警視庁退職
明治25年(1892年)18年世話になった警視庁を退職する。入庁した頃とは全く異なる顔ぶれであった。
「何ぃ!?警視庁を辞めた?」
「安心して下さい杉村さん。次に働く場所の面倒は見て貰いましたから。」
「警部殿はもう一般人になるのだな?」
「ええ48歳になりましたからね。現場の任務にも満足にいかない事もありましたからね。」
「稽古が足らんのでは?」
「よして下さい杉村さん。あの頃には戻れませんよ。」
「アラフィフだしな。」
「時代は変わって行くのじゃのう。」
「杉村さんだってもう無理出来る体では無いでしょうに?私はもう充分役目を果たしました。これからは若い奴等に指南をしていきたい。杉村さんの様に。」
「それもまた一興か。」
「私の一番の戦友である尾形俊太郎も警視庁を去っています。それが退職の主な理由です。頑張って残る事も出来たのですが、やはり体力と気力の衰えは否めません。」
「無理して新政府に尽くしたのは新選組では藤田警部と尾形だけだよ。」
「別に無理などしてはおりません。それなりのポストとミッションを彼等は差別する事なく私や尾形に与えてくれました。最初の方は抵抗はありましたが、目指すべき道は同じベクトルにありました。ですから直ぐに警視庁の仕事にもついて行く事が出来ました。」
「まぁ、コネで入った割にはよくやったんじゃねーか?」
「確かにそれは否定できませんが、奇しくも私には3人の息子と妻がおりました。彼等の成長が一段落した今、その父親の呪縛から解放されたのです。」
「立派な男子を3人も。笑」
「退職にあたっては妻の時尾とも熟議をしました。」
「奥さん相当反対しただろう?」
「ええ。まぁ相当驚いてはいました。」
「で?次の働き口は決まっているのか?」
「はい。東京高等師範学校の門番(守衛)の仕事を警視庁から派遣紹介してもらいました。」
「悪くない話だな?」
「田舎に渡り夫婦みずいらずで自給自足生活を送る事も夢に見ていましたが、都会暮らしがすっかり身についてしまった俺には、文明開化の流れに逆らう事は出来ない様です。」
「生粋の江戸っ子の貴様が何を言うかね?」
「はい。ですからこうして堅実に都会で文明のおこぼれを貰いながら、生きている訳です。」
五郎はこうして18年の警視庁勤務にピリオドをうったのである。少しも躊躇う事なく。




