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堕天使物語 -サタン誕生-  作者: 平岡春太
 第一章 堕天と転身

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 最終話 王たる力

「誰が先だろうが同じこと。どうせなら一斉に掛かってくればよかろう。その方が手間も省けると云うもの」

「かなりの自信だな。先程から気にはなっておったが、その口調からして天界ではかなりの地位に居ったとみる。名は何と申す?」

「名は━━いや、堕ちた以上、天界での名など無用」

「良き心掛けだ。どうだ。もう一度訊くが、素直に我が下僕に納まる気はないか?」

「云ったはずだ。我は魔王となると」

「どうあっても私を殺して魔王となると申すか。ならば来るが良い。他の者には手を出させぬ」

「良いのか、貴様だけで?」

「私は王ぞ。アスタロトに勝てぬ者など、この場から動かなくとも勝てようぞ」

「面白い。それが本当かどうか、試してやろう。ここでは嘘も通るであろうからな」

「いかにも」


 互いの笑みが一致した。


「但し、その言葉が誠なら、そこを貴様の墓場にしてやろう」


 猛然と駆け出したルシフェルは、傷を負っているとは思えない速さで一気にサタナエルに迫り、右手を突き出した。

 豪語した通り、サタナエルはその場を全くも動かなかった。

 ルシフェルの右手はサタナエルの左胸を貫き、傷口から血が噴き出すと共にサタナエルの顔が歪む。


「口ほどにもない……ん?」


 サタナエルの体から腕が抜けない。


「良い動きだ。だが、それでは私を殺す事は出来ぬぞ。何故(なぜ)なら私は不死身なのだからな」


 歪んだはずのサタナエルの顔は、不敵な笑みに変わっていた。


「不死身? 何を馬鹿な」

「信じぬか? 現に私は体を貫かれてこうして生きておるではないか。さあ、今度はこちらの番だ」


 サタナエルが抜けないルシフェルの腕を摑んだ刹那、サタナエルの手が閃光を放ち、その手から摑んでいるルシフェルの腕に激しい電撃が走り、それが体中を駆け巡る。

 ルシフェルの悲痛な叫び声が響き渡る。


「苦しかろう。どうだ? 今でも私の下僕になると申せば、直ぐその苦しみから解放してやるぞ」

「……だ、誰が……な、なるか…………」

「ならば、これでどうだ?」


 サタナエルの手から流れて来る電撃がその激しさを増す。

 ルシフェルの絶叫が城全体に響き渡ると共に、体の至る所から火花が飛び散る。


「さあ、なると申せ」

「……だ、誰が━━」


 更に痛みが増し、最後の絶叫が途切れると共に、ルシフェルはサタナエルの胸に腕を突き刺したまま力なくその場に倒れた。

 それでも流れ来る電撃に、ルシフェルの体は痙攣(けいれん)を続ける。

 サタナエルの手の閃光が徐々に消え、ルシフェルの痙攣も止まり、完全に動かなくなった。

 その体からは白煙が上がっている。


「強情な奴だ。それだけに面白い」


 サタナエルはルシフェルの腕を体から引き抜き、ルシフェルを投げ捨てた。


「随分と大きな穴を開けてくれたものだ」


 左胸には大きな穴が開いているが、徐々に塞がり始め、見る間に傷跡も残さず完全に塞がってしまった。


「殺したのですか?」


 アスタロトが(たず)ねる。


「いや、死んではおるまい。他の者とはものが違いそうだ。それだけに其奴の力、どうしても欲しくなった」

「ですが、そう簡単に受け入れるとも思えませぬが」

「拷問牢獄に連れて行け。あそこならば其奴の考えも変わるかもしれぬ。それでも駄目ならば殺すしかあるまい。敵に廻す訳にも行かぬからな」

「分かりました」


 アスタロトは辺りを見廻した。

 ルシフェルに飛ばされた三匹のゴブリン達が呆然と立ち尽くしている。


「おい、いつまでそうしているつもりだ。聞こえたであろう。そいつを早く拷問牢獄に連れて行け」


 ゴブリン達は慌てて倒れているルシフェルの周りに集まる。


「待て。そこの死体も片付けるのだ」


 一匹のゴブリンがルシフェルに殺されたゴブリンを担ぎ、二匹がルシフェルの両脇を抱えるようにして王室から出て行った。


「それでは私もこれにて」

「待て」


 呼び止められたアスタロトは、再び片膝を床に落とし、顔を伏せる。


「何かまだ?」

「隣国に攻め入るのは二日後としておったが、延期すると皆に伝えよ。失った下僕の立て直しを図らねばならぬからな。それに、出来れば今の奴を下僕にしてからにしたい。隣国にはそれなりの奴が居るからな」

「分かりました。その旨、皆に伝えます」


        《第二章へと続く……》

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