第十一話 奮い起つ
「…………ここは、何処だ……?」
徐々に咳が治まっては行くが、まだ目が霞む。
それでも、誰かに取り押さえられている事は分かった。
「誰だ、体を押さえておるのは? 放せ! 放さぬか!!」
何とか振り払おうとするも、アスタロトが突き刺した足と腕の関節が完治していない上に、槍が突き刺さった腹部に開いた傷は臓器が露になり、自然治癒しているのか、不気味に蠢いているが、力が入らない。
「無理をするな。返答次第では今直ぐに放してやっても良いぞ」
「誰だ?」
聞き覚えのない声に、ルシフェルは何とか顔だけを上げる。
視界が徐々に晴れ渡り、玉座に座っているサタナエルの姿が現れた。
隣に居るアスタロトを一瞥し、それが誰かを直ぐに理解した。
「そうか、貴様がサタナエルか」
「貴様、サタナエル様の御前だぞ。無礼な口の聞き方をするな」
体に乗るゴブリンが、ルシフェルの頭を押さえ付ける。が、
「止めよ」
サタナエルが制す。
「大事な客人だ。少し力を弱めてやれ」
「ですが」
「何だ。私の云う事が聞けぬと云うのか?」
「い、いえ」
ゴブリンは慌てて力を弱める。
「大事な客人だと? 強引に連れて来て、こんな仕打ちをさせる者が良く云えたものだ」
「そう怒るでない。そうまでしなければここに来て貰えなかったのであろう」
「我は得体の知れぬ者にのこのこ付いて行くような馬鹿ではない」
「だが、こうしてここに居る。違うか?」
「それは━━」
思わず声を飲んだ。
まさかアスタロトにやられたとは言えない。
「まあ良い。それより、ここに連れて来た理由は分かっておろうな? が、その様子だとすんなりと我が配下には納まってくれそうもないであろうな。そこでだ。もし我が下僕になると申すなら、そこに居るアスタロトと同等の地位を遣ろう。それに見合った下僕も付けるぞ。どうだ? 悪い話ではなかろう」
アスタロトが思わず顔を上げた。
それ以上に驚きを見せたのが、ゴブリン達だ。
今押さえている相手が、自分達が使える相手になるかも知れないのだから、当然の反応と言えよう。ただ、
「笑わせるでないわ。我は魔王となるのだ。どんな地位を遣ると云われようが、誰の下僕になるつもりは毛頭ない」
ルシフェルの返答に、ホッとした表情を見せる。
「お前が魔王になるだと? 堕ちて来たばかりで、それもたった一匹で何が出来る? それよりも私の下僕になった方が利口だと思うが。そもそも、お前が死ぬも生きるも私の思うままぞ」
「それはどうかな」
ルシフェルを押さえているゴブリンの体が徐々に持ち上がって行く。
慌てて押さえつけるが、それとは逆に持ち上がって行く。
上半身が上がった所でルシフェルが両腕を激しく振るうと、取り付いていたゴブリン達が勢い良く飛ばさる。
更にそのまま一気に立ち上がると、背中に乗っていたゴブリンも後方に飛ばされてしまった。
最後に目の前で呆然と立ち尽くすゴブリンを五指の爪で引き裂き、屍と化した。
「貴様が長々と話しておる間、ゆっくりと休ませて貰った」
両腕と両足の関節部分の傷は完全に塞がり、腹部の傷も内臓が蠢いているのがまだ見えているが、先程よりかなり塞がっていた。
ルシフェルがサタナエルに向かって足を踏み出そうとするのと同時に、アスタロトが背中の槍の柄に手を掛けつつ立ち上がる。
「手を出さずとも良い」
サタナエルの言葉に、アスタロトの動きが止まる。
「これほど私を喜ばせてくれる奴は初めてだ。直々に私が相手をしてみたくなった」




