと云うに、たった五日とは驚きじゃな」
「お前とは出来が違う」
「どうやらそのようじゃ。天界では相当な力があったようじゃのぉ」
「天界の話は無しだ」
「おお、これはうっかりした」
天界での話が出ると、いつも話が途切れてしまう。
気まずい空気に包まれ、沈黙が訪れたが、直ぐにそれを破ったのは、ルシフェルが鎖を引く音だった。
「力があるのは分かるが、いい加減諦めてはどうじゃ?」
ルシフェルが鎖を引くのを止めた。
「ほう、今まで儂の云う事を聞いた事がないと云うに、今日は随分と素直じゃな」
「お前の言う事を聞いた訳じゃない。お前はまだ我の力を分かってはおらぬ。今日の見廻りが来た時、それが分かる」
ルシフェルは後ろの壁まで下がり、腕を組んで壁に凭れ、目を閉じて動かなくなった。




